エピローグ

 ――真木に生まれた新しい決意を知るよしもない教授は一呼吸置き、続けた。


 ただ、赤いインジケーターが途切れてしまうと、いわゆる覚醒剤の中毒患者のように禁断症状が出る。一度AIが不具合を起こし、インジケーターが途切れてしまった事がある。


 途端に彼は、ボリボリと爪を噛みながら、


「憤怒ッ! 憤怒ッ! 今日は調子が悪いのですねッ! 私はキモアイではないのですねッ! 六地蔵なのですねッ! リクオでございます! 六地蔵リクオでございまっすッッ! 低能サタンビッチは虐殺すべきなのですねッ! アマチュアは好きに書くんじゃああッ!」


 そう叫び出した。

 幸いシステムがすぐに復旧したため、それ以上の事態にはならなかったがね。


 君はこれから編集者として、彼が陥っている「読者との深い溝」を、彼に理解させてやってほしい。

 彼の様子を見ながら、徐々に実際のPV数やコメントなどの反応に近づけていく。

 そして赤いインジケーターが灯らずとも彼が平静でいれた時、彼は治癒したという事になる。


 教授が語り終え、広い教授室に静寂が満ちた―――。

 


 真木は、強い決意を目に宿し、


「――全力で努めさせて頂きます」そう言った。

  

 真木の決意を悟ったかのように、教授は満足気にうなずいた。


「今後のために、彼の普段の様子を見てもらおう」 

 

 教授がマウスを操作し、モニターを切り替えた。

 

 壁のモニターの中でも一際大きなモニターに、リアルタイムの彼の部屋が映し出された。

 

 六地蔵リクオが喜色満面で、一心不乱にキーボードを叩いている。マイクが音声をひろう。


「ヒャッハーーーッ! 今日もたくさん読まれているのですねッ! ファンが押しかけてきているのですねッ! ファンアートが届いたのですねッ!! 好きなように書いた長編が読まれとるんじゃあッッ! 突発的に短編も書きたくなるんじゃあ!! 新作も投下したんじゃあああッ!!」

 

 そう叫ぶ六地蔵の姿は、まるで山奥の自然温泉につかる猿のように幸せそうだった。


 教授がモニターに注いでいた視線を、ゆっくりと真木の方に向けた。

 

 そして少しだけ微笑み、


 「まだまだ時間がかかりそうだね――」そう言った。


 

                 (完)


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ウェブ小説に狂った男 まるっこ @marumarunomaru

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