第3話 朝からドキドキ(2つの意味で)
――次の日――
「……夢じゃないんだな」
俺が起きて直ぐにスマホの連絡先を確認すると、やはり『天音美月』と表示があった。
「……もう二度と誰にもスマホを見られる訳にはいかなくなった……」
主に俺の命の為に。
学年一の美少女の連絡先を知っている男子は昨日まで存在していなかったので、俺が学校で唯一の男子となったわけで。
そんな事を男子に知られたら、何されるか分かったもんじゃない。
まぁその分優越感を感じないわけでもないが。
「……支度してさっさと出るか」
俺はスマホの電源を切り、自室の扉を開けて一階のリビングへと向かった。
♡♡♡
「昨日何で電話でなかったんだよ」
俺がいつも通り歩いて学校に向かっていると、珍しく和也に出会ったのだが、邂逅早々ジト目で俺を睨んできた。
はて、昨日電話なんてあったか……あったわ。
天音を家に送っている時に電話掛かってきたけど電源切って無視したんだったわ。
帰ってから書け直そうと思っていたが、すっかり忘れてた。
「すまん。あれから少し……いや大分色々あってな」
「お、そ、そうか……大変だったんだな……」
俺が若干遠い目をしながらしみじみと伝えると、和也が肩に手をおいて「どんまい」と言ってきた。
普段ならイラッと来て軽く頭を小突くのだが、今回は和也の言葉から同情が溢れ出ていたおり、本気で同情している様子だったので何もしないであげた。
「そう言えば昨日、俺と別れた後に何があったんだ?」
俺はそう聞かれて苦虫を噛み潰した様な表情になるのを必死に抑える。
リアクションをしたら余計興味を持たれるのでポーカーフェイスを意識しなければ。
昨日の事は絶対に誰にも知られてはならない。
知られた時点で俺の人生が終わる。
「いやそれがな、犬に追いかけ回されてる人を見つけてな、助けたんだよ」
「なんだそれ。そんな漫画的なシーンがあるんだな。あ――もしかして女か!?」
コイツ痛い所を突いてくるな……。
「ち、違うぞ? ただのおじさんだ」
「本当かぁ? まぁ別に嘘付く意味もないだろうし納得しといてやるよ」
めちゃくちゃ腹立つ言い方で納得されたんだが。
一発殴っても良いかな?
いや、勘違いしてくれているなら何もしないでおこう。
そう心に決めていると、突然辺りがざわざわし出した事に気付く。
しかし俺には理由が分からず隣の和也に聞いてみる。
「なぁ、何でこんなにざわざわし出したんだ?」
「お前な……あそこ見てみろよ」
ため息を吐きながら指を差された事に一瞬イラッと来るも、それよりも原因が知りたいため指さされた方向に目を向ける。
そこには既に学校に近いため、生徒が増えているのだが、その中でも一際存在感のある生徒がいた。
そう、天音だ。
彼女は膝よりも少し上までのスカートを揺らして凛々しく歩いていた。
「もしかしてざわざわしてる理由って天音なのか?」
「当たり前だろ! 彼女は学年一の美少女で、学校でも有名なんだぞ!?」
「まぁそんな事は知っているが……」
俺は和也のギャーギャーうるさい声を聞き流しながら天音を見る。
ふむ……昨日はあまり意識していなかったが、確かに学年一の美少女と言われるだけのことはある。
ただ少し昨日とは印象が違うな。
昨日はこう……感情豊かな子供? みたいな感じだったが、今は完璧な人間のように見える。
昨日のは素だったのか?
俺がそんな事を考えていると、天音と目があった。
俺は直ぐに目を逸らそうとしたのだが、それよりも先に天音がやらかしやがった。
『お・は・よ・う・ご・ざ・い・ま・す』
と口パクで言いながら、微笑を浮かべて軽く手を振ってきたのだ。
それもしっかりと俺の目を見ながら。
「お、おい、颯太……天音さんが俺達に向かって手を降ってないか?」
よく分かったな和也、正解。
――なんて言えるわけもないので、苦笑を浮かべるしか無い。
しかし天音の突然の行動は、周りの生徒達を更にざわつかせるのには十分だった。
「誰だ!? 誰に手を振ったんだ!?」
「俺か? 俺であってくれ!」
「なわけあるか!! 絶対に俺に手を振ってきたんだよ!!」
男子は手を振られたのは絶対に自分だと言い合い、
「ねぇねぇ、あの笑顔はあれよね」
「うん。絶対に彼氏ね」
「後で絶対に聞かないと!!」
「もしかしたら年上の彼氏かも!!」
「「「きゃああああ」」」
女子は天音に彼氏がいると断定して萌えている。
相変わらず女子は恋バナが大好きなこった。
ぼんやりと女子たちを見ていると、突然スマホが振動する。
何だ、Rainか?
俺にRainを送ってくるやつなんてまずいないんだが。
俺は何となくスマホの画面を見て―――和也にバレないように隠す。
やべぇ……天音からのRainじゃねぇか……。
天音から『何故手を振り返してくれないのですか』と言う文と、猫がシャアアアと怒っているスタンプが送られてきていた。
恐る恐るチラッと天音を見ると、 『むぅ』と頬を少し膨らませて俺を睨んでいた。
……もう素知らぬ顔など出来なくなってしまったなこれ。
俺はため息を吐いた後、誰にもバレないように本当に小さく手を振り返す。
すると先程のむくれ顔が一瞬にして笑顔に変わる。
なにこれ、可愛すぎかよ。
俺は周りの男子同様、天音の笑顔にやられてしまった。
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