片目女郎
海石榴
第1話 遊女の意気と張り
江戸寛政の頃、吉原遊郭の笹屋という見世に、清花という片目の美しい遊女がいた。もし、両眼そろっていたら、前代未聞の美人と称されたであろうことは間違いない。
ある日、清花お抱えの笹屋に小間物屋が商いに訪れた。小間物屋は櫛やかんざしなどの品物をあれこれ並べた。その中に、美しいべっ甲の櫛があった。丁度、櫛が欲しいと思っていた清花は、それを手に取った。
すると――。
小間物屋が片目女郎の清花に言う。
「これは金十五両。太夫でもない端女郎のあなたには歯が立つような代物ではございません」
この嫌味に、
「左様でございますか。では、お金は工面いたしますから、明日またこのべっ甲の櫛を持ってきてくださいな」
と、清花はにっこり笑って応えた。
次の日、小間物屋が行くと、清花は十五両払い、べっ甲の櫛を取るなり噛みくだいて
「どうだい、小間物屋さん。端女郎のわっちでも、これこの通り、歯が立つのさ」
吉原女郎の意気と張りを見せつけたのである。
この清花の胸のすくエピソードは、すぐ瓦版となって江戸っ子の知るところとなった。無論、やんややんやの喝采である。それからが大変であった。
「清花をひと目見たい」
「美しい片目女郎の清花と一夜をともにしたい」
多くの江戸っ子や旦那衆が笹屋に登楼し、清花を指名した。
のちに清花は太夫となり、その意気と張りで江戸っ子に慕われつづけた。
――了
片目女郎 海石榴 @umi-zakuro7132
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