お気に入りの空

夕日ゆうや

油絵

 俺はこの澄み渡った大空が好きだ。

 お気に入りの空をキャンバスに描き写していく。

 こうすると俺の好きが集まっていく。

 後ろを見ると、そこにはたくさんの油絵が並んでいる。

 これでも一端の絵師。

 最近は注目されていない油絵。

 それでも俺はこの絵が好きだ。

 この景色たちが大好きだ。

 昔オーストラリアで見たグレートバリアリーフの油絵を描くのは大変だった。

 よく船の上で揺られながら描くことができたのは嬉しかった。

 俺、画家と片言で言ったのはいい思い出だ。

 でも、そこには妻の姿はない。

 ふいに感じた寂寥感に、俺は筆を止める。

「少しくらいいいだろう」

 俺はお気に入りの空に妻を描き足す。

 これでいい。

 俺の空シリーズの最後だ。

 もう筆はもてない。

 持病が悪化した。

 息ができない。苦しい。

 病院から抜け出して描いたのがいけなかったのか。

 もう一度、妻に会いたい。

 会わせてくれ、神様。


 事切れる瞬間は、少し嬉しかった。

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お気に入りの空 夕日ゆうや @PT03wing

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