憧れの友達

憧れの友達

俺は家を出て村の入り口に向かっている。

俺が今から会うセラは行商人をやっていて、

この村に売りにくる行商人はなかなかいないので、

友だちとしても、

商人としても、世話になっている。


……よく考えたら俺ってマリーにもセラにも

世話になってるけど、これって結構やばいな。

さっき兄だからなんだって言ってたのに

実際には頼りきりじゃないか。

帰ったらもっと何か家事をさせてもらおう。

それで変わるかは分からないけど、

他にできることなんてないしな。


そんなことを考えているうちに入り口に着いた。

そこにはすでにセラがいて

村の人と取り引きをしている。

あの人は値引きしてもらうために

かなり粘る人だからなー。

邪魔になるかもしれないから離れておくか。

俺は近くにある木に寄りかかって待とうとしたら、

セラから声をかけられた。


「私のことは気にしないで。そこで待っててくれ」


「え?でも迷惑になるだろ。

 それに帰るわけじゃないぞ。そこで待つだけだよ」


「それでもだ。

 私からあまり離れようとしないでくれ。

 私が商談している間に誰かに商品を

 盗まれてしまうかもしれない。むしろ

 見ていてくれた方が安心できるよ。

 ……すみません。話が途切れてしまいましたね。

 また話を進めさせてもらいます」


一気に言うことを言われてしまった。

これ以上セラに話しかけたら逆に邪魔になる。

俺は近くの木に行くことも許されずに、

その場でセラの方を見る。

ポニーテールに纏められた綺麗な黒髪。

それとは対照的に

白い肌とすらっとしている身体。

それに加えてあの毅然とした態度だ。

美人だし、商売も成功している。


本当に凄いよな。

成人してからまだ2年経ってないはずだ。

俺はこんななのに、セラみたいになってみたいよ。

あっ売れた。


セラは商品を渡すと、すぐに店じまいして

こちらに向かってくる。


「本当にすまない。

 まさかあんなに時間がかかるとは

 思わなかったんだよ。

 シンが来るまでに

 1人ぐらい捌けるはずだったんだけど、

 あの人が来るのは予想外だったんだ」


まあ、そりゃそうだよ。あの人じゃなければ

多分すぐに終わってた。

あの人は減らせると思ったら

いけるとこまでいこうとするからな。

それにどれだけ時間がかかるかなんて

考えていない。

むしろあの人は自分が時間がかかって苦労した分を

値引きだけで取り返すから、一種の魔物だろ。


「別に、気にしてないよ。

 それより、今日はどうする?

 俺はセラを楽しませられるようなこと

 何も思いつかなかったんだけど」


「その気持ちだけでも十分嬉しい、ありがとう。

 私はシンとなら何でも楽しいよ。

 散歩でも、昼寝でも何だって構わないから、

 シンは、何がしたい?」


「それなら……散歩でいいか?

 残念ながら俺はセラのことを考えて選べる程

 頭はよくないからな?」


「だから、シンがしたいことをすればいいんだよ。

 シンのしたいことが私のしたいこと。

 そう言うものだって思ってくれ」


「そっか。分かったよ。

 それなら、散歩をしよう」


そうして、

俺とセラはのんびり散歩をすることにした。


「そういえば、セラって何でこの村まで来たんだ?

 今までっとは言っても

 初めて会ってから一年とちょっとか。    

 滅日の頃は来ないって言ってただろ?」


「あー。それはね、

 別に深い理由があるわけじゃないよ。

 それが、私が間違えて商品を仕入れ過ぎてね……

 どうにかして捌き切ろうと思ったときに

 この村で売るのが一番いいと思ったんだ。

 最悪ここに泊まっても大丈夫だしね。

 シンのお父さんも

 この村に帰ってくるんだろう?」


「うん、そうだよ。この村は滅日でも

 最近は全く被害は出てないからな」


「本当なら見初められてないシンは

 王国に行くのが一番安全なはずなんだけどね。

 両親は王国で暮らしているんだろう?

 それならできないことはないはずだよ」


「そうだけど、ここが一番落ち着くからな」


何でマリーもセラも俺のことを

『見初められてない』

なんて言っているのか説明しよう。

見初められてるって

誰にだよってまず思うが、神にだ。

別に神を見たことあるわけじゃないから

本当にいるのかは分からないけどな。

人間は産まれたときに魔力を持っていない。

だから、簡単に滅びるはずの種族だったんだけど、

ある日魔力を生み出して操るようになったり、

突然剣とか弓とかの技量が発達した。

これを神に見初められたんだと

昔の人は思ったらしい。


要するに、俺は魔力を持ってないし、技能もない。

別に俺みたいに見初められてない奴は

いくらでもいる。

みんな神に気に入られてるって、

それはどうなんだと思うし、

俺は気にしてないんだけど、いるんだよな。

馬鹿にしてくる奴。


俺は散歩をしていると、少し疲れてきた。

歩いてるだけなのに、俺って本当に体力ないよな。

ふと隣を見るとセラと目が合った。


「どうした?……疲れたのか。

 それならあと少しで広場だから、そこで休もう」


「ごめん。ありがとう、助かるよ」


セラにも気を遣わせてしまった。

いつか、何かしらで恩を返さないと。


俺とセラは広場に着いて、柵に腰をかけた。

疲れたとは言っても少しだけだから、

ちょっとすればまた歩けるかな。

そう思っていたとき、


「おいおい、シンじゃないか」


面倒な奴に絡まれた。








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