3話 ~絵葉書の中の三代目~

『お里の想い』


「三代目行っちゃうの?」

「そんなに、いじけないで四代目、ほら上を見てごらん」

「上?」

「こんなイカレた世界だけど、空はとっても青いんだよ。

この青さがあればいつかまた出会えるよ。さあ涙を拭いて」



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環琉めぐるの想い』


「ただいま~」


夜半過ぎに朱里あかりちゃんが帰ってきた音で、うちは目を覚ました。

その時、隣で寝ていたお里はすでに階段を駆け下りていた。


朱里あかりの姉御お帰り!」

「ただいま~お里~」


うちが1階に降りると、テーブルにはお土産がいっぱい置いてあった。

「朱里ちゃんおかえり~」

「ただいま~環琉めぐる~鮪やらイクラが手に入ったから、泊まらずに急いで帰ってきたよ!」

海から離れた砦の住人にとって生の海鮮は、ものすごく貴重なのだ!


ひゃはひゃはだ!


お里は食材を確認しすると手を上げた。

「わらわ、みんなに手巻き寿司作ってあげたい!」


小さなお里の提案に、小琥路こころちゃんと朱里ちゃんは、満面の笑顔だ。

そのくらいで・・・うちは思ったが、口には出さなかった。


嬉しそうな小琥路こころちゃんは、

「でもまだご飯を炊かないとねえ~」

「わらわ待つ!ねえ」

お里はうちに同意を求めてきた。

「このガキ!調子のってんじゃねーよ!」と思ったが、優しいうちは、

「うちも待つ」

と同意してあげた。


「あっそうだ!お里には良いお土産があったんだ」

と朱里ちゃんは、絵葉書が入った袋をお里に渡した。


新品同然の絵葉書には、着物を着た女の子のイラストが描かれていた。

そのセンスの良いイラストから、カトストロフィ前の物だろう。


「これは・・・三代目!お懐かしゅうございます」


お里はホントに感極まっていた。


「三代目?」

「うん三代目お里」

「三代目お里?お里ってそう言うシステム?」

「わらわは四代目お里を襲名したのじゃ。そして、わらわはずっと心の友にして心の師である三代目を探して、このイカレた世界を旅していたのじゃ」


この世界はイカレてしまったけど、その世界を着物で旅するお里もイカレてる。


「そうだ!絵葉書用の額縁があるから、入れてあげようか?」

小琥路ちゃんの提案に、

「えええええ~ホントでするか~三代目も喜びまする」

お里は、半端なくはしゃいだ。


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『小琥路の想い』


昼過ぎの緩やかなひと時、お客さんがひと段落して店の奥の部屋に入ると、環琉めぐるが絵葉書の額縁を見ていた。


「ねえ、見て、三代目がいない」

環琉めぐるが指差すさきを見ると、絵葉書の着物を着た女の子だけが消えていた。

「ホントだ」

「どういう事だろう?」

消しゴムで消せるようなものではないし、背景の絵も綺麗で素人には書き足せない。

「あっお里」

環琉めぐるの視線の先には、扉の所で、お里が哀しそうに見つめていた。

「お里ちゃん?」


お里は哀しそうな瞳のまま言った。

「とうとう真実に辿り着いてしまったようじゃのう」

「真実?」

お里はわたしの目をじっと見つめた。

座敷童がどういった存在なのかは解らないけど、普通の人とは違う異質な視線で、わたしは見られていた。


「真実を、あのストロガノフの件も含めて・・・」


あのストロガノフ?

カトストロフィーの事かな?

ストロガノフだとお肉料理に成っちゃうけど。

お里ちゃん、真剣そうな顔してるから、今は指摘するのはやめとこ。


「みんなが見ている世界は、虚構の鏡の中の世界。

みんなが現実だと思ってるこちら側は鏡の世界だったの、だから、三代目は見えなくなったの。虚構の世界で三代目は存在出来ないから」


「馬鹿じゃないの!」

環琉が口を挟んだ。


お里は三代目が映っていない絵葉書を手に持つと環琉に示し、

「じゃあこれはなんなの?あるべきものが存在しないこの事実は?」

「・・・・」

「わらわはずっと、座敷童として、異界に閉じ込められた人を見続けて来た。

人はわらわが真実を告げても、信じたりはしなかった。

それはそうだよね。そんな事信じられる訳ないよね。

ファンタジーだしライトノベルだし、でも、そう言う嘘みたいな世界の真実から目を逸らし続けた結果、あのストロガナフを起きてしまったんじゃ」


わたしは絵葉書の着物を着た少女がいた場所を触った。

その事実、その少女の喪失はとても切なかった。


そう言えば、旧文明が崩壊したのだって、現実的ではなかった。

でも実際、崩壊したし、そして砦の外は世紀末だ。



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『朱里の想い』



「ただいま~」

抹茶カフェの奥の部屋に入ると、3人が深刻な顔をしていた。

「どうしたの?」


哀しげな環琉が、

「朱里ちゃん、これ」

と絵葉書を渡した。


「ん?なに?」

「三代目が消えてる」

「うん」

「うちたちは異界に閉じ込めれれていたの!

嘘みたいん真実を信じることが出来なくて!」

「えっ?」

「これが真実なの」


何言ってるのか解らないけど

「これ女の子が映ってないバージョンだよね」

「えっ?映ってないバージョン」

「うん映ってるバージョンと映ってないバージョンがあるんだよ。ねえお里」



「おさとーーーーーーーー!」

環琉がお怒りだ。

「嘘つきのお前には、めーぐーるードロップキッーーーーーク!」

「ひゃぁぁぁぁぁぁ」

「許さん!」

「だってみんな深刻な顔してたから、わらわは雰囲気に合わせただけじゃ」




つづく

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砦の中の抹茶カフェ 健野屋ふみ(たけのやふみ) @ituki-siso

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