SNS映え

無名乃(活動停止)

  

 人気が少ない歩道。まだ、18時だというのに異常な静けさと暗さ。住宅地なのに不気味な霧。家の明かりさえ灯っておらず、別世界にいるような変な違和感。

 学校から家に帰宅するはずだった僕は一旦、十字路で足を止めた。すると、コンコンッコツ……と背後から止まる音。その音が耳に入った瞬間、鳥肌が立った。


 ――誰がいる――


 振り返らず、徐々に足を進め、歩幅を広げ走り出す。だが、コンコンッ……から、タンタンタンッと追い掛けるよう足音がついてきた。無意識だが直線よりも角を曲がった方が少しでも距離を離せるんじゃないか。そう思った僕は、外壁に手をつき勢いよく角を曲がる。背後の人物を振りきるように何度も、何度も――。


「はぁ……はぁ……」


 足音が消え、振り切った、と僕は外壁に凭れ座り込む。乱れた呼吸を整えようと目を閉じ深呼吸。その瞬間、目の前が暗くなった。瞼を閉じているはずなのに、それよりも暗く感じる。

 まさか――と、ゆっくり目を開けると目の前に黒いフードを被った仮面の男。手にはナイフを持ち、月の光がキラリと照らした。助けを呼ぼうと口を開けるもガッと手で勢いよく塞がれ、腹部に鋭い痛みが走る。それは一回ではなかった。何度も何度も微かに場所をズラしては、無造作に刺してくる。

 口から血が溢れ、息苦しい。切り裂かれた腹部からズルズルと何かが出てくるような気持ち悪さ。重い体が軽くなった気がした。

 仮面の男は、アスファルトに倒れ込む僕の髪の毛を掴み、少し乱暴に起こす。スマホで写真を撮ったか、ピカッと眩しい光が目に入った。赤いスマホ……いや、よく見ると一部が白い。

 男の手から解放されると僕はアスファルトに力なく叩きつけられ、その人は血に濡れた手で作業をしていた。


          ※



 深夜帯。

 通行人からの通報で暗い空間に赤いライトが灯る。複数人の警察に囲まれながらブルーシートにくるまれた死体が救急車へと運ばれていく。最近、多発しているSNSを巡った殺人事件。評価を得たいがために、人々は殺しに手を染めた。



 そして今も。また一人――。



 殺された人と仮面を被った人の写真。

 それは、新たなSNS映えだと指示を得ていた。


 腹部から流れる血。垂れ下がる臓器。

 それは新鮮だからこそ伝わる色合いに。

 観覧者は美しさに目を奪われる。


 男は写真のついでに呟く。

『生と死の狭間の人の顔は、死んだ顔より美しい』――と。

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