宝物(たからもの)

はるか大昔。かつて存在した強大な帝国。

その国に住む、中流家庭の親子が話をしていた。


「パパ、ずっと前から気になっていたことがあるんだ」


「うん?どうした、不思議そうな顔をして」


我が子の表情から、父は強い好奇心を感じつつ、応答する。


「リビングに置いてある、あのきれいな剣のことだよ。すごいものなの?」


「ああ、あれは我が家の宝物なんだ」


息子は不思議そうな顔を見せた。理由を伝えれば、納得するかもしれないと考え、父は続けた。


「これはパパのおとうさん、つまりおじいちゃんから受け継いだものなんだ。何十年も前の剣だけれども、一度も使ったことがないんだよ」


どうにも、納得がいかない様子の息子。父に質問した。


「悪いヤツを切って、やっつけるための武器なんだよね。どうして、使われない剣が宝物になるの?」


父は誇らしげに、こう話した。


「死んだおじいちゃんは軍人だった。パパも同じく軍人として働いているけれど、本当は誰も傷つけたくはないんだ。長い間、この国はどことも争わなかったから、あの剣は血で汚れずに今もここにある。あれは貴重な平和の象徴なんだ」


息子は今の説明で理解してくれただろうか。そんなことを父が思っていると、戸をノックする音が聞こえた。


戸を開けると、父の上官が立っていた。


「報告をしに来た。今日は君の兵役が終わる日だ。25年間、お勤めご苦労さま。君の父上の代から数えたら50年か。実戦を経験せずに退役する兵士というのも珍しいものだよ」


上官がそう告げると、息子が家から出てきた。


「ねえ、おじさん。パパは立派な軍人だった?」


無礼な言葉遣いはまずい……。父が詫びようとする前に、返答があった。


「もちろん、立派な軍人だったよ。戦いがなくても、毎日欠かさずに訓練をしていたんだから。家族を守りたい気持ちがあったからこそ、頑張れたんだろうね」


その言葉が息子を笑顔にしてくれた。父への尊敬の思いがこもった笑顔だった。


「パパは僕にとって、最高の宝物だよ!」

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「暴力」「平和」とわたしたち 荒川馳夫 @arakawa_haseo111

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