第9話 考える余裕ができたってことか-9日目-
1月17日。発症9日目。
療養明け前日です。
午前7時。
起床。起きてすぐに部屋の芳香剤の匂いに気付きました。
やった! 匂いがする!
これなら嗅覚はあまり症状を引きずることもなく軽快しそうです。
そのまま検温したところ、36.4℃。こちらも平熱に戻りました。
咳はごろごろと出てはきますが、それでもえづくような酷いものではなくなってきてます。血中飽和酸素濃度の方は100%。のどの痛みは継続中ですが、炎症はどうやら肺での悪さを諦めて気管支まで後退してきているようです。
午前8時。
朝食にお粥……も少し飽きたので、母からもらったうどんを使って素うどんを作ることに。素なので具無し、スープと麺のみです。出来上がったものをずずずっと啜ってみると、ほのかに塩味を感じます。こちらも今日で落ち着いてくれたらいいのですが。
マイハーシスへの病状申告と、日課の職場への連絡。
上司「これなら来週の出張には間に合うかな」
ワイ「そっすね、そのつもりで養生します(愛想笑い)」
およそ10日休んで心の底から思います。
復帰したくねえ。主に仕事をしたくねえ。
午前中。
少しずつ病状自体が風邪の治り掛けのそれに近付いてきたので、怠けていたベッド周りの清掃(主にペットボトルとちり紙などの片付け)を進めつつ、実家の方にも症状が良くなってきていることを報告。
その後はずっとベッドでYouTubeを見ながら、ひたすらごろごろです。部屋から出ることが許されないので、できることと言えば飯を食い、水を飲み、風呂に入り、動画を見て、寝るくらいしかありません。
午後。
色々と考えごと。
今度の感染で強制的に外界から切断されて、考えごとをする時間は格段に増えた10日間でした。色々とごちゃごちゃ考えはしたんですが、やはり一番に思ったのはこれ。
コロナが風邪だと言いだした奴は一体どこのどいつだ。ということです。
風邪で死ぬ人は確かにいます。抵抗力のない赤子や高齢者、あるいは重症化する因子をもった持病のある人たち。でも、ほぼ健康体で通してきた、頑強な三十代の成人男子が死にかける病気って他にあるでしょうか?
少しの人との接触で、感染して明日をも知れない病状になる病気が他にあるでしょうか。それらがただの風邪だと安直に一つ括ってしまうというのはどうなんでしょうね。
話題が変わりますが、政治にも同じことが言えていると思います。あまり批評はしたくないんですが、ご時世で五類への引き下げという話が出ています。新型コロナウイルス感染症をインフルエンザと同等まで引き下げるというものです。
これも世の中の現状を考えれば致し方のないことなのかもしれませんが、その前に新型コロナウイルス上陸後の、この3年で学んだことをちゃんと活かせているのかと。
外では毎日、救急車のサイレンが聴こえます。うち何割かはまず間違いなく内側をビニールで覆った、感染者(及びおぼしき人)搬送用の車輌でしょう。そうした人たちは検査を受け、幸運にも入院できる人もいれば僕のように自宅に送り返される人もいます。そうなれば薬と己の免疫と運に頼る以外できることはないのです。
闘病とは孤独です。でも、はなからひとりで闘わせるような医療システムにしておいて、「後はインフルエンザと同じだから各自でなんとかしてね」というのはおかしいんでないでしょうか?
社会という巨大な機構を動かすために、千人万人の感染者を歯車として見て、その人たちの病や苦しみを脇目に見ながら生き残っている人が世の中を回す。
なんとも冷たく寂しい世の中になったなと思います。
などと、一丁前にあれこれ考えていましたが、ネガティブでも考えるゆとりができたってことかな。ええこっちゃ。
発症9日目。
体温:36.4℃。(解熱。この日をもって申告終了)
血中飽和酸素濃度:100%(この日をもって計測終了)
症状:咳・味覚異常のみに。
INGENのコロナ闘病記 INGEN @INGEN01
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。INGENのコロナ闘病記の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます