第101話 宣言
「はーい」
家のインターフォンが鳴り、のぞき窓から玄関の外を見と金髪の綺麗な女性が立っていた。
見た事のない女性だが、私の家に尋ねて来る外国人は一人しかないない。
「えーっと、エリス・サザーランドさんですか」
「ええ。その声、貴方は
「あ、はい。立ち話もなんですから、どうぞ中に入って下さい」
私は玄関を開け、彼女を家の中へと案内する。
「はーい。ぴよ丸もお久しぶり」
「んあ……えーっと……」
声を掛けられ、ベッドの上で幼女姿になってアングラウスさんが残していったタブレットを弄っていたぴよちゃんが振り返り、エリスさんを見て首を捻る。
「えー、んー……どちら様じゃい!」
どうやらぴよちゃんは彼女の事を覚えていない様だ。
「ちょっと、たった数か月で私のこと忘れないでよね。エリスよ。エリス・サザーランド」
「お、おお!エリスか!そう言えばおったのう!そんなモブも!!」
モブって……
超大手ギルド所属で、世界ランク5位の彼女をモブ呼ばわりするのはぴよちゃんぐらいの物だろう。
「モブって、言ってくれるじゃないの。全く」
エリスさんがぴよちゃんを抱き上げ、ベッドに座って自分の膝の上にのせる。
そしてそのほっぺを横にむぎゅむぎゅと引っ張った。
「そんな悪い子にはこうよ」
「にゃにをしゅる。こにょろうぜきゅもにゅめ(何をする!この狼藉ものめ!)」
「さて、冗談はこれくらいにして。お土産持ってきたわよ」
エリスさんがぴよちゃんのほっぺを離し、肩にかけていたカバンから瓶を取り出す。
英語のラベルの付いた、白い物の入った瓶だ。
ひょっとして――
「むむ!それはまさか!?」
「じゃじゃーん。イギリス産のマヨネーズよ」
やっぱりマヨネーズだった。
海外だと、チューブじゃなくて瓶に入ってるって話は本当だったんだ。
「アイラブマヨネーズ!」
幼女姿だったぴよちゃんがまん丸に戻り、狂った様に羽を羽搏かせエリスさんに体当たりする。
不意の
その食い意地の汚さは流石としか言いようがない。
「はいはい。ちょっと待って。今開けてあげるから」
それを片手であしらいつつ、エリスさんは片手だけで器用に瓶の蓋を開ける。
「ほら、召し上がれ」
「ほぎゃほぎゃほぎゃほぎゃ」
エリスさんが蓋の空いた瓶を差し出すと、ぴよちゃんがそこへ迷わず顔面をダイブさせる。
その姿はまるでバーサーカーだ。
しかし何故か――
『ほぎゃほぎゃ』喚きながらマヨネーズを食べていたぴよちゃんの動きは直ぐに止まってしまう。
そして瓶から顔を出して、マヨネーズまみれの顔でエリスさんの方を見つめこう言った。
「なんかこれ違う」
と。
「あれ?口に合わなかった?」
「不味くはない。不味くはないんじゃが……なんか違うんじゃ。なんというかこう……魂の抜け殻的な。そう、このマヨネーズには魂が籠っておらんのじゃ!」
「ぴよちゃん。そもそもマヨネーズに魂は籠ってないよ?」
マヨネーズに使われる卵は無精卵だし。
「比喩表現じゃ!察しろブス!」
「誰がブスよ!これでも中学じゃクラスで三番目に可愛いって言われてたんだからね!私は!」
中学には二年生までしか言っていないが、その二年間の間に私は十回以上男子から告白されていた。
クラスナンバースリーを舐めて貰っては困る。
因みに、元クラスメイトの一番二番はそれぞれアイドルとグラビアアイドルになっていたりする。
なので私のクラスのレベルは間違いなく学年屈指。
その中で三番手だった訳だから、自分でいうのもなんだが私は相当かわいいのだ。
「
ぴよちゃんは一体何のトップだというのだろうか?
