二十
その夜
それからあの良秀が、目前で娘を焼き殺されながら、それでも屛風の画を描きたいというその木石のような心もちが、やはり何かとあげつらわれたようでございます。中にはあの男をののしって、画のためには親子の情愛も忘れてしまう、人面獣心のくせ者だなどと申すものもございました。あの
ところがその後一月ばかりたって、いよいよ地獄変の屛風ができ上がりますと良秀はさっそくそれをお邸へ持って出て、うやうやしく大殿様のご覧に供えました。ちょうどその時は僧都様もお居合せになりましたが、屛風の画を一目ご覧になりますと、さすがにあの一
それ以来あの男を悪く言うものは、少くともお邸の中だけでは、ほとんど一人もいなくなりました。誰でもあの屛風を見るものは、いかに日ごろ良秀を憎く思っているにせよ、不思議におごそかな心もちに打たれて、炎熱地獄の
しかしそうなった時分には、良秀はもうこの世にない人の数にはいっておりました。それも屛風のでき上がった次の夜に、自分の部屋の
(大正七年五月)
地獄変 芥川龍之介/カクヨム近代文学館 @Kotenbu_official
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