第148話 スキル上限解放

「いやぁ。最後のアレは危なかったねー」

「ほんと。鼻が伸びるなんてビックリだよっ」


 例の丘に帰還して早々、夏歩と明香里が笑顔で語り出す。


 今は全員が地べたに座り、ダラッと身を投げ出しているところ。無事に逃げ延びた俺たちは、張りつめた緊張の糸が完全に切れていた。


「でも頑張った甲斐がありましたよ。昭子ちゃん、龍平くん、おつかれさまでした!」

「いやいや。みんなの成果ですって」


 小春にめられ、少し照れ気味に答える龍平。その隣に座る昭子は、コクリと頷きながらも反省点を口にする。


「あの鼻。肉を剥ぎ取ったのがキッカケでしょうか。あのまましがみ付いていたら、死んでいたかもしれません」


 運がいいのか悪いのか。たしかに、あのとき振り落とされたのは僥倖ぎょうこうだった。目測とは言えど、あの長さなら背中への攻撃も可能だったはずだ。無理にしがみ付いた末、首をねられなくて本当によかった。


「なあ昭子、反省は食ってからにしようぜ。もう時間もないしさ」

「……そうね。まずはスキルの取得が最優先よね」


 そんな昭子の手元には、握りこぶし3つ分くらいの肉塊が――。それこそ霜降り肉のように、綺麗なサシがバランスよく入っている。


「傷の再生が早くて手間取りました。けど、これだけあれば問題ないかと思います」


 言いながら肉を取り上げる昭子。血塗られたナイフを取り出すと、サッと一切れ分の肉を切り分ける。


「では秋文さん。スキルプレートをお願いします」

「え……? また生のまま食べるのか?」

「もちろんです。さあ早く」


 なんだろう。「焼いてしまうと効果がないかも」ってことだろうか。理由はさておき、俺は言われるがままに肉を放り込まれた。


「うん。やっぱ旨い。でも、できれば焼いて食べたいかな……」


 飲み込んで感想を述べてみるが、誰ひとりとして聞いちゃいなかった。全員、俺のプレートをガン見しており、口をまごまごとさせている。


「ねえ冬加。なんでどのスキルもレベル2なの?」

「さあ? 散々、肉を食べたからじゃない? この2日間の分で上がったとかさ」

「でも、スキルが発動したのは今だよ?」


 夏歩と冬加の会話に釣られ、何事かとプレートに目を落とす。


 すると、どういうカラクリなのか。既存のスキルが軒並みレベル2に上がっていた。『スキル上限解放』は黒字に変わり、ほかと遜色のない色合いとなっている。


===================

『視力強化 Lv2』 ※転移時から所持

『筋力強化 Lv2』 ※イノシシ効果

『耐久力強化Lv2』 ※アルマジロ効果

『持久力強化Lv2』 ※オオカミ効果

『治癒力強化Lv2』 ※ウシ効果

『能力上限+2』   ※ハイエナ効果

『スキル上限解放』  ※マンモス効果

=================== 


 ひとまずスキル上限解放については問題ない。黒字になった以上、正式に発動したと考えていい。


 ハイエナによる上限値が変わらないのも、まあわからんでもない。そもそも、そんなに都合よく上がるとは考えてなかった。


 そしてほかのスキルレベルが上がったのは、おそらく冬加の意見が正しいのだと思う。


『表記レベルは変わらずとも、薄っすらと文字が見えた時点で、効果が発動していた』


『正式に取得したことで、プレートの文字に反映された』


 と、たぶんこんな感じなのだろう。視力強化については不明ながらも、とりあえず上がるに越したことはない。


「不明な点はありますけど、スキルは取得できましたね」

「ああ。おまえらも食べてみろよ」

「そうですね。では皆さん、肉を焼く準備をしましょう」


 昭子の号令に合わせてテキパキと動き出す面々。「おまえらは焼くんかい!」と突っ込んだところ、「焼いたほうが美味いんでしょ」と華麗にかわされてしまった。



 結局、焼き肉パーティーは2時間ほど続き、各自が食える限界まで肉を喰らうことに――。


「もう無理もう無理」と言いながらも、プレートと睨めっこを繰り返す仲間たち。とくにこの世界でしか獲れない牛モドキを中心に、これでもかというほど肉を平らげていた。


 その結果、全員が『スキル上限解放』を取得。生肉だろうが焼き肉だろうが、能力発動には関係なかったらしい。俺と同じく、プレートの最下段に黒文字が表示される。


 ただ残念なことに、既存のスキルレベルは上がらず仕舞い。夏歩や明香里なんかは本気で悔しがっていた。


「よし。そろそろ行くぞ」

「うっ、待って。いま動くと全部出ちゃう……」

「お願い。もうちょっとだけ……」


 座ったまま両足を投げ出し、はち切れんばかりの腹をさする2人。そんな夏歩と明香里ほどではないが、ほかのみんなも似たようなものだった。


 これから向かう先は、以前、観測者と遭遇した場所だ。ゆっくり歩いたとして1時間以上はかかるだろう。そろそろ出発しないと間に合わないが……。


(この様子だとすぐに動けないか)


 まあ、出向いたところで遭遇できるとも限らない。こいつらがリバースするところを見たくないし、せっかく食べた分が無駄になっても困る。


「動けば腹が減るかもしれんが……仕方ない、もう少し休むか」


 と、軽い冗談のつもりで言ったところ――。


「あっ。じゃあ、牛モドキだけでも焼いておこうよ!」

「いいねそれ! お兄さん早く焼いてっ」


 まだ食うつもりのヤツが2名ほどいるらしい。


 結局は10分と経たずに動きはじめ、俺たちは山を下ることになった。




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2025年1月10日 18:00
2025年1月17日 18:00
2025年1月24日 18:00

異世界漂流 七城 @nana_shiro

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