球体検定一級とか?
「とにかく、このマヨネーズは『出来損ない』じゃ!『食べられないよ』じゃ!」
「不味くはないんじゃなかったの?」
「ワシは真の味しか認めん!マヨネーズに妥協なし!」
我儘な子だ。
ていうか人からの手土産を、真の味じゃないからって袖にするのはあれよね。
「我儘は許しません!貰った物なんだからちゃんと食べなさい!」
「いやじゃいやじゃいやじゃ!」
ぴよちゃんが駄々をこねながら、部屋の端から端までゴロゴロと転がり回る。
全身に両面テープを張り付けたら良い掃除になりそうな勢いで。
「まーまー。口に合わないんじゃしょうがないわよ。そんな事もあろうかと、日本のマヨネーズも来る途中に買って来てるから」
どうやらエリスさんはこの展開を予想していた様だ。
バッグから慣れ親しんだチューブ型のマヨネーズを彼女は取り出した。
「それじゃい!故郷の味をよこせい!」
ぴよちゃんは異世界から流れ着いたってアングラウスさんから聞いてるけど、やっぱ日本生まれの日本育ちだから、日本の味が故郷の味になるんだろうか?
「はいはい」
エリスさんが床から飛びついて来たぴよちゃんを片手でキャッチして抱え、もう片方の手で哺乳瓶で赤ちゃんにミルクを上げる様にマヨネーズをその嘴に差し込んだ。
「んまんまんまんまんま」
「すっごい手馴れてますね」
「ここには暫くお世話になってたからね」
そう言ってエリスさんがウィンクする。
さっきのぴよちゃんへのスマートな対応といい、美女ががやると凄く様になるわ。
まあ本当は小さな子供の姿らしいけど……
「それで、メールの件なんだけど」
「ああ、はい」
色々と忙しいであろうエリスさんが、わざわざイギリスから家に来たのは私が彼女にメールを出したからだ――アドレスはアングラウスさんから教えて貰っていた。
なんのために呼び出したのか?
それは勿論、アルティメットスキル【
遠くにいたんじゃ渡せないからね。
私の今のスキルレべルで出せるヴァルキリーは本体と分身の二体まで。
一つは姫ギルドに。
そしてもう一つは、イギリス最大手である
両方とも
数が限られてるんだから、信頼できる相手に優先的に渡すのは当然だよね。
まあレベルが上がって分身の数が増えたら、他の所にも配る予定ではあるけど。
「これです」
私はヴァルキリーを発動させる。
「これがアルティメットスキル……ヴァルキリーって言うだけあって、見た目は天使なのね」
「はい。能力は……」
メールでも説明しているが、私は改めてその効果を説明する。
「やっぱ世界初のアルティメットスキルは伊達じゃないわね。その性能でデメリットがないんでしょ?まったく、羨ましい限りね。あたしのスキルも進化してくれないかしら」
エリスさんのレジェンドスキル【
それがエリスさんの長年のコンプレックスとなっており、何とかするために彼女は日本へとやって来て、そして数か月の間アングラウスさんの元で修行する事でデメリットの克服に成功している。
でもその状態だと魔力の消耗が激しいらしく、常時その姿でいるのは難しいらしい。
戦闘中なんかは特に。
なので、完全解消とまでは至っていない様だ。
「私の場合は特別で……普通だとちょっと難しいかと」
「まあ一万年なんて、普通の人間じゃ無理げーよね」
エリスさんにはこれから起きる事や、
普通なら信じがたい内容だけど、彼女はアングラウスさんに師事していただけあってあっさりそれを信じて受け入れてくれてれていた。
「ま、何にせよこれは有難く頂戴させて貰うわ」
「はい。ガンガン活用して、バンバン強くなっちゃってください」
「ええ。任せておいて。世界の未来は私達
世界を守るとエリスさんは力強く宣言する。
そしてそれに呼応するかの様に――
「マヨネーズの未来はこのワシが守る!だからお代わりをくれ!」
――ぴよちゃんがお代わりを宣言した。
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