第2話 秘密の関係

「……………………は?」


 今度は俺が間抜けな声を出す番だった。

 しかしこれはしょうがないと思う。

 いやほんとマジで、コイツ……いきなりなんてことを言いやがるんだ……?

 とうとう頭がおかしくなったか?


 だが天音の顔は真剣そのもの。

 俺はもしかしたら俺の聞き間違いではないかと言う一縷の望みに掛けて恐る恐る聞き返す。


「さっき……恋を教えてって言ったか……?」

「はい言いました」


 はいアウトー。

 野球で言えば三球三振並みの完全なアウトだな。

 もはや乾いた笑いしか出てこない。


 何故アウトなのかを説明しよう。

 それは彼女が学年一の美少女と名高いからだ。

 そんな彼女と近しい男子が現れたとなると、超絶イケメンならまだしも俺のようなフツメンで平凡な奴だと分かると確実に殺される。

 普通なら遠慮願いたいのだが……


 俺はチラッと天音を視界に収める。

 天音は心細そうに、断られるのを恐れるように表情を暗くして待っていた。

 

 …………………………無理だ。


「――分かった。その願い全力で叶えれるように俺が手伝おう。俺が新しく好きな人を作ればいいと言ったんだからな」

「―――ありがとうございますっ!!」


 天音は先程の不安そうな表情とは一転して満開の花の様に綺麗な笑顔を浮かべる。

 その表情だけで断らなくてよかったと思ってしまう俺は重症なのだろうか。

 

「―――鈴木君?」

「ん? すまん、少しぼーっとしてたわ」

「それなら良いのですが……」


 お前の笑顔に見惚れていましたなんて言えるわけ無いだろうが。

 そんな事が平気で言えるのはイケメンだけじゃボケ。

 ……何に怒っているんだろう俺は。


 俺は気を取り直して今後の計画に付いて話していく。


「まず、俺自身好きな人が小学生以来一度もいたことがないから、手探りになっていくと思う」

「私はそもそも好きな人が出来た事がありません」

「だろうな。――だから、これから俺達は毎日放課後と偶に土日の休日を使って恋人っぽい事をして行こうと思う。まぁこんなフツメンとが嫌だったらイケメンな代替を何とか見つけて――」

「そんなものはいりません! 私は鈴木君が良いのです!」

「お、おう、ありがとうな……」


 いきなり恥ずかしい事を言うなよ……。

 勘違いしてしまいそうになるじゃないか。


「んんっ! ……それと、恋愛漫画か小説は見たことがあるか?」

「……ない、ですね……ずっと勉強と習い事をしていましたので」

「なら貸してやるから少し見てみてくれ。現実では少しありえないだろって思うところもあるかもしれないが、恋がどんなものなのかは分かるはずだからな」

「分かりました。それではそろそろ夜も遅いので連絡先を交換して帰りましょう。鈴木君の親御さんが心配するでしょう」


 そう言う天音の顔は酷く悲しそうに歪んでいた。

 俺はその顔で天音が置かれている大体の状態を把握した。

 ただの他人である俺ではどうすることも出来ないことも。

 

 だが、どうしても言いたいことがあった。

  

「――天音! 一緒に恋を覚えていこうな!」

「……ふふっ、そうですね。頑張って行きましょう」


 そう言って天音は暗い道に帰って―――ってそうじゃないだろ!


 先程1人でいてナンパにあったのだ。

 もしかしたらまた遭ってしまうかもしれない。

 そうならないためにも俺が家まで送ってやらないと。


 俺は急いで天音の後を追いかけた。





♡♡♡





「お前……歩くの速すぎな……」

「ごめんなさい……」

「いや別に謝らなくて良いんだけどさ」


 あれから直ぐに追いつくかと思ったら、天音がまさかの走って帰っていたため、追いつくのに相当の体力を使った。

 ……護身のためにも体鍛えようかな……。


 俺が真剣に検討していると、天音が此方を向いていることに気づいた。

 

「どうしたんだ?」

「いえ……どうして追いかけてきてくださったのかなと」

「……それマジで言ってんのか?」

「? そうですけど……」


 本当に分からないと言った風な表情をしている。

 もしかしたら天音は俺が想像していた以上に鈍感なのかもしれない。

 

「お前を家まで安全に送るためだよ。ついさっきナンパに遭っただろ? 天音は超絶美人なんだから夜は気を付けないと……ってどうしたんだ?」


 俺が理由を説明していると、突然天音がそっぽを向いた。

 その行動に首を傾げるが、彼女の耳が街頭に照らされて真っ赤になっていることに気付いた俺は、先程の自分の言葉を思い出して自分も顔が真っ赤になる。


 馬鹿か俺は……!

 何しれっと超絶美人なんて本人の前で言ってんだよ!

 

「ご、ごめん、さっきの言葉は忘れてくれ……」

「……いや」

「何で!?」


 俺はまさか拒否されるなんて思っていなかったため、声を荒らげてしまう。

 しかし直ぐに今の時間を思い出して声のボリュームを下げる。


「マジで忘れてくれると有り難いんだが……」

「……何故なのか分かりませんが、忘れたくないです……」


 そう言う天音の顔は真っ赤に染まっており、恥ずかしそうにも照れているようにも見える。


「ダメですか……?」


 そんな顔で更に上目遣いで言われたら、ダメなんて言える男はこの世に存在しないと思う。

 そんな奴は間違いなく女を毛嫌いしている者だろう。


「ま、まぁ忘れたくないんだったら忘れなくても良いんだが……」

「はい、絶対に忘れません。鈴木君からの初めての褒め言葉なので」


 本当にそう言う言葉はいけないと思います!

 その内勘違いする人が続出するぞ。


 そんな事を考えていると、天音が分かっているとでも言う風にきっぱりと言った。


「私は鈴木君にしか言いませんよ」

「…………」


 全然分かってねぇな。

 それは一番破壊力が高い言葉や。


 その後天音の家に着くまでまともに天音の顔を見れなかった。


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