誰でもよかった 私じゃなくてもよかった
石田空
1
「今回の案件終わりを祝してー、かんぱーい」
「かんぱーい」
カシャンと汗をかいたグラスが鳴る。そのあと、しっかりと泡で蓋をしたビールを流し込んだ。長いことかかった案件がようやく終わったことで、流し込んだビールの美味さが五臓六腑に染み渡る。
「それにしても綾瀬、今回は本当に厄介な案件だったよねえ」
「ねー」
綾瀬たちは広告代理店でイラストを描いているが、年々クライアントがモンスターと化していくのが厄介であった。今回もまた、皆でやけになって笑いながら仕事をして、チームは全体的に壊れていた。
でも、ようやく終わった。解放された。
届いた餃子を酢醤油でいただき、八宝菜を皆の器に分けていたところで、綾瀬はズシン……と肩の重みを感じた。
「……あれ?」
「綾瀬―? どうしたー?」
「納期明けのせいかなあ。妙に肩が凝るんだよねえ」
「あー、あの厄介案件中、ほとんど家に帰れなかったもんねえ。そんなに肩が重いんだったら整体に行ったほうがいいよ」
綾瀬は肩の重さに、首を捻った。体のメンテナンスは怠ってないというのに。
同僚の言葉に「そうだねえ。年かな?」と言いながら肩を回した。
綾瀬は酒を飲んでもせいぜい頬が赤らむだけで、そこまで悪酔いする体質でもなく、ただ体が熱いなと思いながら、帰宅した。
アルコールが抜けたらシャワーを浴びて寝よう。綾瀬はそう自分の中で段取りを決めながら、酔い覚ましの水をコップに汲んで飲んだところで、彼女はスマホに触れた。
広告代理店で働きながら、副業で個人相手にデザイナーをしている。SNSで自分の写真を使ったデザインを見本に、あれこれと依頼をしやすく心がけている。
依頼をしてくる人のほとんどは、一見さんだ。入っていたメッセージをひとつひとつ読み、あまりにも駄目な依頼内容の場合は断り、一見さんの場合は質問に丁寧に答えていく。やがて一件二件ほどの依頼を引き受ける旨を伝えると、ようやく体のアルコールが抜けた気がして、シャワーを浴びに出かける。
「……え?」
着ていたハイネックを脱ぎ、下着に手をかけようとしたときに姿見を見て気が付いた。
肌にぽつぽつと鬱血跡が付いている。それはまるで花びらを散らしたようなものだが。そういう行為をしたら、スキンシップのひとつとして付けることもあるが、ここまで所有物扱いするかのように体全体に付けられると気持ち悪い。
いや、それ以前に。この数年綾瀬は彼氏すらおらず、その手の行為とは無縁だった。そもそもこの数日は案件にかかりっきりだったんだから、そんな余裕はない。
「なにこれ……気持ち悪っ……」
綾瀬は洗濯物を投げ込むように洗濯機に放り込むと、さっさとかけてしまう。そして浴室に入ると、自分の体を清めるように泡で執拗に洗いはじめた。
ここまで露骨に鬱血跡が付いていたら、どこで診てもらえばいいのだろう。
既に酔い覚ましを飲んでいたとはいえども、既に綾瀬に酒は残っていなかった。ただ明日は有休を消化させてもらって、病院にでも駆け込もう。それだけ考えていた。
****
朝一番に病院に行きたい旨を会社に伝えたあと、さっさと皮膚科に出かける準備をする。寝間着を脱いで、鬱血跡が残ってないかと確認するが。
「……なにこれ」
綾瀬は背中が冷たくなるのを感じた。
腰のあたりに大きく捕まれたような、赤黒い手形の痣が浮かんでいたのだ。こんなの、行為の激しい相手でなかったらまず付かない。しかしなにもしてないのだからありえない。
恥ずかしいを通り越して気味悪くなり、皮膚科に電話をした上で、そのまま向かうことにした。皮膚科で上を脱いで見せたあと、医師には難しい顔をされる。
「こんな鬱血跡みたいになることなんてほとんどないんですが……一応他の病気も考慮して、血液検査もしますが……」
「お願いします。正直無茶苦茶気持ち悪いです」
「念のため確認しますが、本当に誰かと性的交渉をした訳ではないんですね?」
「してないです。数年単位で恋人がいませんから」
「それは失礼しました」
こうして血液を採られたものの、この時点ではなにもわからないとのことだった。
綾瀬は鬱屈した気分のまま、プラプラと歩く。
せめて体によさそうなものでも買って帰ろうと、行きつけの輸入食品屋に足を運ぼうとしたとき。路地に知らない店が出ているのが目に留まった。
手相占いと書かれたブースである。
ブースに座っていたのは、派手なセーターにスラックスという、路地裏に買い物かごを提げて歩いていてもおかしくない中年の女性であった。占い師というよりも、近所のおばちゃんといった様子だ。
「はい?」
「なんか疲れた顔してるけど、大丈夫? うちで休んでく?」
「えっと……大丈夫です。すぐ帰りますから」
「本当に? 警察とか行く?」
「え……?」
占い師は首をとんとんと叩いた。綾瀬は鞄を漁って手鏡を取り出し、首を見て絶句した。
腰に付いていた手形の痣が、首にまで昇ってきている。ちょうど男のサイズの手が、綾瀬の長い首を掴んだ跡が、ペタリと付いていたのだ。
「い、いや……あ……ああ……」
占い師は溜息をつくと、そのまんま自分のブースに【休憩中】の札を提げて、再び綾瀬を手招いた。
「なんだか知らないけどいらっしゃい。この仕事していると、ときどきあなたみたいな子に会うのよ」
綾瀬は震えながら占いブースに入ると、彼女は椅子を薦めてくれた。綾瀬はそのまま腰が抜けていた。力が抜けて動くことができず、震えが止まらない。
「ひどいもんねえ。こんなにくっきりと霊障なんて初めて見たわよ」
「れいしょう?」
「霊障。端的に言ってしまえば幽霊の祟りや呪いなんだけれど、なにか心当たりはない?」
「……いえ、ちっとも」
「そうねえ……最近はネットとかSNSとかあるから、知らない内に祀り上げられてしまうことってあるから。試しに手相でも見ておく?」
そう占い師に言われて、少しだけ綾瀬は彼女のブースの占い項目に視線を向ける。これくらいの値段なら小遣いくらいの感覚だろうと納得し、「お願いします」と手を差し出した。
彼女は手相をまじまじと虫眼鏡を当てながら見て言う。
「あなた結婚はしてないのよね?」
「はい? してないです」
占い師はペンを取り出すと、綾瀬の手に書き込む。
「ここ、基本的に結婚線で、既婚者の場合は普通に出ているものなのね。あなたは結婚してないのにそれがあるってことは……あなたの心当たりがない内に、勝手に結婚しているって思い込んでいる人がいるんじゃないかしら」
「はあ……? ス、ストーカー……?」
綾瀬は思いを張り巡らせるが、SNSで受けた仕事の中で、そんなねちっこいやり取りをした心当たりはなかった。
広告代理店の仕事の場合は、基本的に営業が取ってきたものを、チームでやっているのだから、ここで誰かひとりだけを指定して勝手に好かれたりする訳がない。
綾瀬が「心当たりがないです……」と小さく首を振ると、占い師は「うーん」と腕を組んだ。
「だとしたらより深刻かもしれないわね。相手は霊障を起こすような存在なんだから」
「ど、どうしたら……」
「縁切り神社に行ったらどうかしら?」
そう提案され、思わず「はあ?」と綾瀬は声を裏返した。突拍子がないにも程がある。
「縁切り神社って……」
「さすがにこの手の霊障は、ちょっと霊が見える程度の霊能力者じゃ対処不可能だしね。この近くに、花嫁行列も絶対に通るの禁止されている縁切り神社があるんだけど、そこに行ってみる?」
占い師はスマホを取り出すと、さっと地図検索をして綾瀬に見せてくれた。鳥居があることだけは知っているが、中に入ったことのない神社であった。
