中島敦の憧れ

総題「わが西遊記」の一篇。
というても、本作と『悟浄出世』との二篇のみだが。
ほんとうに面白い。沙悟浄を主人公に据えるという発想からして。
けだし、沙悟浄は中島敦に近いのではないか。悩むことに悩み、とりとめのなくなってしまう。ある意味青春といえそうでもある。恋に恋する女の子、と本質的には変わらないだろう。
そして感じるのは、あくまでも私の感触ではあるけれど、悟空的なものへの憧れが、中島敦にはあったのではないか、ということ。善悪をこえて。
弟子の子路にも通ずるようにおもわれるし。
私も好きだ。
悩むことに悩む、とりとめのなくなってしまう、と先述したが、かといって決して不鮮明にならず、あくまでも明晰に、とりとめのなくなってしまうさまを描いてしまう、描けてしまう筆力。ほんまに、すごいですわ。長生きして欲しかった、とつくづく思いますね。
太宰治や松本清張と同年生まれです。

ちなみに本作は、『悟浄出世』より先に執筆されたもの。