第102話 スーパー〇〇

「【分身】!」


「おお!十文字さんが増えた!?」


私の目の前で、十文字さんの体が分裂する。

彼女の持つ分身のスキルだ。


「これで戦力倍増ですね!」


「その通り!と、言いたい所ではあるんだけど……分身はあたしの半分ぐらいしか力が無いのよねぇ。後、オートじゃなくて私が動かさなくちゃならないから、意識が分散してどうしても本体と合わせて動きが雑になっちゃうのよ。だから本気で戦うなら出さない方が良かったりも……」


「あー、そうなんですか」


確かに。

体を同時に二つ動かそうとしたら、色々と動きに問題が出てきそう。

私だったら頭がこんがらがっちゃうかも。


え?

ヴァルキリーはどうなんだって?


ヴァルキリーもコントロールする事は出来るけど、基本オートなんだよね。

動かしたいと思った時も、私の考えや望みに反応して勝手に動いてくれる感じなんで、まあコントロールって言うよりかは命令的な物に近いかな。

なので負担はそれ程でも無かったりする。


「だから普段はもっぱら、撮影専門に使ってる感じね」


「なるほど」


十文字さんは有名な配信者ストリーマーだ。

まあ美人で強くて明るくて、しかもたった一人でSランクダンジョンを攻略して周ってるんだから、人気が出るのも当然よね。


後、薄幸ってのもあるし。


レジェンドスキル【10倍】のデメリットである、寿命十分の一はかなり有名だ。

にいに予備の命を貰ってるからもう寿命の問題は解決してるんだけど、それは秘密になってるので、彼女は周囲から未だに長く生きられないと思われていたりする。


「ふふふ……ならばワシの出番じゃな!」


私と融合していたぴよちゃんがそれを解除し、急に体の外に飛び出して来た。


「とう!ミラクルドッキング!」


そして十文字さんの分身に飛びついたかと思うと、そのまま融合してしまう。


「融合ってスキルで生み出した分身にも出来るんだ……」


「ん?あれ?分身のコントロールが……」


ぴよちゃんの入った十文字さんの分身が、両手を万歳する様に掲げる。

そして叫んだ。


「ワシは遂に肉体を手に入れたんじゃ!!」


と。

ぴよちゃんの声で。


「え?ひょっとしてぴよちゃんが動かしてるの?」


「そうみたい。私の方からは全然コントロールきかないし」


ぴよちゃんって、融合した相手の体を動かせるって事?

でも、私の時はそんな事無かったんだけど……分身だからそんな真似が出来るのかな?


「ワシは遂に肉体を手に入れたんじゃ!!」


ぴよちゃんが再び叫ぶ。

うん、いや――


「ぴよちゃんは元から体あったでしょ。まん丸いボールみたいな体が」


「ワシは遂に肉体を手に入れたんじゃ!!」


ぴよちゃんが三度みたび吠えた。

私の突っ込みを完全スルーして。

相変わらず会話のキャッチボールをしない子である。


「おー、何だかわからないけどおめでとうぴよちゃん」


「うむ!苦しゅうない!」


何が苦しゅうないんだか。

要はおめでとうって言って欲しかった訳ね。


「しかしこのままでは少々紛らわしのう。そもそも、高貴なワシにこんな貧相な姿は似合わん」


ぴよちゃんがとんでもなく失礼な事を言い出す。

そもそも十文字さんは100人に聞いたら100人が美人って答えるレベルなのに、それをボールの化身みたいな存在の癖に貧相とか、どの口が言うのか。


「グレートフォームチェンジ!」


ぴよちゃんが変身のスキルを使う。

その体が光り輝き、そしてその姿が変わっていく。

十文字さんの姿から、金髪の女性の姿へ。


「……」


「はえー」


透けるほどの白い肌に、大きく切れ長の金の瞳。

高すぎず、さりとて低くもないスッとした鼻に、シャープな顔のライン。

そして桜を思わせるピンクの唇。


女の私が思わず見惚れてしまいそうな程、儚げなその美貌に私は呆然となる。


え?

いや、いくら何でも盛過ぎじゃない?

それともまさか、ぴよちゃんって種族的にみたらこんな美人って事?