綾瀬はどうにか冷静になろうと、自分の鏡で痣を見る。どう考えても、これを放置しているのはまずいんじゃないだろうか。病院で診てもらってもなにもわからなかった上に、呪われているなんて。
神社のお祓いなんて期待していないが、家に帰ってひとりで脅えているよりは、気休めでも神社に行って手を合わせてきたほうが幾分かマシな気がした。
そう考えたら、財布を取り出して占い師に支払おうとする。
「えっと、話を聞いてくれてありがとうございます。鑑定料はいくらに……」
「あらいらないわよ。単純に私も、霊障がある子を放っておいても目覚めが悪いと思っただけだし。もしお祓いが終わって元気になったのなら、そのときにまた占いに来てちょうだい。そのときはこちらも真面目に占うし、鑑定料払ってもらうから」
そう占い師に送り出され、綾瀬は心底ほっとしながら、道路に手を挙げてタクシーを捕まえた。タクシーで行けば早くつくだろうとそう思ったのだ。
「神社にお願いします」
「ああ、あそこの? あそこは縁切りで有名なところですけれど、大丈夫です? 良縁悪縁関係なく切ってしまうと有名ですけど」
あの占い師の言う通り、相当効果の高い神社らしい。綾瀬は首筋を撫でる。綾瀬は笑顔で「そこでお願いします」と言うと、タクシーは緩やかに走りはじめた。
運転手の振る話に適当に相槌を打ちながら、綾瀬が窓の外を眺めると、だんだん鳥居が近付いてきた。こんもりと壁から盛り上がっているのは鎮守の森だろうか。
あともうちょっとで辿り着く。そう思ったとき。
車がベコンッと音を立てて動かなくなってしまった。
「あ、あれ?」
「ああ、申し訳ありません。ちょっと車を見ますね」
運転手が外に出た途端に「あー!」と悲鳴を上げているのが聞こえた。驚いて綾瀬が窓を開けて外を眺めると、タイヤがありえないくらいにベコンとへこんでいた。これでは交換しないと走れないだろうが。
いくらなんでも乗っていたタクシーのタイヤがこんなに簡単にへこむなんてこと、ありえるんだろうか。綾瀬はバックミラーに自分の首を写して、喉を引きつらせる。
彼女の首を絞めようとする痣の跡は、明らかに先程占い師に呼び止められたときよりも濃くなっていた。今はただ、痣がついていて気持ち悪いくらいだが、これ以上ついたら、霊障がどう自分に影響するかがわからない。
「すみません、ここまでの運賃支払います。ここで降ります」
「ああ、すみませんね、本当に」
運転手にお金を支払うと、綾瀬は駆け出した。
鳥居は見えている。あそこ到着したらおしまいだろう。
そうたかをくくっていたが、ブチンッと音が響いた。履いていたスニーカーの底が、いきなり割れてしまったのだ。履き潰してすり減った靴底だったらいざ知らず、おろしたてのスニーカーが割れるなんてありえない。
仕方なく、綾瀬はスニーカーを脱いで、手に引っ掛けて走りはじめた。
鳥居が近付いてくる。信号が替わりかけたタイミングで道路を渡り切ると、今度はガシャーンッッと大きな音が響き、驚いて振り返る。どこかのビルの屋上から、貯水槽の蓋が落ちてきて、それが道路わきに立てられていた自転車やバイクを薙ぎ倒している……先程まで綾瀬が走っていた道目掛けて落ちたのだから、冗談じゃない。
綾瀬は踵を返して、そのままひた走る。
犯人はわからないし、理由だって知りようがない。ただ自分を殺そうとする意志だけを感じた。
冗談じゃない。自分はただ、真っ当に生きていただけなのに、どうして霊障なんて受けているのか。
靴下を履いているとはいえど、壊れた靴を手に提げて走る様は、シュール以外の何物でもなく、当然ながら道を歩く人々は怪訝な顔を綾瀬に向けていたが、彼女は気にする余裕はなかった。
いよいよ階段を上り切れば、鳥居をくぐれる。思っているよりも長い階段に息を飲んだが、意を決して階段に足を踏み入れようとしたとき。
