第102話:サンフランシスコ沖海戦①

 その頃、サンフランシスコ沖を北上していた南雲機動部隊では先に行われたパナマ運河沖海戦での日本海軍の一方的な圧勝の報に凄まじい歓声が沸き起こっていた。


「流石は木村長官ですな、南雲長官! 我々も負けてはいられませんね?」


「うむ、こちらも負けていられないな? 草鹿参謀長、我が空母の艦載機の具合はどうだね? 後、搭乗員達の士気は?」


 圧倒的な勝利の報を聞いた南雲だったがこの戦いで大敗すれば今までの勝利が無に帰することになるので改めて気を引き締める。


「(……もし、前世の記憶が思い出さなければ同じ失敗を繰り返すところだった。前世の記憶を蘇らせてくれた高天原の神々に感謝しないとな)」


 そんなことを考えていた南雲の下に通信員が駆け込んできて折りたたんだ紙を渡す。


 南雲はその紙を広げて文面を見ると伊400からの電文で現在の米国機動部隊の位置と戦力が記されていた。


「ふう、相変わらず……米国の国力は凄いか……。前の世界でも米国の圧倒的な物量の凄まじさに戦慄を覚えたと同時に私はサイパンで自決したのだが……」


 南雲の独り言に草鹿参謀長が??? の状態で南雲の方を見ると視線に気づいた南雲は何でもないよと言うと作戦の事についてしゃべる。


 草鹿の説明では搭乗員全てが鋭気を養って士気は最大限まで上がっている事を聞くと南雲は頷く。


「やはりここはアウトレンジで行く事にする。機種変換で新たに配備された“天山”“流星”を出すことにしよう。ゼロ戦52型は未だ数機しか届いていないが21型で頑張ってもらうしかないな」


 既に旧式となりつつある99式艦爆及び97式艦攻はサンフランシスコ基地に置いてきているのであった。


「長官、今の時間で出撃すれば米国機動部隊の上空には日が沈んだ頃に着くことになりますがよろしいのですね?」


「ああ、我々は戦争をしているのだ。何が何でも勝たなければいけないのだ。装甲空母“大鳳”を前面に出して中継基地とするからいける」


 各空母の甲板上では所狭しと艦載機が並んでいて発動機が咆哮を上げながら動いていてプロペラがゴーゴーと回っている。


 発艦数分前の信号が点灯したことを認識した南雲達幹部が艦橋から出てくる。


 それから数分後、搭乗員達が駆け足で愛機に乗り込んでいくと整備兵達が笑みを浮かべてお互いに頷く。


 そして……発艦良しの信号が点灯すると車輪留めを外された艦載機が次々と甲板を走っていく。

 南雲以下幹部が帽子を頭の上で振りながら見送る。

 見事な操艦で続々と各空母から出撃していく。


 220機の大空を掛ける鷹が羽ばたいていくのを南雲は感慨を込めながら見送っていたのである。


「(……日下艦長は大丈夫だと言っていたがVT信管の件は本当に大丈夫だろうか? あの悪魔には前世ではことごとくマリアナ七面鳥と呼ばれる如く味方機が次々と撃ち落とされたが……)」


 しかし南雲は直ぐに顔を振りながらその考えを否定する。


「(いや、絶対に大丈夫だ! 日下艦長が大丈夫だと言ったのだ、私は信じる)」


 南雲は既に芥子粒となっている友軍機の大編隊を見ながら思う。

 そして、彼らの視界から完全に編隊は消えた。


「西村少将に連絡! 西村艦隊はこのまま前進して米国艦隊に肉薄攻撃を実施せよ!」


♦♦


 一方、米国機動部隊ではパナマ沖の大敗北の知らせを受けて完全に意気消沈状態で正にお通夜状態でありパイロット達も戦う意欲を喪失していた。


 総旗艦である正規空母“エセックス”艦橋では『ウイリアム・カーリング』大将が悲痛な表情であった。


「言いたくはないが……この戦争をする意義は何処にあるのだ? ナチスドイツと戦うなら分かるが極東の小国である日本と戦う意味が分からん。元々、この戦争はあのルーズベルトが誘導したと聞くが何と愚かな事をしたのか! しかも日本は正々堂々と我が国に宣戦布告をしてきたというではないか。しかもあの大統領は何を狂ったか悪魔の象徴であるヒトラーと手を結んだと言う暴挙をしやがって」


 カーリング艦長の言葉に艦橋にいた幕僚たちも全くその通りと後に続くが副官のもっともな言葉に頷く。


「そうだな、我々は軍人だ! 勝つ為に戦っているのだ。今は政治の事は忘れていかにこの戦いに勝つことを考えよう」


「艦長、我が艦隊には日本海軍よりも3倍の戦力があり艦載機も2000機はありますので反対に叩き潰してやりましょう」


「……うむ、後1時間後で日没だな。本格的な出撃は明日の早朝からだ! 恐らく日本艦隊も夜間飛行を避ける筈だろうからな」


 カーリング艦長が気分転換に外の空気を吸おうと艦長席から立ち上がった時、突如直下型地震が来たような振動が“エセックス”に襲い掛かった。


 艦長以下全員が衝撃で飛ばされると共に一瞬で真っ二つに折れた船体に巻き込まれるように海中に没していった。


 その似たような情景はあちこちで見られた。


 次々と正規空母と護衛空母が真っ二つに折れて沈んでいくのを見た巡洋艦や駆逐艦は狂ったように爆雷を落としまくったが全く何の反応もなかった。

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伊400戦記 ー 大日本帝国陸海軍、布哇諸島・米国本土上陸する(なろうにも記載) @vizantin1453

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