いやでもそれはないか。

どう見てもバスケットボールみたいな体格だし。


「これこそワシの本来あるべき姿じゃ!」


喋った途端、彼女の身に纏う儚さが勢い良く散っていく。

ですよねー。

ぴよちゃんは儚さとは対極の存在だもん。


「ぴよちゃん凄すぎ!確かに、アタシなんかじゃ足元にも及ばないわ」


十文字さんがぴよちゃんをべた褒めする。

彼女は言動による減点は加味しないらしい。


「ふふふ……この程度で驚くなぞまだ早い!ワシには後二回変身が残されておるんじゃ!」


「おお、なんとあと二つも!見せて見せて!」


十文字さんはノリノリである。


人気ストリーマーだけあって、彼女は凄くノリがいい。

ちょっと私には真似できそうにないわ。

いやまあ、する気も勿論ないけど。


「良かろう!目ん玉かっぽじってよく見るがよい!【神炎鳥ゴッドフレイムバード】!!」


ぴよちゃんが叫ぶと同時に、彼女の左右の肩甲骨の辺りから輝く炎が噴き出した。

それは翼を形成し、周囲を神々しく照らす。


「……」


やばい。

あたしのヴァルキリーよりも神々しいかも。


何故だか負けた気がして、ちょっと腹が立つ。


「おお、これがぴよちゃんのセカンドフォームね」


「ぴよちゃんではない!」


ぴよちゃんが自分の顔に向けて立てた親指を向け、ニヤリと笑う。

そして――


「ワシはスーパーぴよ丸じゃい!」


――ドヤ顔でそう言った。


超凄いって意味なんだろうけど……ぴよちゃんがスーパー〇〇って言うと、どうしてもスーパーマーケットが頭に浮かんじゃうわね。

マヨネーズ超特価って文字が頭に浮かんでくるわ。


「そしてこれが……おおおおおお!封印解除!!」


ぴよちゃんの全身を光る炎が纏わりつく。

そしてそれが破裂したかと思うと、全身を黄金のオーラに包まれたぴよちゃんの姿が現れた。


「これがスパーぴよ丸2じゃい!」


「おお、凄く強そう」


まあ確かに十文字さんの言う通り、凄く強そうではある。

というか、封印解除してるので冗談抜きで強いんだと思う。


「ワシの力を見せてやる!いくぞう!」


「あ、ちょ、ぴよちゃん!」


ぴよちゃんは叫ぶや否や、そのままダンジョンの奥へと突っ込んで行ってしまう。

私と十文字さんはその後を慌てて追った。


「おお、ぴよちゃん……いや、スーパーぴよちゃん2やるねい」


現れる魔物を瞬殺し、罠も踏みつぶしてぴよちゃんが進んで行く。

十文字さんの分身を使ってるってのもあるんだろうけど、結構冗談抜きで滅茶苦茶強い。


ひょっとしたら今のぴよちゃん、十文字さんといい勝負できるんじゃないかな?


――5分後。


「ぴ、ぴよちゃん!?」


急に電池が切れたオモチャの様に、ぴよちゃんがその場に倒れてしまった。

驚いた私は慌てて彼女に駆け寄る。


「ウイラッシュ。ワシもう疲れたよ」


どうやら単に疲れだけの様だ。


まあ封印解除してたもんね。

あれ、凄く負担が大きいから。

融合して使った時には、私も1分ぐらいでギブアップしたし。


にいと融合してる時は10分ぐらい余裕だったらしいけど、まあにいは特別だから。


「ぴよちゃん……ウィラッシュって、ひょっとして私の事言ってる?変なあだ名は突けないで欲しいんだけど?」


「細かい事は気にするでない!とう!ベッドイン!!」


ぴよちゃんが十文字さんの分身から飛び出してきて、私と融合する。

人をベッド扱いするとか、ほんとこの子は。


「ははは。ほんっと、ぴよちゃんって面白いね」


「まあ、退屈はしませんね」


『ぐぅー』


早々にぴよちゃんは寝息を立てだした。

起こすのもかわいそうなので、寝かせたまま私達だダンジョン探索を続ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

不滅チーターによる時間回帰無双~終わりなきダンジョンに籠って1万年。俺は遂に時間を巻き戻すマジックアイテムを見つけて1万年前に戻る。今度こそ失った家族を守るために~ついでに世界も救います まんじ @11922960

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