「あっ……!」
綾瀬はなにもないところでこけた……違う。
今までは痣ができるだけでなんの感触もなかったが、今は明らかに綾瀬の足首を掴む感触があった。そのままズルリズルリと引きずられていく。その後ろに振り返って、綾瀬がぞっとした。
道路はとっくの昔に信号が替わり、今はビュンビュンと車がスピードを上げて走っている。そんな車の前まで引きずられてしまったら……命なんて、いくつあっても足りない。
綾瀬は必死に抵抗して、引きずられる足をかばうように、電灯にしがみついた。腕がちぎれそうなほどに力を強められるが、それでも道路に出るよりはましだった。
靴下で靴を放り捨てて電灯にしがみつくなんて、とてもじゃないが異常だ。周りは遠巻きにして助けてくれないが、その中で「すみません」と声をかけられた。警察官だ。
「どうしましたか?」
そこで綾瀬は、自分の怪しい行動に薬の疑いをかけられていることに気付いた。昼間から地面を這っている人間なんて、普通は異常者にしか見えない。綾瀬は必死に訴える。
「え、縁切り神社に、行こうとしてて……あ、足……!」
「足ぃ……?」
せめて綾瀬は、自分の体がおかしいことを見てもらって、信じてもらうしかないと、足首を見てもらおうとした。警察官は困った顔で、綾瀬の足を見る。
「……靴どうされたんですか?」
「靴が、割れてしまって……! 仕方なく、靴下で走って……!」
「走らずとも、神社なんて逃げないでしょう。立てますか? もし事情があるんだったら、そこの交番で聞きますから……」
まずい。どう考えても綾瀬を酔っ払いの疑いで事情聴取しようとしている。そう思って綾瀬がしがみついている電灯から無理矢理彼女を引き剥がされそうになったが。それより先に、ビュンビュン走っていたバイクが、こちら目掛けて飛んできた。
「キャァァァァァァァァァ!」
死んだ。
綾瀬はそう覚悟したが。綾瀬は電灯の下のほうにしがみついていたために、奇跡的に無事だったが。自分に声をかけていた警察官は、バイクに跳ねられて、体がリバウンドしている。
途端に辺りはざわついた。交番から他の警察官が飛び出してきて、通りすがりの人たちも騒然としながらも救急車を呼ぶようスマホで電話しはじめた。
警察官は血を流して倒れている。
綾瀬はぞっとした。自分に霊障を当てている訳のわからないもののせいで、自分だけでなく周りにまで迷惑を撒き散らしている。
辺りが騒然とし、道路の一時閉鎖がはじまったせいか、足首の力がなくなった。今の内に縁切り神社に入ってしまわないと。綾瀬は立ち上がった。
「ちょっと、あんた!」
どう考えても第一目撃者の綾瀬が走り出そうとするのを、慌てて応援の警察官が声をかけるが。
「すみません……神社に行きたくって……!」
「困りますよ、先に事情聴取を!」
「お願いします、戻りますから! 絶対に戻ってきますから!」
綾瀬は先程の警察官のことを思うと、迂闊に声をかけることすら躊躇われた。もし先程の警察官みたいに、この警察官もバイクや車にはねられてしまったら困る。
自分の霊障のせいで、これ以上被害が拡大するのは嫌だった。
警察官が止めるのも聞かずに、綾瀬は踵を返して、再び神社に向かって走りはじめた。とうとう自分を掴んでいた腕は靴下を脱がしてしまい、そのせいで手形がくっきりとついた足首が露わになり、騒ぎを見ていた人々の中から「いやあ!」と悲鳴が聞こえる。
叫ぶくらいだったら、巻き込まれないようにできる限り遠くに逃げて欲しい。綾瀬はそう思っていても、もう声をかける余裕すらなくなっていた。
石段を一歩、また一歩と確実に進んでいく。そして鳥居の真下。必死で自分を引きずり落とそうとする力が、綾瀬を石段から突き落とそうとばかりに引っ張るが。綾瀬は必死に抵抗して、鳥居の向こうに向かって叫んだ。
