第52話 取っ組み合いなんです?!
それから数日のうちに、私が日記をお父様に見せたのとご本人にも聞き取りをしたのとで、我が家のしきたりは廃止され、跡取りは末の弟であるマークスへの変更がなされました。
正直なところ私には少し荷が重いと思っていたので、適性のある弟に譲れて少し安心です。
頑張ってはいたので何とかはなったかもしれませんが、どうせなら領民もより発展させられそうな人が上に立つ方が安心ですしね。
事件についての全貌は、お父様と陛下から、後日場が設けられかいつまんでの説明を受けました。
おおよそは、先生がおっしゃっていた筋の通りで。
特筆するとすれば、宰相についてはずっとお母様達が追っていたそうです。
レイドリークス様が宰相の娘であるアリアータ様といっ時婚約していたのも、油断させるための一計だったらしく。
だいぶ狡猾に証拠を残さずあれこれとしていたようで、やっとの尻尾がローゼリア様と組んだ後あたりから出てきたとの事。
そのローゼリア様ですが、ご実家にいる義理の妹さんが手酷い折檻を受け、また自身も暴力にさらされており、なるべく身が安全なよう言いなりになっていたということで、妹さんと一緒に今は保護されています。
ただ、したことがしたことですので、然るべき罰を裁判の後受けるとのことでした。
彼女は、静かに納得したそうです。
第三皇子の一件については、恐れ多くも陛下から直々に謝罪がありました。
「……レイドリークスを、あれが目の敵にしているのは知っていた。けれどその歳特有の、いっときの気持ちだと思うておった。フェルナンテスも、私にとっては可愛い子供だったのだ。あれの行いを除けば、だが。本当に、申し訳なかった」
「第四皇子殿下の計らいで、大事には至りませんでしたゆえ、謝罪を受け取りおさめとうございます」
「ありがとう」
陛下は、少し涙ぐんでいるようにも見えました。
命は、命です。
私は冥福を祈りながら御前を辞したのでした。
その第三皇子は、外向きの死因を伝染病による病死と発表され、ひっそりと葬儀が執り行われました。
レイドリークス様の養子の件は、陛下も皇家がしたことは過ちであったと認め立ち消えになる……ところだったのですが。
彼が私に相談してきたので話し合い、陛下と公爵家に自分は養子に入りたいと伝えました。
彼の「家族になり、孫ができ、そうして続く人の営みを感じてもらえないか」という気持ちを陛下と公爵家が尊重してくださり、最終学年で養子となる手続きが進んでいます。
事件の全てに決着がついたのは、竜の咆哮が聞こえたあの夜から一ヶ月が過ぎてからで。
季節は、夏を迎えようとしていました。
七月。
学校の制服が長袖から半袖へと衣替えを済ませた頃。
私は朝食を済ませ学校へと向かう準備を自室でしていました。
そこに、コンコンというノックの音がし、入室を許可したセルマンが彼の来訪を告げます。
一ヶ月ぶりに会えるとあって、私はそわそわしてしまいましたが、それを見せるわけにはいきません。
落ち着いて玄関ホールに向かう旨の返事をし、身なりがきちんとしているかをメリーアンに確認してもらってから、彼の元へと向かいました。
階下への階段を降りている途中でした。
なんだか喧嘩のような声が聞こえてきたので、足早にその場へと向かいます。
「何も横から掻っ攫うようにしなくたっていーだろ! レイドの馬鹿〜!!」
「
「チキンって言うな! 最低限の節度だろ?! 一回滅びろこの下半身!!」
「一緒に住むとかなんて羨ましいんだ! お前こそ一回滅びろ!!」
ホールで、弟とレイドリークス様が取っ組み合いの喧嘩をしていま、す?
え、なんでです?!
軽く混乱しながらも、うっすらとは私についての事で言い合っているのはわかりました。
けれどなんというか、仲裁できる気がしません。
なんというか……は、恥ずかし過ぎます!
私はそんな男子二名をほったらかしにしたまま、取り敢えず馬車へと乗り込むために素早く家を出ました。
やだ、後ろから追いかけてきますよ、巻き込まれたくない!
「待って、姉上〜!!」
「ちょ、なんで置いていくんだ、ルル!!」
今日は快晴、気持ちのいい風が吹いています。
私は乗り込んで出発させた馬車の窓を開け、少し外の風を中に入れました。
それと同時に、だんだんと遠ざかる彼と弟の声も入ってきます。
無視です、無視!
勿論、ずっとというわけにはいきません。
けれどこれからもきっと日常は続いていくので、今日位は結論を出さなければならない関係も、進めなければいけない関係も、ちょっとお休みです。
いつも闘っていたら、流石に疲れますからね。
そう思いながらふとかける言葉を思いつき、窓を声が通るくらいに開けました。
そして二人に届くように大きな声で言い放ちます。
「私、学校卒業までは困ります!!」
殿下、私は困ります!! 三屋城衣智子 @katsuji-ichiko
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