番外編3「エリオットは私のどこが好きなの?」

「うん、もうほぼ完治だね。毎日薬を飲んでくれて良かった」


 フレッドが目覚めてから大分経ったころ、私とエリオットはベスティエ街の病院に来ていた。


 治癒魔術師の人が私の頬に触れて、笑顔になる。

 殿下に叩かれた頬は、もうほとんど完治のようだ。


「一応あと三日分薬を出しておくね。それでもまだ痛むようだったら、またいつでも来てくれ」

「はい、ありがとうございました」


 診察室から出て、薬師に処方箋を提出する。


「ね? 王都の病院じゃなくても大丈夫だったでしょう?」

「ま、まあそうだけど……」


 エリオットが私の腫れあがった頬を見て「病院に行こう」と言ってきたのだ。


 私はこのくらいなら放置していても治るだろうけど、念のためベスティエ街の病院に行こうとしたら、「王都の病院に行ったほうがいい!」とエリオットが真剣な表情で私の肩を掴んで言ってきた。


 理由は王都のほうが医療も発達しているし、魔法のプロである宮廷魔術師も一部病院で働いているから。

 私は大げさだと言ってエリオットの反対を押し切り、ベスティエ街の病院に行った。


 治癒魔術師は頬に手を当てて治癒魔法を送りこみ、薬を処方してくれた。

 そのおかげで、私はもう笑っても食事をしても頬は痛くない。


「さあ、家に帰って昼食の準備をしましょう。あ、それともカフェとか入る?」

「いや、アイリスは安静にしておくべきだ。家で食べよう。俺が作る」


 ほぼ完治してるし、頬だってもう腫れてないから外で食べても平気なんですけど!

 と、抗議しようとおもったけれど、エリオットの心配を無下にしてしまうのもなんだか申し訳ない。


 辻馬車を拾って家に帰り、エリオットが昼食を作り始めている間、私は読書をすることにした。


 こないだ書店で買った、『運命の番がもたらす影響』という本だ。

 私は『王シン』の殿下とミリアの話でしか、『運命の番』の仕組みを知らない。


 だからもっと知識を植え付けた方がいいと思って購入した。

 頁をめくって読み進める。


 『運命の番』同士は惹かれ合う存在、だけれど惹かれ合うだけであって、本当に想いを伝えて愛し合えるわけじゃない。だから、本当にお互いに愛し合えたとき、人間の髪先は獣人の髪色に染まる……。


 自分の髪先を見遣ると、本当に銀色に染まっている。

 なんだかいつでもエリオットを感じられるみたいで、嬉しい。


「アイリス。昼ごはん、できたよ。ボロネーゼなんだけど、いい?」

「わあ! 嬉しい! ありがとう!」


 エリオットが持ってきた皿に盛られているボロネーゼは、チーズがたっぷりかかっている。

 スープは私が朝食で作ったミネストローネの残りだ。


「ん~~~~! 美味しい!」


 いつもの挨拶をしてからフォークでボロネーゼを巻いて食べると、ソースに野菜のうまみが感じられ、パスタももちもちで最高の食感。


 できたてのあつあつパスタが美味しくてもきゅもきゅ頬張っていると、なんとエリオットが爆弾発言を放った。


「アイリスって、俺のどこが好きなの?」

「……むぐっ!? ごほっ、げほっ」


 危うくパスタを喉に詰まらせるところだった。危ないでしょ、エリオット!

 水を飲んで落ち着かせ、エリオットのほうをそっと見る。


 エリオットはにこにこ微笑んでいて、何の悪気もなさそうだった。


「そ、そうね……えっと……ま、守ってくれるところとか……努力家なところとか」

「本当? 俺、アイリスを守れてる?」

「たくさん守ってくれたじゃない。百貨店の前で絡まれたときとか、魔物に襲われそうになったときだって……」


 ぼそぼそ言うと、エリオットは満足気に笑んでいた。

 なんだかその余裕さが悔しくなって、私は唇を尖らせる。


「そういうエリオットは、私のどこが好きなのよ」

「アイリスの?」

「そう」


 私が聞くと、エリオットはますます笑みを深めて大きく息を吸った。


「俺が作ったご飯を美味しい美味しいって食べてくれるところ、髪が美しいところ、俺を支えようと頑張って働いてくれているところ、俺のことをいつも心配してくれるところ、笑顔が可愛いところ、」

「わーーーーー! ストップ、ストップ!」

「俺と話すときいつも楽しそうに頷いてくれるところ、仕事先の人とすぐに打ち解けられる気さくさを持っているところ、手先が器用なところ、アイリスが一生懸命料理を作ってくれて、それもすっごく美味しいところ、歩き方がちょこちょこしていて可愛いところ、仕草が上品なところ、あとは……」

「わかった! わかったから!」

「本当? 俺がどれだけアイリスを愛してるかわかってる?」


 エリオットが笑いながら首を傾げる。

 その仕草にきゅんときてしまって、悟られないように水を飲み込む。


「わ、わかってるわ……」

「愛してるよ、アイリス」


 顔を見てはっきりと言われてしまい、私はぼわっと顔が熱くなる。

 エリオットは口癖のように「愛してるよ」と言ってくる。


 恥ずかしいからそんなに言わないでと言っても、「愛を伝えるのは恋人同士にとって大切なことだろう?」と言って、たくさん伝えてきてくれる。


 私は気恥ずかしいと思いながらも、内心嬉しく思うのだった。

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ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~ 碓氷唯 @kisaragi

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