第60話

女神様を探しながら飲食店を歩き回る。

美味しそうな異国の料理がたくさん並んでいるのを見て、ふと思いついた。

「負のエネルギーに変わる存在、この世界にあるんじゃないか?ここはさまざまな国と年代、時には地球以外の人も来て発展してきた。そんな中からリリィ達を生かせる食材があるんじゃないか?」

伊達に食べ歩いてきたわけじゃない。

探せばきっとあるはずだ。

「よし!リーゼルさんに俺達と食べ歩きに行くよう説得してみよう!」

そう勢いよく言うと、ノイシュくんに首を振られた。

「そんなこと、今まであの方が試していない訳ないじゃないですか。その上でのあのような凶行ですよ」

「そうなのだわ。お兄様は私様より賢いのだわ。つまりはリツより賢いのだわ」

なんかボロクソに言われたぞ。

いい案だと思ったんだけどなぁ。

「それよりも、サハラさんはリーゼル様のこと様付けしなくなったんですね」

ノイシュくんに訊ねられて頬を掻きながら答える。

「いやぁ、まあ。偉い人だってのは分かるんだけどあの人の想いとか知っちゃったら親近感が湧いてさ。要はリリィや世界をなんとかしたいってことだろ?そんなん俺達と一緒じゃん」

「リツ…。そうよね、そうなのだわ!お兄様は私様のことを想っていてくださっているのだわ!」

リリィが元気を出したのをみて少し安心して頭を撫でる。

「まぁまぁ、とりあえず女神様もいないしもう一度リーゼルさんに話をしてみよう」

昨日の今日で少し渋るノイシュくんと覚悟が決まったリリィを引き連れて、お土産に美味しそうなパンやお菓子を買い込んで再び白い扉の前に立つ。

「リーゼルさーん!一緒にお昼でも食べませんかー?」

ノックをしながら大声で呼びかけてみると扉は自動的に開かれた。

「なんなんですか、貴方。私と昼食を摂る前にやることがあるでしょう」

気怠そうに椅子に座るリーゼルさんに睨まれた。

「負のエネルギーなんかより美味しいもので維持出来ればと思いまして。これ、めちゃくちゃ美味しいので食べましょう」

へらりと笑って誘ってみれば、溜息を吐かれた。

「千年くらい前にもいましたよ、そんな馬鹿」

言いながら、指をパチンと鳴らして食卓を出してくれた。

魔法って便利〜。俺もやってみたら出来ないかな?

「千年も経ったら食事もレパートリー増えてるんじゃないですか?例えば俺が作ったチーズもなかったでしょう」

「チーズなんて、ここから北国へ行くと数百年前からありますよ。その時も魔王候補として召喚した者が食生活が云々で各地で試していましたが。あなた方の国には伝わらなかったんですね」

なん…だと!?俺があんなにテレビの知識を駆使して親父さんと作ったチーズがもうすでにこの世にあるのか!?

崩れ落ちる俺をノイシュくんが慰める。

そうだよな、ノイシュくんも頑張ってくれたもんな。

「北国のチーズ、今度食べに行こうな!」

「はい!」

「いえ、その前に貴方は魔王になるか私が新たな魔王を召喚するかの瀬戸際なの、理解していますか?私はこの世界に争いの種を蒔き、負のエネルギーを回収しようとしているんですよ?」

うんざりとした表情だ。

最初の頃の鉄仮面より感情を見せてくれるようになった。

「なんですか、ニヤニヤして」

「いやぁ、ツンデレ萌えはなかったけど可愛いもんだなって思いまして」

リーゼルさんはリリィの方を向くと嫌悪の表情を浮かべて言い放った。

「リリィ、君の友達って馬鹿ばかりだな」

そして、ようやく年相応…とはいっても俺よりも何千歳も歳上だけど、の笑みを浮かべた。

「お兄様!そうなのだわ、私様のお友達もお兄様も周りにいるのはお馬鹿さん達ばかりだからリリィがしっかりしてなきゃダメなのだわ!」

「リリィにまで正面切って馬鹿と言われるなんてな。あんなに小さくて父様や僕の後ろに隠れていたリリィが」

感極まっているシスコンリーゼルさん。

「まあ、あれです。とりあえず昼食を食べましょう!」


「そういや俺、魔王になるために呼ばれたってのに勇者シリーズの防具や剣を装備出来るんですけど」

もぐもぐと咀嚼し終えたら疑問に思っていたことをリーゼルさんに訊ねる。

「ああ、それは以前も言いましたが人の子が貴方を勇者と定義付けたので世界が貴方を勇者と認識したのです。魔王と私が定義付けているので魔王の装備も着れますよ」

まじかよ。俺、オールマイティー!

「三百年前に召喚した人物はわりと快く魔王になってくれるといってくれたんですが、村娘と恋に落ちて三日で退職しました」

「それは無責任ですね」

「ええ、ですからリリィに魔王を辞めさせる前に魔王の装備だけ手渡した状態で行方不明です。まったく。そんなことのために能力値を上げたわけではないのに」

「ふーん」

ところで、俺は今勇者セットを持ってきている。

ここで魔王セットが加わったらどうなるのか。

ふとした疑問はむくむくと俺の心を占めていく。

「そんなわけで今度は真面目に魔王をやってくださる方を召喚したのですが、真面目すぎて学者になりますし。異世界人ってどうなっているんですか」

リーゼルさんの愚痴は止まらない。

俺達はふんふん聞きながら、このパンめっちゃ美味いなと思いながら考えていた。

「そんなふうに今までの召喚者も勇者にも魔王にもならなかったなら今のままでも大丈夫なんじゃないですか?」

リーゼルさんは首を横に振った。

「駄目ですね。年々魔力と魔族としての衰えを感じます。緩やかな死、ということでしょうか。エネルギーの枯渇問題は真綿で首を絞めるように私達を苦しめていきます」

時間はあるようでないってことか。

だからこそ戦争なんて凶行を思いついたんだろうし。

「それでも、戦争なんて酷すぎます」

ノイシュくんが悲しそうな顔をする。

「では、それ以外のエネルギー代替え策をお持ちください」

「それはつまり、それでリリィやリーゼルさんが生き長らえればいいんですよね?」

「はい」

「お兄様…」

リリィも不安そうな表情だ。

このままこの兄妹を放って置けないよな。

「分かりました!リーゼルさんとリリィが死なない方法を俺達で探してみます!」

胸をドン!と叩いて勢いよく格好をつけたらめちゃくちゃ咽せた。

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レベル999の最強勇者として召喚されましたが、やることがないのでのんびり生きていきます 千子 @flanche

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