明日の君に逢いに行く
初夏、蝉の泣く声が絶え間なく響く休日。
2人でペアのアクセサリーを買うために
近くの店に足を運んだ。
買ったのは三日月のブラックとシルバーの
ペアネックレス。
シルバーを美邪がブラックを俺が付けた。
その後はぶらぶら遊び歩いた。
夕暮れ頃、その日は別々に帰ることになった。
美邪と俺の家は分かれ道で寸断されている。
帰るのが遅くなるからと言ってそうなった。
それでも一緒に行けばよかった。
美邪の家までは十字路が1つある。
そこで事故があったと家に着いたとき
母さんに言われた。
その時はまだ大丈夫だって思っていた。いや、
浮かれて何も考えていなかったのかもしれない。
スマホが鳴って俺を呼ぶ。
「もしもし、美邪?」
「もしもし、美邪の母です」
返ってきたのは美邪に似ていたが違う声だった。
「美邪がね、今日の事故に巻き込まれて、
今集中治療室に居るの」
その言葉にスマホが床ゴトンッと鈍い音を立てて落ちる。
「病院の場所、送っておくね」
そのまま電話は切れた。
俺は急いで病院に向かった。
「美邪に会いに行ってくる。」そう言って近くのバス停まで走る。バスを使っても病院に着くまで10分ちょいかかる。
俺は病院に着いてそのまま病室に向かう。
病室に着いた時家族に囲まれて静かに眠る美邪。
「美邪?」
頬に触れた手はすぐに止まり、視界が滲んだ。
「ついさっき息を引き取ったの。
あなたが来るって知って安心したみたいに。」と言って少しの間2人にしてくれた。
本当についさっきだったんだろう、まだほんの少し温かくて、硬直もしていなかった。
昔、誰かに聞いた事があった。
1番最後に残る五感は聴覚だとそれをふと思い出した。
「美邪、来るの遅れてごめん。大好きだよ、
俺を好きになってくれて、愛してくれてありがとう。」そっと耳元で言って俺は唇にキスを落とした。
「ごめんな、こんなファーストキスで」俺はあのとき、上手く笑えてただろうか。
後日、葬儀が行われ、クラスのみんなが参加していた。もちろん俺も。お通夜も全部俺は出ていた。
みんなと手を合わせて、細い骨を拾って、親戚の方の話を聞いてどれだけ周りに愛されていたのかが深く俺に突き刺さった。ただ、不思議と涙が出なかった。
通夜の日の夜俺は美邪の母さんに呼ばれて別室に案内された。その場には美邪のお母さんとお父さんとお姉さんが居た。
お姉さんは一言も喋らず俯いていた。
数分の沈黙。
「あの、」俺はそれを破って口を開いた。
「なに?」とふたりが俺を見つめる。
「俺が居ながら美邪を、娘さんを守れず申し訳ありませんでした。俺の不覚でした。」俺は頭を下げた。
「あ、頭を上げてくれ!」美邪の父さんは慌てたように俺に言ってくれた。俺はそれを無視して続けた。
「娘さんを好きになって、ごめんなさい」思っていることを言葉にして口にする。
体が強制的に前を向く、俺は美邪の母さんに抱きしめられていた。
「え?」状況が呑み込めない。
「あの子を、美邪を好きになって、傍に居てくれてありがとう」その声は涙を含んでいた。
美邪の母さんは離れて1枚のハンカチを俺に渡した。その中身は美邪が着けていたお揃いのネックレス。俺の手を握って優しく微笑む顔は美邪とそっくりだった。
「美邪を愛してくれてありがとう。幸せだったってあの子そう言って息を引き取ったのよ」
その言葉を聞いて俺はネックレスを握りしめて泣いた。涙がぽつりぽつりと落ちて小さな月が輝いていた。
「君は悪くない」美邪の父さんも言ってくれた。
その後日。
美邪の家を訪れた時お姉さんにあった。
「新しい恋を見つけな」
「へ?」
「美邪、きっとそう言うと思うよ」と優しい顔をして写真を見ていた。
「はい」そう言って俺は家を後にした。
「これが俺の過去の話。」
ちょうど5限目の終わりのチャイムが鳴る。
「ごめん、喋りすぎた」そう言って海の方を見ると海は泣いていた。
「ど、どした!?」急なことにテンパる
「零の事何も知らなかった」しょぼくれて言う。
「言ってないのは俺だしごめんな?」
「別に?気が向いたら私も言う。」
「うん、ありがとう。」少しは言う気になってくれたらしい。
そんな呑気に言ってる場合じゃないなんて知らずに俺らはその場に留まっていた。
ガチャりとドアが開く。
「よ、零。やっぱりな」
開いたドアの先には西宮先輩が居た。
明日の君に会いに行く 来威 @lie225
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。明日の君に会いに行くの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます