最後の一枚 墓前に手向けた花
それから間もなく、天海煉と神泉まほろの取調べが始まった。僕は証拠品の提出や証言を求められて何度か警察に赴いたが、捜査の進捗については断片的な情報が、時折耳に入る限りだった。
天海煉は神泉ましろに求められなくなり、鬱憤を募らせていた。そんな時、姉のまほろから、こんな話を持ちかけられたという。
『ましろの目の前で、双見現像に恥をかかせてやるのはどう?』
『ただちょっと脅かすだけのつもりだった。それなのに、こんなことになるなんて――』
天海煉は机に突っ伏し、後悔と懺悔の涙を腕に擦り付けながら、拳で何度も机を叩いたという。
一方、姉のまほろは、事件に関して自らの関与を完全に否定していた。しかし、ヒール部分に細工した形跡が見つかるなど、自分に不利な証拠が集まると、天海煉に例の悪戯を持ちかけたことだけは認めた。
なぜそんなことをしたのか。彼女の目的は、見ず知らずの人間を脅かすことではないだろう。しかし、妹への殺意を証明するまでの物的証拠はなく、警察は自白に頼るしかなかった。
『あなた、妹さんが目の前で亡くなった時、自分がどんな顔をしていたのか、一度その目で見た方がいいわ』
神泉まほろは、あの絵に描かれた自分の顔――光悦に歪んだ笑みを見て、こうつぶやいたという。
『私、妹が死んで、こんなにも嬉しかったんですね』
それは殺意を認めるということか。
警察の追及に、姉のまほろは首肯した。
『妹が生きている間ずっと、美術館に飾られた名画の横で、自分の下手くそな絵を持って立たされているみたいな気分だった。それがどんなに屈辱的で恥ずかしい人生だったか、あなたに想像できて?』
一年前に起きたあの事件について、僕が知るのはここまでだ。その後、二人が何の罪に問われ、どう裁かれたのかは聞いていない。聞いてどうなるものでもない。僕にとって他人の罪が重要なのではなかった。
僕が真実を知りたかったのは、僕自身が自分の罪――彼女の死の一因となり、代わりに生きてしまったこの罪を――受け止めるためだったのだから。
僕は今、神泉ましろの墓前に立っている。供花を手向け、ポケットの中から桜模様のハンカチを取り出す。手のひらに乗せ、もう片方の手で丁寧にしわを伸ばしながら、彼女に語りかけた。
「君は覚えているかな。あの日、駅のホームで泣いている僕に、君が貸してくれた油絵の布。ずっと借りたままだった。返すのが遅くなってごめん」
彼女にそっと布を返し、黙祷し、深い祈りを捧げる。じわりと熱い涙が込み上げ、目尻から溢れ落ちるのを止められなかった。
傷つけてごめん。僕だけ生きてごめん。
『来年会いましょう? 大学で』
あの時、素直に『そうだね』と言えばよかった。
到底謝りきれないけれど、せめてあの日の君に答えたかった。
春になったら君と同じ大学に通うよ。
だから、もう一度、君に会いたい。
了
PHOTOCOPY MEMORY ーボクの眼に写るモノー あしわらん @ashiwaran
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