第34話 エピローグ

 僕は六歳になった。


 思えば五歳になったばかりの頃にテーブルから落ちて頭を打ち、前世の記憶が蘇ったのだ。


 前世の僕はプロ野球選手になることを夢見る高校生で、まさかのドラフト会議で落ちたショックから、学校の階段で足を踏み外して死んでしまった。

 打ち所が悪かったといえばそれまでだが、この世界で記憶を取り戻した時もテーブルから落ちてとは、どんな偶然だろう。

 何か作為的なものも感じるが、それが神の所業であるならば甘んじて受け入れるしかない。


 けど、そんな僕は神からのメールで、スポーツの繁栄を依頼された。


 まずは得意な野球からでいいといわれれば、気合も入るというものだ。

 異世界でも野球の楽しみを、皆に知ってもらいたい。


 そう思い、僕は神から授かった特殊な能力と、大切な仲間たちの協力で野球道具の作成に奔走した。


 あれから一年。


 もう二度とできないとあきらめかけていた野球を、僕はこの世界へ広めることができたのだ。

 僕の想像以上に関心度も高く、すでに道具の作成も僕たちの手を離れている。

 今では王家御用達の商人たちに任せ、高額で取引されているようだ。


 いずれは誰にでも門戸を開けるようにしたいと思っているが、まずは貴族から。

 文化の繁栄は上から下へ広めるのが正解だ。


 まだ高額で手の届かない道具も、数が揃ってくれば落ち着くに違いない。


「マルクス様、そろそろお兄様のたちの試合が始まりますよ」


「あ、うん。すぐいく!」


 またちょっと妄想に耽っていた僕に、メアリーが手を差し出した。


 これから行われる試合は上の兄上が作ったチームと、下の兄上のチームとの戦いだ。


 どっちを応援していいか迷ってしまうが、学園でも順調に普及し始めていることは素直に嬉しい。


「にーに、ガンバって!」


 幼い僕の声は良く通るらしく、満面の笑顔で兄上二人が大きく手を振った。


 それに応えるように、ぼくも笑顔で手を振り返し、これから始まる試合を楽しみに待つのだった。

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元高校球児の僕だけど、異世界転生したら称号が球界のプリンスだった かわなお @naokawa

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