夜空のむこう

大隅 スミヲ

夜空のむこう

 最初、それが何であるかはわからなかった。

 深夜2時。わたしはパソコンでの執筆活動をおこなっていた。

 400字詰め原稿用紙で20枚ほど書き終え、ひと息つこうとコーヒーを片手に窓辺に立っていた。

 目の前に広がるのは闇だった。

 小さな公園を挟んだ向こう側にはマンションが建っているのだが、さすがに深夜ということもあり、どの部屋の明かりも消えていた。

 コーヒーを飲み終えて、あともう少し頑張ろうかと思ったところで、目の端に小さな灯りがあることに気がついた。

 ホタル族。

 夜中にマンションなどのベランダで煙草を吹かす人たちの通称だった。

 闇の中に浮かぶ煙草の火がホタルのように見えることからついた名前だ。

 自分以外にも、まだ起きている人はいたか。

 そんなことを思いながら、わたしは執筆活動に戻った。


 翌日の夜も同じ光景が見られるだろうかと思い、わたしは窓辺に立ってみた。

 やはり、今夜も向かいのマンションにはホタルがいる。

 ふと、周りを見てみると、ホタルは一匹だけではないということがわかった。

 きょうは金曜日だった。明日、休みのホタルたちが大勢いるようだ。


 闇の中に浮かぶ、複数の朱色の灯り。


 どこか既視感があるような気がした。

 何処で見たのだろうか。

 

 思い出した。

 昼間に行ってきた、プラネタリウムだ。


 ベランダに灯った小さな朱色は明かりは、太陽系の星々なのだ。


 水金地火木土天海。

 昔は、水金地火木土天冥海と言っていたそうだが、冥王星が惑星という枠から外れてしまったため、いまは水金地火木土天海なのだそうだ。


 まさか向かいのマンションに、太陽系を発見するとは思いもよらぬことだった。

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