「すみませーん! お祓いに来たんですけどー!」
叫んだら、彼女の様子のおかしさで、神社で働いていた神主たちが走ってきた。
神主たちは、綾瀬にびっしりとついた痕を見てあからさまに顔をしかめた。
「どうされたんですか、それは……」
「すみません……」
神主は人を呼び、数人がかりで綾瀬を鳥居の中に引き入れる。途端に。
ブチン。
なにかが切れた音が聞こえた。途端に、何度も何度も自分を引きずり落とそうとしていた力が途切れ、それに必死で抵抗していた綾瀬もつんのめって神社の砂利の上に倒れ込む。裸足で走ってきた綾瀬に驚いた神社の人々は介抱してくれた。
綾瀬はお祓いのために広間に連れて行かれ、そのまま祈祷をされる。もうその頃には、病院で診てもらってもなにもわからなかった痣も痕も全て消え失せてくれたし、あれだけ重かった体も軽やかになっていた。
綾瀬は交番で事情聴取を受けてから、ようやく帰宅許可をもらう。
いったい自分はどうしてこんなひどい目に逢ったのか、なにひとつわからなかった。自分のせいでいきなり警察官ははねられたし、自分だってもう少しで死ぬところだった。
綾瀬は振り返った。もう体は軽いし、どこも痛くないし、引きずられてもいないが。
「……よかった、誰もいない」
誰かに引きずられた恐怖は、未だに尾を引いている。
まずは副業の仕方を考え直すために、SNSのアカウントを消すところからはじめないとと思い至って、家路に着いたのだった。
****
「お義母様、そういうのは辞めたほうがいいですよ」
お通夜の前。
遺族控室にそっと設置された棺桶には、清められた青年が眠っていた。母の手縫いの浴衣に足袋に下駄。旧家の息子としてどこに出しても恥ずかしくなく育てた次男は、まだ大学に入ったばかりであった。
長男の嫁のたしなめる声に、息子を亡くしたばかりの姑は「だって」と嗚咽を漏らす。
「この子はまだ成人もしてないのよ? 結婚だってしたかったに決まっているわ。あの子シャイだったから、中学でも高校でも、気になる子を遠巻きに見ているだけだったけれど。だからいいじゃない。死ぬ間際くらい、いい思いをしたって」
そう言って一枚の写真を添えた。
溌剌とした笑顔が印象的な女性である。その写真は青年の知り合いでもなんでもない、たまたまネットを見て目に留まった女性の写真が気に入ったからと、勝手に印刷した挙句に、棺桶に入れようとしている。
嫁は助けを求めるように納棺師を見つめると、喪服姿の納棺師は姑にやんわりと伝える。
「奥様、大変お気の毒ですが、生きている方の写真を入れることはお勧めできません」
「どうして……!」
「冥婚というものをご存じですか?」
めいこん。嫁にも姑にも馴染みのない言葉であった。
「それはなにかしら?」
「死者と生者が結婚することです。死者が生者に執着してしまった場合、生者はあの世に行ってしまう可能性があるんです。イザナギはあと少しでイザナミに黄泉の国に閉じ込められるところでしたし、各国の神話でも死者に気に入られた生者があの世から帰れなくなってしまった話は多数存在します。ですから、息子さんのためにも写真を入れるというのは、辞めたほうがいいですよ」
「……おまじないじゃないですか。私が息子にお見合いをしてあげられたというおまじないです。大丈夫ですよ、彼女とは縁もゆかりもないんですから、迷惑はかけません」
そう言って、姑は写真を息子の手に無理矢理握らせてしまった。それに嫁も納棺師も止め切ることができなかったのである。
誰でもよかった 私じゃなくてもよかった 石田空 @soraisida
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