大文字伝子が行く95

クライングフリーマン

大文字伝子が行く95

 午前10時。伝子のマンション。

 ネグリジェのまま、ピーナッツバターとマーマレードをたっぷりかけた『フレンチトースト』を頬張っている。カロリー過多だ。

 EITOのPCが起動し、アラームが鳴った。

 伝子は、慌てて着替えに走った。高遠がディスプレイの前に座った。

 「あれ?高遠君。大文字君は?」「今、着替えに行ってます。昨夜は徹夜だったので・・・。」(裸同然って言えないよな)と、高遠は思った。

 「まあ、いいだろう。戸川しんきちの彼氏だが、通称ユンという那珂国人。中津興信所からの報告によると、市場調査員が、ある女がビルに入って行って、出てきたのが男でびっくりしたことがあるらしい。そこは、無人のビルの筈なのに。と。数々の火災現場近くで目撃されたにもかかわらず、捕まらなかった謎が解けた。彼は女性だった。今時の言葉でそう言うのか分からないが、男装女子だった。ユンが歯を痛めてから、暫く通ったのが、戸川しんきちが歯科衛生士として勤めるデンタルクリニックだった。歯科医の証言と、先の調査員の証言を重ねると、火災の前後に、女から男へ、男から女へと姿を変えていたんだ。戸川自身の証言によると、『男と間違われる』『女と間違われる』という共通の話題で盛り上がり、『恋仲』になったらしい。死ぬときにユンが言った通り、戸川は巻き込まれて組織の一員になったんだ。」

 「なるほど。」いつの間にか、Tシャツとジーンズに着替えた伝子は言った。

 「香水のにおいなんかはしなかった。でも、ユンからは女のにおいがした。おかしいと思ったが、そういうことでしたか。それで、紙片の解析は?」

 「暗号だと思い、文章を解析したが、分からない。草薙が、ワープロの『透かし彫り』機能じゃないかと言ったので、確認したら、そうだった。文面はこうだ。『双子の使い魔がいる。彼らは1セットだ。複数の使い魔が行動を起す予定だ。』詰まり、ああいう死に方をする事を想定して用意した、『遺書』だよ、大文字君。」

 「ヒントは有り難いが、複数の使い魔の一団と対決は厳しいな。」伝子は呟いた。

 「救援態勢は考えておくが、奴らの動きは見逃さないようにしないとな。」画面は消えた。

 「伝子。お昼はカツカレーでいい?」「げんかつぎか。いいよ。」

 同じ頃。午前10時。フィットネスクラブ。編集長は、フィットネスのグループレッスンを終えると、仲間達とロッカールームに戻った。

すると、死体が転がっていた。「触っちゃダメ。110番するのよ。」

近くを通っていたパトカーが急行した。橋爪警部補と愛宕だった。

 「山村編集長じゃないですか。第一発見者は山村さんでしたか。」と、愛宕が尋ねた。

 「正確には、私たちのグループの男子、ね。私はオカマだけど、男子の部。」「現場保存して頂いたのですね。ありがとうございます。」

 「愛宕君。お知り合い?」「ええ。以前、フィットネス立てこもり事件で協力して頂きました。大文字先輩と高遠さんの仕事を担当されている、みゆき出版社の編集長の山村さんです。」「よろしくお願いします。」二人の会話を聞いた山村は、橋爪に名刺を渡した。

 井関率いる鑑識が到着した。「おや、編集長さん。久しぶりですなあ。」

 懐かしがる井関に、甘えた声で編集長は、「ねえ、井関さん。現場保存はしたものの、私たちまだ着替えてないのよ。被害者踏んづけて着替えられないし。ずっと、待ってなきゃいけない?」

 「橋爪君、ここの経営者に、どこか着替える部屋を用意して貰って下さい。」と井関が橋爪に言ったが、「小部屋は用意出来ますが、それよりジムで着替えて貰った方がいい。受付には既に後の時間のキャンセルをさせていますし。」と声をかけた者がいた。

 「ああ。社長。橋爪さん、社長の富山さんです。」と編集長は経営者を紹介した。

「じゃ、ロッカーキーを持って、廊下に並んで下さい。私の部下が順番にロッカーの中身をお渡しします。」と井関が提案し、男性会員達が並んだ。

「それと、橋爪君、愛宕君。EITOにも連絡してくれるかな?」と、井関はお名前カードを見せた。

 正午。伝子のマンション。

 2人がカツカレーを頬張っていると、EITOのPCが起動した。

 「食事中に悪いな。葉山震吉という人物が、フィットネスで殺された。山村編集長が通っているジムらしい。今、警視が現場に向かった。一佐が大文字君を迎えに出発した。食事が終ったら、平服で現場に向かってくれ。」

 画面は消え、2人は、あっという間にカツカレーを平らげた。

 チャイムが鳴った。伝子は着替えに走った。

 午後1時。フィットネスクラブ。

 「捜査本部に移動する前に、現場を見ておくかね?大文字さん。もう鑑識は引き上げたよ。愛宕君は先に捜査本部に向かったよ。」事務所で出迎えた橋爪は、伝子に言った。

 伝子とあつことなぎさは、現場である男子ロッカールームに向かった。

 窓は開いていた。犯人が逃走する際に壊したらしい。

 「凶器は無かったんですね?」と、伝子は念の為尋ねた。「犯人が持ち去ったと考えるのが普通ですよね。」「アシがつく恐れがある武器ですね。」

橋爪の感想に、伝子は「この窓・・・あつこ。井関さんに壊れた窓の破片を採取して組み立てて貰ってくれ。」と、あつこに言った。

 その時、伝子のスマホに電話が入った。伝子はスピーカーをオンにした。

 「アンバサダー。EITOに来て下さい。使い魔からの挑戦状が来ました。」

 「おねえさま、行って。なぎさも。後は私たちが何とかするわ。」と、あつこが言った。

 午後2時。EITOベースゼロ。会議室。

 《俺は新しい使い魔だ。お待たせしたな。仲間からはヒヨコマメと呼ばれている。そう呼んでもいいぞ。決行日は1月22日だ。親切だろう?何が起こるかって?それを予想して防ぐのが、お前らの仕事だろう。ああ。兵隊は500人用意した。葉っぱだな。今の内、会いたい人にあっておけ。》

 伝子達が来ると、ホワイトボードに、メールの全文が貼られていた。

 「かなりの自信家だな。この組織は、この手の輩が多いな。『親切』は『新節』のことだろう。草薙さん、今年の那珂国の新節はいつです?」「1月22日です。明後日ですね。」草薙は即答した。予め、調べておいたのだろう。

 「詰まり、決行日だけはヒントとして確定している訳か。何でヒントを出すんだ?」理事官は、首を捻った。

 「ノーヒントでも、嗅ぎつけることが周知されたんでしょう。それじゃあ、とヒントで遊ぶ。余裕なのは、兵隊が多いからかも。」と、筒井が言うと、「兵隊って、我々と戦闘する要員のことですか?この頃は、はっきり、那珂国人だけのようですが。」と、なぎさが筒井に言った。

 「レンタルだよ。本国から、どんどん流れ込んできているから。コロニーの頃、完全な鎖国ではない、水際対策を行った。結果、コロニー以前より多い那珂国人が入国した。今のマフィアは、それに追加要員を送り込んで来ている。武力には自信があるのだろう。また、拳銃や機関銃で武装して来るかも知れないな。」

 「詰まり、犯罪自体は、少人数でも可能なものという訳か?筒井。」

 伝子の問いに、「イエス、マム。違った、アンバサダー。」と筒井も即答した。

伝子は筒井を無視して、「場合によっては、人海戦術ですね、理事官。」と理事官に言った。「うむ。それで、他にヒントは?」「私は、ヒヨコマメが気になります。単純に使い魔のニックネームとは、考えにくいです。」

