2人での日常

俺は声をかけてきた奴、クラムの方を見た。

腰をかけたままなのは……やめといた方がいいか。

あまりクラムを怒らせたくないから、

柵から降りて向かい合う。


あいつは本当に、どうしても嫌いだ。

あいつは俺のことを

馬鹿にしてくるだけならいいんだけど、

マリーのことを悪く言うから嫌いだ。

俺は多分あいつを好きになる日はこないと思う。


「おい!無視すんな!」


俺はクラムの話を聞いてなかったんだろう。

気づいたらクラムから、

頰を叩かれそうになっていた。

あっやばい。

俺は俺に向かってくる手を見て目をつぶった。

……あれ?いつまで経っても痛くない。

俺は警戒しながら目を開ける。

そこには、クラムの腕を掴んだセラがいた。


「すまない、クラム君……だったかな?

 私の友人を傷つけようとするのは

 やめてくれないか?はっきり言って不快だ」


「でも、セラさん。

 こいつは見初められてなくて……」


「そんなものは関係ない。

 私にとっては大切な人だ。

 なんだ?

 私も大して高い地位を持ってはいないが……

 君は口出しできるほどの立場なのか?」


「うっ……」


凄い。クラム、完全にセラの気迫に圧倒されてる。

って違う!俺が原因でこんなことになったんだ。

俺が止めないと。


「ちょっと、待ってくれないかな?」

「シンも少し静かにしていて」


「あっはい」


セラに目を向けられた瞬間、

体が震えて止まらなくなる。

俺は怖くなって後退りをした。

まあ、そうだよね。

クラムが押されてるのに

俺がどうにかできるわけないか。

止めに入ろうとして

セラの視線がこっちに向いたときは、

正直言って死ぬかと思った。


「おっお前、今度は覚えてやがれよ!」


クラムも俺と同じで死を感じ取ったのか、

すぐに離れていった。

……俺が言うことじゃないけど、

うん、それが正しいよ。

少しクラムに同情していると、

セラがため息を吐いて言った。


「なんとかなるものだね。

 褒められたことではないけど、

 昔から気迫だけはあったのがよかったんだろう。

 おかげで弱気でいてくれた」


「はぁー」


セラはさらっと言っているけど、凄いことだ。

クラムはこの村の中でもよく威張っているから、

普通なら気迫に押されるなんてことないはずだ。

上手く表現できなくて、口に出せない。


「シン、すまない。五月蝿かっただろうか」


「そんな、元はと言えば俺のせいなんだ。

 セラが謝ることじゃないよ。」


「そうか。

 ……そうだ、シンの家で少し休憩できるか?

 私もさっきのことで少し疲れたんだが」


「それなら俺は歓迎するよ。

 今ならマリーもいるだろうし、

 仲良かっただろ?」


「そうだね。私もマリーと話したいかな。

 マリーがそう思っているかは分からないけどね」


俺とセラは家に向かう。

広場から家まではそう離れてないから

時間はかからないはずだ。


俺とセラは家に着いてドアを開けた。


「ただいまー。……あれ?マリー、いないのー?

 家でのんびりしてるって言ってなかったっけ。

 マリーもどこか出かけたのかな?」


「シン、これを見てくれ」


俺は家にマリーがいなくて動揺していると、

セラが机の上に何があるのを見つけたみたいで

俺にそれを見せてきた。

これは、書き置きか。


『急に出かけてごめんなさい。

 お父さんが呼んでるらしいから、行ってきます。

 しばらく家には帰れないと思う。

 多分、滅日が終わる前には

 一緒に帰って来れると思うよ。


                   マリー』


そうか、なるほど。了解だ。

しばらく1人暮らしか。それにしても、

今まで、

俺もマリーも王国に呼ばれたことはなかったけど、

何かあったのか?


「そうか、マリーはいないのか。少し残念だ」


「セラ、ごめん。マリーがいるなんて言って、

 期待させちゃったよな」


「いや、しょうがないよ。シンが家を出てから

 マリーも王国に向かったんだ。

 誰でも気づけなかったはずだ」


「そう言ってくれたら助かるよ」


セラがそれほど気にしないでくれて良かった。

本当は気にしてるかもしれないけど、

そう言ってくれるだけでも自分の肩は軽くなる。

マリーの方も

父さんがいるんだったら心配しなくていいか。

それで、どうしよっかな。

これからご飯は俺が作ってその後は

……何も思いつかない。

どうすればセラに楽しんでもらえる?

こんなときマリーだったらどうしてるかな?


セラが微笑んで言った。

「そんな、何かしようとしなくてもいいんだよ。

 ただ話すだけでも、昼寝でも、

 無言でもシンが私としたいと思ってしたのなら

 それでいいんだ。

 シンが私としたいと思ったことを教えてくれ。

 さっきも言っただろう?」


「……セラが商人やってて見た事とか聞きたいし、

 俺がこの村であった事とか聞いて欲しい」


「それでいい」


俺はセラと世間話をした。

俺が早起きな子どもとの狼ごっこで

一方的に負け続けたこと。

セラが聖国で神官に異常な値段を払わされたこと。

俺の料理が下手で2人で笑ったり、

何を話せばいいか分からなくなって

ぼーっとしたりした。


そんなこんなで今日の俺はベッドに飛び込んだ。

ちなみにセラは宿屋に泊まるみたいだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る