第140話 未来に向けて米内光政内閣が発足した
~前書き~
政治的な要素が大半を占めるため、苦手な方は読まないことを推奨します。また、政治的な主義主張を行うものではなく、あくまでも、仮想世界のフィクションであることをご理解ください。
そして、本話が『大日本帝国必勝論』の本編最終回となります。
~本編~
1947年5月22日
吉田茂内閣は衆議院選挙の結果を受けて総辞職することになった。幣原内閣を引き継いだ形の吉田内閣は真っ当に役目を終えたのである。これからは戦後改革が待った。よって、改革を推し進めるに適した人物が選ばれるが、軍を辞めて政界進出した米内光政氏が浮上する。
吉田内閣は最後の総仕上げと言わんばかりに大日本帝国憲法の大改正を敢行した。改正自体は幣原内閣の時点で予定されており、各議員から国民まで浸透している。議員と国民は憲法改正に反対することなく、時代に合わせて柔軟に変容するべきとの認識を共有した。
その改正内容は多岐にわたるため、重要な箇所だけを以下に抜粋する。
【改正内容】※一部抜粋
・多党制から二大政党制(自由党と民主党)への転換
・内閣は議会が決定する
・貴族院は名誉職とし、原則として民主的な衆議院が優越する
・国民の自由を保障する
・天皇主権を国民主権へ徐々に移譲する(=臣民の廃止)
以上の他にも多数改正されたが、全て挙げてはキリがないため省略した。
そして、米内光政内閣から戦後日本がスタートしたと言ってよい。というのも、米内内閣成立に追い風となったのがヨーロッパ復興に必要な物資の需要だ。ドイツの攻撃を受けた国の中でも、特にフランスとオランダは日英仏蘭同盟の名残がある。両国と日本のパイプが図太くあり、日本から優先的に供給を受けているが、日本国内向けが無くなると本末転倒だ。したがって、各国間で調整を図り所々にアメリカをまぶしている。
この爆発的な需要はヨーロッパ復興需要と呼ばれた。戦後で落ち込みが見えた工業が復活し、弾薬の規格が同じ強みを活かして武器輸出も奨励され、日本には経済成長期が到来する。しかし、環境問題や貿易摩擦などの諸問題が積み重なり、米内内閣に試練が待ち受けた。
そんなこんなで平和が訪れた海軍も改革が急がれるが、連合艦隊司令長官は今日もノビノビと過ごす。
「どうも、まだ長官の椅子から降りられては困ると言われてしまいました。山本大臣からも留任を強く求められ、なんとも、水雷屋が居座り続けるのはどうかと思います」
「山本大臣の気持ちは分かります。私は田中さんが一番だと、強く思っていますよ」
「木村さんに言われると照れました。まぁ、確かに私は地中海の魔物と呼ばれた将です。諸外国の海軍には名が轟いて色々とやり易いのでしょう。イギリスの観艦式に出席した際は、それはもう大歓待でした」
平和に伴い地上の建物で過ごすことが増えた大日本帝国海軍連合艦隊司令長官の田中頼三大将は、叩き上げの水雷屋のため地上より艦上にいる方が落ち着いた。仕事の合間を縫って暇さえあれば皇国に立っている。
田中提督の旧来の部下は出世して司令官になり、今の部下は将来を期待された若者が占めた。実戦を聞いたことしかない者もいるため、育成には苦労するが、未来のために後身を教育するのは悪くない。
今日は空いた時間に木村昌福中将が訪ねてきた。お互いに水雷屋上がりの穏やかな人物だが、いざ戦闘となれば鬼神の如き指揮を以て、対枢軸国戦で勇名を轟かせる。田中提督が連合艦隊司令長官に引っこ抜かれたのに対し、木村提督は現場勤務を頑として貫いた。昇進も蹴り続けては上層を困らせるが、両名の関係は極めて良好である。
「こうしてみると、本当に時代はあっという間に変わります。戦艦の時代から空母の時代になったかと思えば、航空機はプロペラからジェットになって、空母は装甲化と尽きませんね」
「金剛型は『金剛』を記念艦に残して解体されました。長門と陸奥も仲良く後身の糧となり、田中さんの皇国だけが存在するになるとは。私も予想していません。四四艦隊も消えて大鳳型以降だけとは寂しく思えます。しかし、いかんせん金食い虫ですから仕方ない」
特に出費の激しかった海軍は効率化と称する見直しが相次いだ。戦艦は所定の通りに皇国を残して廃止される。皇国は国威発揚の儀礼や各国の観艦式に出席し、日本の威光を放つ象徴で必要だ。皇国を除いた金剛型4隻と長門型2隻に練習艦等の旧型戦艦も解体され、解体で生じた粗鋼は後身に活かされ絶対に無駄にしない。
ただし、獅子奮迅の働きをみせた『金剛』は三笠同様に記念艦保存が決定した。金剛はイギリス製であることから日英同盟の生き証人にしたい。観光資源にもする狙いから海軍都市の呉に置かれた。
次に世界最強を誇る空母機動部隊も改編のメスが入る。四四艦隊は老朽化が激しく全8隻の解体が決定した。記念艦に残そうという声はあったが、維持費の都合が合わない。中型空母は新兵の育成用に改修して訓練用空母に改められ、練習機の離着艦や機体整備を学ばせた。護衛空母や軽空母らは大半が解体と決まるが、中には多目的輸送艦と姿を変えて陸海空の三軍に必要な人と物を運んでいる。
巡洋艦と駆逐艦、潜水艦はアジア諸国に売却又は譲渡された。小型艦は沿岸警備隊や創設間もない海軍に求められる。将来の主戦力を担う新造艦は日本海軍の仲介で日本企業に発注した。
要は戦後の軍縮であるが、太平洋一帯を守護るため、未だに世界最強海軍を誇る。
「噂をすれば、ジェット戦闘機の雷電が飛んでおります。レシプロの音は聞こえなくなるのでしょうなぁ」
「いえいえ、レシプロの汎用飛行艇は現役ですよ。アメリカ製を押しのけた川西製が世界の市場を席捲しています」
「あぁ、遂に日本製が世界を包み始めましたか。いやぁ、年をとったと自覚しますね」
「まったくです」
これから先の日本はどのような道を歩むのは注視したいが、一先ずはここで一旦の区切りとした。
全ての英霊たちを称え、日本の勝利を祝おうではないか。
大日本帝国必勝論ここにあり。
完結
~あとがき~
改めまして、大日本帝国必勝論の本編完結となります。作者である竹本個人の嗜好が大いに反映された本作ですが、多くの方々に読んでいただきましたこと、心から感謝申し上げます。
竹本田重郎
大日本帝国必勝論 竹本田重郎 @neohebi
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