よくできた妹

俺は太陽の光を浴びて目を覚ました。

……もうあと1週間か。


俺は体を起こして窓から外を見た。

そこにはいつも通りの景色が広がっている。

山と森に挟まれていて、自然が豊かな村。

下の方を見ると、

起きるのが早すぎる子ども達が走りまわっている。

あいつらは、何であんなに元気なんだ?

あんなに走りまわってるのはここ何年かで

あいつらだけなのは間違いない。


俺はベッドから降りてそのまま部屋を出て、

階段を降りていった。

俺が階段を降りると、

キッチンの方からマリーに声をかけられる。


「兄さん、おはよう。いつもより早いね」


「そうか?いつも通りだと思ってたんだけど。

 まあ、おはようマリー」


マリーは俺の妹で、

いつもご飯を作ってくれている。

昔は母さんが作ってたんだけど、

今は父さんも母さんも王国で働いてるから

家に帰って来ることはあまりない。

あまりとは言ったけど、一ヶ月に一、二回だから

俺達より親と会えない人はもっといると思う。


昔、王国で働くことが決まったときは俺が

両親の代わりになろうと思って頑張ろうとした。

したはずだ……

そりゃ、マリーだってその時は小さいし

俺がしっかりしないと不安にさせると思ったから。


そう決めたのに、妹が当たり前みたいに

朝ご飯を作って後から起きてくる兄なんていう

傍から見たら駄目な人間になっている。

言い訳をさせて欲しい。


両親が家を出た次の日。

昔のマリーは、

絶対に俺より後に部屋を出てきてたから、

俺が朝ご飯を作ろうとしていた。

だけど、階段を降りたらもうマリーがいて

ご飯ができてた。

マリーが料理したところは見たことがないから、

酷い話だが、あまり期待してなかった。

だけど、母さんの作ったご飯と、

味のつけ方が同じなんだろう。

昔から食べて来たような感じがして、

凄い美味しかった。

この話はご飯だけじゃない。

洗濯だって掃除だって、

なんでもできるようになった。

いつも手伝ってたわけでもないのにだ。


要するに、両親がいなくなった瞬間

マリーがとんでもなく優秀になった。

俺も黙って見ているわけにはいかないから

手伝おうとしたけど、手際が良すぎて

俺が手伝うと逆に邪魔してしまう。

だから俺はマリーにお願いして

家の掃除を任せてもらうことになっている。


俺はマリーからサンドイッチをもらって

椅子に座る。

このサンドイッチも普通のものじゃなく、

昔母さんが、私の特製ソースを作ったって

自慢していたサンドイッチと似た味がする。

私の特製だって、

レシピは秘密にしていたはずなのに、

それをかなり再現できてるマリーは

本当に凄いとしか言えない。


そんなことを考えてるうちに、

マリーが自分の分のサンドイッチを持って来て、

俺に話しかけて来た。


「ねえ、兄さん。

 聞きたいことがあるんだけどいい?」


「えっ?俺は別に良いけど、どうした?」


「えっと、あと1週間で……滅日でしょ?

 どうするのかなって」


「どうするって……そんなのいつも通りだろ。

 父さんと何人かの大人が来て対処する」


最後に起きたのは……5,6ヶ月前か?

滅日ほろびというのは、ときどき起きる現象のことだ。

朝で晴れてるのに

何故か視界が暗くなって少し気分が悪くなる。

それにその間は魔物の力が強くなって凶暴になる。

そのせいで今まで発展する前までは何ヶ所もの村が

消え去る大災害だったらしい。

そりゃ、いつもより戦いにくいのに

魔物は強くなって数もいるんだからしょうがない。

あっ別に朝なのに暗いってだけで、

夜でも滅日は起きるぞ。


今では人間も強くなって、

対抗できるようになってきている。

全ての地域で、

完全に防げているわけではないけどな。

この村では毎年来る人達で

完全に対処できているけど、

まぁ、これには2つ理由がある。


まず一つ目は、周りの環境だな。

この村の周りにはそもそも魔物が少ない。

どれくらいかと言うと、滅日じゃなければ

警備すらいらないぐらい。


それと二つ目、父さんが単純に強い。

父さんも母さんも別に王国の方が儲かるとか

そんな普通な理由で王国にいるわけじゃない。

元々は2人で冒険者をしてたんだ。

その時に王国から実力を認められて、

王家に仕えないか聞かれたらしい。

王女の護衛として母さんが、父さんは

魔術師部隊のどっか少し偉い役になっている。

父さんの方は何だったかいまいち覚えてないけど、

何番隊かの隊長だったと思う。


要するに、魔物の数が少ないから

父さんだけで十分戦えるってことだ。


「でも、兄さん。何があるか分からないんだよ?

 お父さんは強いけど、

 それでも負けるときは負けるよ」


「……マリーは何が言いたいんだ?」


父さんが死ぬみたいなことを言われてるような気分であまり良い気はしない。

本当にマリーが伝えたいことがよく分からない。

マリーがそんなことを言うのは初めてだ。


「いや、別に言いたいことがあるわけじゃないよ。

 ただ、1つの物に信頼しすぎることは

 良くないよって。私だって助けになるよ?」


「そうか。嬉しいけど、大丈夫だよ。

 いつも家事を頑張ってくれてるんだから、

 危ないときぐらいは自分のことを優先してくれ」


「でも兄さんは見初められなかったんだよ。

 危ないからこそ兄さんを助けたいんだよ」


「見初められたとか、そんなの関係ない。

 俺はマリーの兄だ。身勝手だけど、兄だから

 そういうときぐらいは自分でやりきるよ」


「そっか……じゃあこの話はおしまい。

 今日はセラちゃんが来る日だよね。

 私は家でのんびりしてるから話してきなよ」


「分かった。行ってくる」


俺はさっきのマリーの様子に少し

違和感があった気がしたけど、そのまま家を出た。

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