7-2
「見えていても、乗れずかあ」
スマホの画面を見ながら、僕はため息をついた。「くにめぐりツアーが当たる!」キャンペーンに応募したのだが、妙なクーポンが貰えただけだった。当たり前だ、100万円ぐらいする大人気の景品に、そう簡単に当たるはずがない。
手の届く距離に来る豪華車両は、果てしなく遠い。
電話が鳴る。坂村先輩からだった。
「おお、今いいか?」
「はい。グダグダ過ごしてました」
「日曜さ、休みだろ」
「そうですね」
「『海に刻む風』乗らん?」
「えっ」
「海に刻む風」は観光列車で、熊本と本渡を結ぶ。中では地元の食材を使った料理を食べることができ、景色も楽しめるのでそこそこ人気の列車である。
「どうだ?」
「先輩とですか?」
「いやいや。まあ、あれだ。彼女と行く予定だったんだよ。で、ふられたのよ」
「ええ……」
「つうわけで本渡発、ペアチケット譲るよ」
「俺も一緒に行く人いないっすよ」
「何言ってんだ。ちゃんと誘えよ」
そう言うと先輩は電話を切ってしまった。
「ごめんね、急に」
いつも勤務している駅で待ち合わせというのはなんとも不思議な気分である。思わず改札の中に入ってしまいそうになるが、今日は切符を見せて入城しなければならない。
「いいよいいよ、ありがとう。これも乗ってみたかった」
安斎さんはいつもより明るい色の服を着ていた。持っている鞄もなんか上品に見える。
「もう止まってるよ」
「綺麗な列車だね」
海に刻む風は、青を基調とした爽やかな感じの車体だった。有名なデザイナーに頼んでおり、かなりお金がかかっているはずである。
「私服の町田君は不思議な感じ」
「そうかな。そう言えばいっつも制服だもんね」
高校の時も働いているときも、僕は制服を着ていた。おしゃれにこだわりがないので、制服の方が楽である。ただ、今日は少しちゃんとした外見を意識した。それぐらいの「格」はある列車である。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
改札にはニコニコした坂村先輩がいた。僕が切符を出すと、無言で「がんばれよ」と口を動かした。
天草鉄道物語 清水らくは @shimizurakuha
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