 理事官の呟きに発言したのは、増田だった。

 「それは、調べよう。草薙、頼むぞ。」「はあ・・・探してみます。分からない時はエーアイ頼っていいですよね、理事官。」「許可する。」

 休憩中に伝子は、高遠にメールした。

 午後3時半。伝子のマンション。

森が栗饅頭を持ってやって来て、森と藤井と、高遠は、その栗饅頭で、お茶していた。

 高遠のスマホが鳴動し、Linenの電話に草薙が映っている。草薙はヒヨコマメのことを話した。電話は切れた。

 「ヒヨコマメねえ。インドが原産だったかしら。」と藤井が言い出した。

 「ヒヨコ豆カレーってあるのよ。今度作ってあげる。」「それだ!藤井さん、大好き!」

 伝子は後ろから、藤井の体に抱きついた。

 「あら。ごめんなさい。私、いけないもの見ちゃったわ。」と森が言った。

「すみません。」高遠は藤井に頭を下げると、PCルームで、何やらやって、EITOのPCを起動した。

 「理事官。伝子さん。1つだけ、襲撃候補が見つかりました。目黒区のJR駅前にカレー店がオープンします。1月22日に都内でオープンする広告が出ているカレー店は1軒だけです。インドカレーの店で、売りは、ヒヨコ豆カレーです。」

 「助かったよ、高遠君。『シンキチ』が絡むかどうかは分からないが。こちらは、歌手の大前進の写真集出版記念サイン会、東京タワーでの新春卓球大会、総理の23日からの国会に向けての官邸への移動、豪華客船ゆめ号の東京湾寄港で船を下りる『シンキチ』氏、JAL国際便で搭乗する『シンキチ』氏が確認されている。今回船や飛行機の乗員で『シンキチ』氏は見つからなかった。以前、東京駅を襲撃された時は、JR東海の乗員のシフトで『シンキチ』は見つかったから、東京に戻ってくる『シンキチ』を探したのは正解だった。それと、海自にも『シンキチ』がいることが分かってね。海将はゆめ号の護衛に彼も連れて行くと言っているそうだ。」

 理事官は、情報が増えた嬉しさの為か、饒舌だった。

 1月22日。午前0時1分。総理官邸。執務室。

 総理私邸からの荷物がトラックに積まれ、運び込まれた。

 運び込んだ運送屋の責任者らしき人物が、官房長官と共に挨拶に来た。

 「総理。全て運び終りました。」「そう。ご苦労様。」総理が挨拶を返すと、「では、今度は総理をお運び致しましょう。官房長官はまあ、ここの椅子で寛いでいて貰いましょう。」と、後から来た女が言った。官房長官は椅子に座らされ、責任者男にロープをかけられた。総理は、その場でロープをかけられた。

 「村田ヌル子。やはりあなたは・・・。」「そう。あんたらが言う使い魔の一人。明日の国会で、私らが折角作り上げた寄付金組織の情報を公開して貰っては困るのよ。」「寄付金組織?何のことだ?村田君。」「官房長官はネット情報音痴だったわね。」拳銃を持った村田は、感冒長官の問いに笑って応えた。

 「新総理は間抜けじゃない。だから、困るのよ。目障りなの。ただ殺したら、儲け損なうから、お金その他、頂く者を先に頂くわ。」

 「そうは問屋が卸さないね。」という声がした後、ブーメランがどこからか飛んできた。

 村田の拳銃は、撥ね飛んだ。責任者男のナイフも撥ね飛んだ。

 エマージェンシーガールズ姿の伝子が現れた。責任者男は、簡単にねじ伏せられ、伝子は男に指手錠をした。継いで、伝子は村田の肩を外した。

SP達が入って来た。SP達は、官房長官と総理のロープが解かれた。

 「エマージェンシーガール、後は我々が。」「お願いします。」と伝子はSPのリーダーに応えた。

 「エマージェンシーガール。信じていたわ。」と総理が言うと、伝子は頷き、去って行った。

 午前8時半。東京湾にゆめ号が着岸した。乗客が降りようとすると、白衣の一団がタラップを上がってきた。「流行病が発生した、という報せが入りました。我々保険局の調査が終るまで、下船しないで下さい。」

