目玉焼きの昔話
達見ゆう
目玉焼き、嗚呼目玉焼き、目玉焼き
えー、昔々、ある国がありまして、その国王が突然言い出しましたことから始まります。
「余は目玉焼きが食べたい」
「国王様、目玉焼きなら毎朝出しておりますが」
側近が疑問を呈しますが、国王は頭を振って否定したのでございます。
「ありとあらゆる卵の目玉焼きが食べたいのだ。鳥に限らずドラゴンにワイバーンなど卵生の魔物たちの卵もだ。そうだ、立て札だけではなく、ギルドを通して冒険者達に頼もう。彼らなら何か持ち帰るだろう」
かくして、各地のギルドや立て札に国王直々の依頼が貼り出されたのでございます。
『この世で一番美味い目玉焼きを作った者に金貨三百枚を出す。鳥はもちろん、昆虫、爬虫類、魔物、生き物の種類はいっさい問わない 国王』
国民も冒険者達もざわつき方と言ったら、そりゃもう、すごいものでした。金貨三百枚なんてパーティーや村全体で山分けしても一生豪遊して暮らせる金額でありますから。
まず、動き出したのは冒険者たちでした。
最初にギルドに時間魔法を使える魔法使いの求人募集が殺到しました。卵の時間を止めて鮮度を保つためと万が一の孵化してしまう事故を防げるためでございます。
時間魔法が使えないパーティーは長期保存可能な卵を狙うことにしました。孵化の期間が長いものならなんとかなるものですから。しかし、崖の途中など厳しい場所に生む魔物も多いものです。沢山のパーティーが脱落しました。ま、下世話に言えば殉職したのですな。
フェニックスの卵を狙ったパーティーなんぞは氷魔法と水魔法を強化したのはいいのですが、あっけなく母鳥の炎により全滅しました。そもそも常に火の中にある卵が焼けるのか疑問でしたが。
一方、農民たちは今までの鶏を丁寧に育てるもの、エサを贅沢にするもの、鶏以外の食用の鳥を養殖する方法を選びました。ま、正攻法ですな。
高いエサ代で赤字になる農家も続出しましたが、なんせ全ては金貨三百枚のためであります。
さて、困ったのが冒険者でも農民でもない町人たち。ちょっと小金のある商人はハンターを雇ったり、お金の無い人は爬虫類を探し求めるものもいました。しかし、まあ見ても解りますよね。トカゲやカマキリや蝶のように普通の爬虫類や昆虫の卵は小さくて、そもそも目玉焼きにむきませぬ。結局、大損しただけでございました。
そんな中、いよいよコンテストの当日、ありとあらゆる目玉焼きが並びました。定番の鶏、うずらの他にはカラスにダチョウ、ペンギンなどの野鳥の
あたしゃ、これだけ揃えば充分と思いますが、国王は「これだけか」と小声で言ったのを側近は聞き逃しませんでした。
ひと通り試食を終えて、国王は結果を発表しました。
「やはり、いつものコックが作る目玉焼きがうまい」
当然と言いましょうか、翌日、国民の暴動が起きました。国王は軍を出動させましたがコンテスト参加者も多かったため士気は低く、あっという間に暴動側に寝返り、国は滅んでしまいました。
「雉も鳴かずば撃たれまい」とはよく言ったものでございます。お後がよろしいようで。
目玉焼きの昔話 達見ゆう @tatsumi-12
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