艶やな白菊
- ★★★ Excellent!!!
日本文学とは詩詞によって形成されたもの、と論じた丸谷才一の『日本文学史早わかり』。西洋の文学史の方法では、日本文学史はうまく読み解くことはできぬ、との見解からものされた卓抜した傑作評論。それを本作を再読し、思いおこされました。
詩詞と散文はちがう、という反論は当然ありますでしょう。そういう方は、まず謙虚に、虚心に向き合う(読む)べきではないでしょうか。丸谷才一の評論を。泉鏡花の作品を。さすればその作品が日本文学の脈々たる系譜を受け継いでいることを看取できるはずです。その在り方からしても。当時はすでにドストエフスキーやトルストイが翻訳されてあって、文学をする者の必読となっていたようですけれども、泉鏡花はあえて時流に背をむけられましたからね。
それでいて観念的な美文に流れず、写実的であったり視点の切り替えーー映画から導き出した手法であるようですーーだの語りのからくりだの諧謔だのがあったりもして、決して古臭くないし、けざやかに訴えてくるものがありますね。なにより、おもしろいですよね。徒花のようでいて、正当な白菊。
決して朽ちることのない、嬋娟たる佳品です。