 リーダーらしき人物の言葉に、乗客の間から、船長が降りて来た。

 「船長の高橋です。下船するまでは、私が責任者です。あなた方を拘束します。偽の身分証を確認する必要はない。」

 船長の言葉に、「やっちまえ!」とリーダーは言った。

 「やっちまえ?じゃあ、正当防衛ですね。」船の内外から現れた、ワンダーウーマン姿の海自隊員達が白衣の一団を海に投げ込んで行った。

 15分で決着がついた。タラップを駆け上がってきた人物が言った。

 「もうコロニーは終ったんだよ。知らないのか。」その人物は、更に「私の部下達 もなかなかやるでしょ?船長。」と言い、名刺を船長に渡した。

 名刺には『船越親吉』と印刷されていた。

 午前10時。横臥書店の大前進の写真集出版記念サイン会。

真っ先に並んだ、那珂国人らしき男が、大前に拳銃を突き出す。

 どこからか飛んできたブーメランが、男の右耳を掠めた。

 「くっ!誰だ!!邪魔するのは?」「サイン会を邪魔しているのは、お前だろう。」

 エマージェンシーガールが現れた。すかさず、男は大前にナイフを当てがおうとした。

 「はい。ご苦労さん。公務執行妨害も加わるでねえ、おみゃあさん。覚悟してちょうよ。」大前ではなく、橋爪警部補だった。

雑踏の中で、様子を見ていて、立ち去ろうとした男女に、「ちょっと話を聞かせて貰おうか。」と久保田警部補と部下の警察官が立ち塞がった。

 午前11時。東京タワー。改装された展示室は、卓球台が置かれている。卓球大会が始まった。10分後。見物客の中から現れた男がダイナマイトに火を点けた。

エマージェンシーガールズ姿の増田が放ったシューターがダイナマイトの火を消した。

 シューターとは、EITOが開発した、うろこ形の手裏剣である。

 狐面の女と般若の面の女が、犯人を木刀で倒した。

 伝子と副島だった。中津警部補と警官隊が現れた。「ダイナマイトはね、こういう使い方すると危ないんだよ。幼稚園で習わなかった?」と、中津は言った。

見物していた観光客は皆、笑った。お面を被った女達はもういなかった。

 正午。目黒区。カレーの店エイジアン。

 開店前から行列が出来ていた、店に漸く客入れが始まった。

 30分過ぎ、瞬く間に店は満席になった。

 ある男が、「おい。店長呼べ。何だ、この店は?」と言い出した。

 通常は、この手の客は、無銭飲食だが、今日は違った。

 「ゴキブリでも入れて、飯代ただにする積もり?全部食ってから、ゴキブリはない、よなあ。」

 高遠が言うと、「なーにー。お前は誰だ?」「あなたこそ誰ですか?使い魔?手下?枝?葉っぱ?」「お前、舐めてんのか?」

 「舐めてるのは、あなたね。」店主のインド人がやって来て言った。

 「ゴキブリが迷い込む程、ウチのカレーは旨いよ。宣伝、ありがとね。」店主が済ました顔で言うと、男はスマホで仲間を呼び出した。

 仲間はなだれ込んで来た。店の客に一斉に拳銃を向けた男達だったが、客達も一斉に拳銃を男達に向けた。

 店主の後ろから、エレガントボーイ姿の青山が現れた。「今回は警官隊を呼ぶ必要がない。

 午後3時。東京国際空港。

 駐車場に向かおうとする人物に、「阿久根震吉さんですね。あなたは、です・パイロットに狙われているので、保護しに来ました。警視庁の松前警部補です。」と、警察官の格好をした人物が寄って来た。

