セロひきのゴーシュ
宮沢賢治/カクヨム近代文学館
セロひきのゴーシュ
ゴーシュは
ひるすぎみんなは
トランペットは
ヴァイオリンも
クラリネットもボーボーとそれに
ゴーシュも
にわかにぱたっと
みんなぴたりと
「セロがおくれた。トォテテ、テテテイ、ここからやりなおし。はいっ。」
みんなは
「セロっ。
みんなは
「
みんなはまたはじめました。ゴーシュも
「ではすぐ
そらと
「だめだ。まるでなっていない。このへんは
みんなはおじぎをして、それからたばこをくわえてマッチをすったり、どこかへ
ゴーシュはそのそまつな
その
それから
そのときだれかうしろの
「ホーシュ
ゴーシュはねぼけたように
ゴーシュの
「ああくたびれた。なかなか
「なんだと。」
ゴーシュがききました。
「これおみやげです。たべてください。」
ゴーシュはひるからのむしゃくしゃを
「だれがきさまにトマトなど
すると
「
「
セロひきはしゃくにさわってこのねこのやつどうしてくれようとしばらく
「いやごえんりょはありません。どうぞ。わたしはどうも
「
ゴーシュはすっかりまっかになって、ひるま
「ではひくよ。」
ゴーシュはなんと
「
「トロメライ、ロマチックシューマン
「そうか。トロメライというのはこういうのか。」
セロひきはなんと
すると
「
「だまれ。これから
ゴーシュもすこしぐるぐるしてきましたので、
「さあこれで
といいながらようようやめました。
すると
「
といいました。
セロひきはまたぐっとしゃくにさわりましたがなにげないふうで
「どうだい。ぐあいをわるくしないかい。
「ははあ、
セロひきはいいながらいきなりマッチを
ゴーシュはしばらくおもしろそうに
「
セロひきは
「
ゴーシュが
「
ゴーシュがいいました。
「
かっこう
ゴーシュは
「
するとかっこうがたいへんまじめに、
「ええ、それなんです。けれどもむずかしいですからねえ。」
といいました。
「むずかしいもんか。おまえたちのはたくさんなくのがひどいだけで、なきようはなんでもないじゃないか。」
「ところがそれがひどいんです。たとえば、かっこうとこうなくのと、かっこうとこうなくのとでは
「ちがわないね。」
「ではあなたにはわからないんです。わたしらのなかまならかっこうと一
「
「ところが
「ドレミファもくそもあるか。」
「ええ、
「
「
「うるさいなあ。そら三べんだけひいてやるからすんだらさっさと
ゴーシュはセロを
「ちがいます、ちがいます。そんなんでないんです。」
「うるさいなあ。ではおまえやってごらん。」
「こうですよ。」
かっこうはからだをまえに
「かっこう。」
と一つなきました。
「なんだい。それがドレミファかい。おまえたちには、それではドレミファも
「それはちがいます。」
「どうちがうんだ。」
「むずかしいのはこれをたくさん
「つまりこうだろう。」
セロひきはまたセロをとって、かっこうかっこうかっこうかっこうかっこうとつづけてひきました。
するとかっこうはたいへんよろこんで
ゴーシュはとうとう
「こら、いいかげんにしないか。」といいながらやめました。
するとかっこうは
「……かっこうかっこうかっかっかっかっか。」
といってやめました。
ゴーシュがすっかりおこってしまって、
「こらとり、もう
「どうかもういっぺんひいてください。あなたのはいいようだけれどもすこしちがうんです。」
「なんだと、おれがきさまに
「どうかたったもう
かっこうは
「ではこれっきりだよ。」
ゴーシュは
「くっ。」
とひとつ
「ではなるべくながくおねがいいたします。」
といってまた一つおじぎをしました。
「いやになっちまうなあ。」
ゴーシュはにが
「かっこうかっこうかっこう。」
とからだをまげてじつに
ゴーシュははじめはむしゃくしゃしていましたがいつまでもつづけてひいているうちにふっとなんだかこれは
「えいこんなばかなことしていたらおれは
とゴーシュはいきなりぴたりとセロをやめました。
するとかっこうはどしんと
「かっこうかっこうかっこうかっかっかっかっかっ。」
といってやめました。それから
「なぜやめたんですか。ぼくらならどんな
といいました。
「
ゴーシュは
「ではお
かっこうはまた
「だまれっ。いい
ゴーシュはどんと
するとかっこうはにわかにびっくりしたようにいきなり
「なんだ、ガラスへ、ばかだなあ。」
ゴーシュはあわてて
「いまあけてやるから
ゴーシュがやっと二
「こら、
とどなりました。すると
「
といいました。ゴーシュはその
「では
といいました。すると
「だってぼくのお
といいました。そこでゴーシュもとうとう
「
「ぼくは
「どこにも
「そら、これ。」
「それでどうするんだ。」
「ではね、『ゆかいな
「なんだゆかいな
「ああ、この
「ふう、
ゴーシュは
すると
おしまいまでひいてしまうと
それからやっと
「ゴーシュさんはこの二
ゴーシュははっとしました。たしかにその
「いや、そうかもしれない。このセロは
とゴーシュはかなしそうにいいました。すると
「どこが
「いいともひくよ。」
ゴーシュははじめました。
「あ、
ゴーシュはぼんやりしてしばらくゆうべのこわれたガラスからはいってくる
「おはいり。」
といいました。すると
「
「おれが
ゴーシュはすこしむっとしていいました。すると
「
「なんのことだかわからんね。」
「だって
「おいおい、それは
ゴーシュはあきれてその
すると
「ああこのこはどうせ
ゴーシュはびっくりして
「なんだと、ぼくがセロをひけばみみずくやうさぎの
「はい、ここらのものは
「するとなおるのか。」
「はい。からだじゅうとても
「ああそうか。おれのセロの
ゴーシュはちょっとギウギウと
「わたしもいっしょについて
おっかさんの
「おまえさんもはいるかね。」
セロひきはおっかさんの
「おまえそこはいいかい。
「いい。うまく
こどものねずみはまるで
「
ゴーシュはおっかさんのねずみを
「もうたくさんです。どうか
といいました。
「なあんだ、これでいいのか。」
ゴーシュはセロをまげてあなのところに
「どうだったの。いいかい。
こどものねずみはすこしもへんじもしないで、まだしばらく
「ああよくなったんだ。ありがとうございます。ありがとうございます。」
おっかさんのねずみもいっしょに
「ありがとうございますありがとうございます。」
と
ゴーシュは
「おい、おまえたちはパンはたべるのか。」
とききました。
すると
「いえ、もうおパンというものは
といいました。
「いや、そのことではないんだ。ただたべるのかときいたんだ。ではたべるんだな。ちょっと
ゴーシュはセロを
「あああ。ねずみと
ゴーシュはねどこへどっかり
それから
ホールではまだぱちぱち
「アンコールをやっていますが、
すると
「いけませんな。こういう
「では
「だめだ。おい、ゴーシュ
「わたしがですか。」
ゴーシュはあっけにとられました。
「きみだ、きみだ。」
ヴァイオリンの一
「さあ
みんなもセロをむりにゴーシュに
「どこまで
ゴーシュはすっかり
それからあの
ところが
ゴーシュはやぶれかぶれだと
するとみんなが
「こんやは
ゴーシュは
「ゴーシュ
「よかったぜ。」
とゴーシュにいいました。
「いや、からだが
その
そしてまた
「ああかっこう。あのときはすまなかったなあ。おれは
といいました。
セロひきのゴーシュ 宮沢賢治/カクヨム近代文学館 @Kotenbu_official
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