大統領になったお妃さま  👑

上月くるを

大統領になったお妃さま  👑




 物心ついたぼくの初めての記憶は、茶色のテントが連なる難民キャンプ地だった。

 粗暴な反政府勢力HRに連れ去られた父さんの行く方はいまだに分からなかった。


 黒髪に水色のヒジャブを巻いた母さんは、生まれてまだ半年にもならない妹にお乳を飲ませながら、「これから、どうしたらいいんだろうねえ」と途方に暮れていた。


 ぼくがわずかな物音にも異常なほど怯えやすいのは、生まれたときから弾丸が飛び交い、街が破壊され、人びとが殺される環境にいたからだと怖がりの母さんは言う。

 



      ⛺


 


 一日に一食、よくて二食。それも堅いパンと具の入っていない冷たいスープだけ。

 のどが渇いても、バケツに溜めておいた雨水を縁の欠けたカップで飲むしかない。


 そんな暮らしから救ってくれたのは危険をおかして来てくれた母さんの弟だった。

 海の向こうの東の国に友だちが住んでいて、ぼくたち一家を匿ってくれるという。


 貨車にゆられ、暗い海に木の葉のようなボートを漕ぎ出し、さらに何度もトラックやボートを乗り継いで東の国に着いたとき、ぼくは一生旅行をしたくないと思った。




      🍃


 


 母さんと同じ髪や目の色をした東の国の人たちは、みんなやさしくて親切だった。

 目も眩むようなビルが林立する都会で、ぼくたちは救援活動団体の支援を受けた。


 母さんがビジネスホテルやスーパーの清掃員として働いているあいだ、ぼくと妹は保育施設で世話をしてもらい、生まれて初めて安心して眠れるということを知った。




      🌠




 だが……そんな日は長くつづかなかった。手つづきがうまくいかなかったとかで、このままでは、遠からずぼくたちは祖国へ強制送還されてしまうことになるという。


 なんとかこの国に住みつづけられるようにと、支援団体の人たちが一所懸命に駆けまわって交渉してくれたが、法律という壁のためどうしてもうまくいかないらしい。




      🌞


 


 そのとき、だれも予想すらしていなかった大事件がこの国で発生した。(´ω`*)

 王族の立場を自ら放棄したお妃さまが、おりからの大統領選に立候補されたのだ。


 美しく聡明なおかつ人柄の高潔なお妃さまは国民から絶大な信頼を得ておられた。

 かたや、自分の利益しか考えない世襲の政治家連はとうに愛想を尽かされていた。


 大統領に就任された元お妃さまは、王さまの絶対的な支援もあり、それまで国民がいまいましく思っていながら実現できなかったことを矢継ぎ早やに改革していった。


 祖国へ送返されても行き場のない外国人の、非人道的な問題もそのひとつだった。

 ぼくたちは、希望すれば国民の資格を得て、永久にこの国に住めることになった。


 ぼくは大きくなったら、父さんや母さんの弟を探し出して一緒に暮らすつもりだ。 

 大統領になってくださったお妃さま、ありがとうございます!!ヾ(@⌒―⌒@)ノ




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