 「です・パイロット?何のパイロットです?聞いた事無いな。」

 「ですよね。では、教えてあげましょう。」男が合図をすると、数人の男達が現れた。

 「その前に、私たちが教えてあげるわ。」現れたのは、警察官姿のあつこ、みちる、あかり、結城、早乙女だった。

 不意を突かれた男達は、拳銃を持っているにも拘わらず、あっという間に倒された。

 午後4時。田園調布。高級住宅街。

 3人組の若い男達が、侵入した家から出てくる。

 「ちょっと、聞きたいことがあるんですが・・・。」

声をかけた老人に驚いた、3人組は逃げた。だが、20メートルも走らない内にもんどり打った。筒井がDDバッジを押した。老人は福本日出夫だった。

 「何か、雀取りみたいやな。」「やったことあるの?」「やっぱり串焼きやで。」

 総子が筒井とやりとりしている内に、警官隊が駆けつけた。

 この高級住宅街で『シンキチ』は一人だけだった。予め留守にしてもらい、貴重品や宝石、金目の物は持ち出して貰っていた。高齢者を狙って銀行強盗を繰り返す連中はSNSの記録で明らかだった。連続強盗事件なだけに、警察が手を焼く事件だった。

 午後5時。渥美埠頭。

 那珂国マフィアと、半グレの組織絵夢商事の取引が行われようとしていた。

 「ちょった待ったあ。」エマージェンシーガールズが彼らの前に現れ、勢揃いした。

 「エマージェンシーガールズ?」「順番に名乗りを上げてやろうか?」と、なぎさが挑発的に言った。

 「そんな悠長なことしていたら、文字通り日が暮れちまう。畳んでしまえ!」

「畳むのは、こっちの仕事なんだよ!」マフィアと半グレの反対側にもエマージェンシーガールズが現れた。

 ヤケクソになった、マフィアと半グレは支離滅裂な攻撃を始めた。30分後。大勢のならず者は、空を見上げて寝転がっていた。

 少し離れた所で、見ていた人物がいた。久保田管理官は、富山社長に手錠をかけ、言った。

 「何故、手錠をかけたかは、お分かりですよね。あなたは、借金を返す為に半グレの手先になった。あなたが殺した相手は元社員。あの窓に細工をして、麻薬を隠していた。それを見付けた社員を殺し、麻薬を取り、窓を壊して、何食わぬ顔でオフィスに戻った。残骸から血痕が見つかりました。犯人は逃走したんじゃなかった。あなただから。」

 部下の警察官が来て、管理官は社長を引き渡した。

 「編集長は、フィットネスと相性が悪いのかな?また、巻き込まれるなんて。本人が気にする程の体型じゃないのに。」そう言った柴田管理官に久保田管理官は言った。

 「人間には好かれているんだけどな。」「それにしても、やはり、大文字さんは凄いな。」「知ってる。

 二人は笑って、出ていった。

 服部のアパート。

 服部源一郎が歌を歌い、コウが合わせて歌っている。

 久保田邸。

 久保田誠とあつこが、恋太郎をあやしている。

 副島邸。

 玄関に、「本日は雪の為、書道教室をお休みします。」の貼り紙。

 副島の菩提寺。

 副島と3人の『シンキチ』と、天童達が座禅を組んでいる。

 森のアパート。

 森淳子が、洗濯物を取り入れている。

 南原邸。

 南原龍之介と文子が、帰宅する生徒達を見送っている。

 福本邸。

 福本和子と祥子が、縁側で犬のサチコとジュンコに餌やりをしている。

 福本英二と福本日出夫が出てくる。

 山城のアパート。

 山城順と南原蘭が、巡洋艦模型を見ながら語らっている。

 依田邸。

 DVDを見ながら、依田英介と慶子がメモをとっている。

 一ノ瀬なぎさのアパート。

 一ノ瀬孝の写真立ての前で倒立をしている。

 愛宕邸。

 愛宕寛治とみちるがジェンガをして遊んでいる。

 物部のアパート。

 窓を開けたまま、ベッドに眠っていたが、ベッドから起きて、窓を閉める。

 伝子のマンション。

 大文字伝子は、夫の学、従兄の総子、藤井康子、大文字綾子と、何かの料理を作っている。

 外は、ちらついていた雪が、粉雪になり、牡丹雪になり始めていた。

 伝子は思っていた。束の間の平和も悪くはないな、と。



―完―




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大文字伝子が行く95 クライングフリーマン @dansan01

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