メタリックとろとろボデーに転生しました

光源太郎

第1話

大晦日だというの仕事から帰宅出来たのは午後11時。近所のお寺から除夜の鐘が聞こえ始めていた。

師走は忙しい、とはいえ土曜どころか日曜日も出勤しなければならず今月30連勤、家に帰る間もなく会社で徹夜した日も両手で数えきれない。

事の発端は規模の大きい地銀のシステムトラブルだった。その復旧プロジェクトのリーダーだった俺は、同僚たちとその子どもたちのクリスマスを守るため、流行り病で脱落していくメンバーの穴を埋めるため、48歳独身ゆえに何もイベントもなく、ウィルスをもらってくる家族もいないため最後まで必死で対応していたのだ。


そして、それが今日終わったのだ。


死ぬほど疲れていたが、やりとげた達成感を気力に換えて、なんとか1LDKのいつものアパートに辿り着いた。新年は自分の家で何としても迎えたかったのだ。だが、いささか眠すぎた。紅白の結果を見るのもカウントダウンも諦めて、スーツのジャケットだけを脱ぎ、Yシャツがシワになるのは無視して布団に潜り込んだのだった。


っうーん。


目を覚ますと、毛布がはだけてしまったのか、すこし肌寒い。久しぶりにまともな寝床で良く眠れたと思ったのだが、まだ朝日はでていないようだった。

真っ暗で良く分からないが毛布を探して辺りを弄ると何だかゴツゴツして石の上にいるみたいだ。


あっれー、布団で寝てたはずだよ、な。


猛烈な違和感が思考を過り、それは心拍が速くなるような焦りへと変わっていく。


目が見えない。そもそも瞼が開けられない。何だったら手が手ですらない。自分の身体が得体の知れないモノに変わってしまったことだけがわかる。


助けを求めるため声を出そうとするが声もでなかった。そして静寂、なにも音がしていないかった。近所の除夜の鐘を聴きながら布団に入り、それから起きたということは今日は正月だ。新年最初の朝ならば、まだ暗い時間、いささか真っ暗過ぎるのだが、人の営みの音も普段より静かかも知れない。

そう納得させる事ができないほどの無音なのだ。だいたい状況を把握するために先程からあたりを手当たり次第弄っている自身が発するはずの衣擦れの音も関節や肌と肌の擦れる音すらしないのだ。


あるのは、触覚のみだった。


匂いも、寝起きの口の渇き、味もしない。そもそも鼻もなければ舌を動かしているつもりだか歯がないではないか。


いよいよ自分の置かれている状況を納得する解が出てきた。過労による急病で植物状態にでもなってしまい病院のベットに繋がれているんじゃないか。目も見えず耳も聞こえないが思考だけが出来る。そんな状態になってる。


そう結論づけたかったのだが、唯一ある触覚がベットの上にいるとは思えない触感と、人ではない体を自らの意思で動かせることを主張していた。


なんなら、手のようなものを何十本も同時に伸ばしたり、くねらせられる。手足の指合わせて20本をバラバラに動かすなら人でもできるかもしれないが、それよりも多い数をである。


はぁ、これはあれだ。転生しちゃったね、

スライムに。俺が院生の頃に流行ってたラノベのタイトルにそっくりな展開だ。


大賢者さーんっ!いっまーすかー!


目覚めてから口に出してると思ってた言葉と同じように心の中で叫ぶ。


何も解答もなければ、お告げもなかった。


ふむふむ、ならこっちかな。

神様ーっ!目覚めましたよーっ?


こちらもやはり何も説明してくれないようだ。


はぁ、参ったね。ハードやつじゃん。


目覚めてから全くもって現実離れした急な事態に、何とか精神を守るため戯けるような自問自答を一通りしたが、得られた情報はチュートリアルが無いということだけだった。


じっとしていたら自我が無くなりそうな焦りを感じ、せめて自分がいる場所についての情報をただ一つの感覚だけを頼りにひたすら這い回り集めることしかできなかった。


体感で半日ほど這い回って分かったことは、自身が国民的JRPGにでてくるぷるりんポヨンとした水色のスライムではなく、同じゲームであればとろとろしたバブルやはぐれの方だということ、そしてここが天井までゴツゴツ岩でできていて、苔や水のような肌触り、体を撫でるジメジメした空気の流れ、恐らく洞窟であるということだけだった。


ふぅー、疲れた。ちと休もう


独り言を心の中でもらしてから、地面にトロリと体を拡げて一休みする。

結構動き回って疲れていたのか眠たくなってきた。願わくばこれが夢であればいいのにと想いながら意識を手放した。



っ!なんだこの空気の乱れは?


目が覚めたが、残念ながら夢ではなかった。そして、猛烈な危機感が体を強張らせる。この体になり感覚が一つだけになったことで、触覚の分解能がとてつもなく高くなっていた。それは、体にまとわりつく空気の粘り気や動き、自身が動くことで動く小石が擦れる地面の振動さえ感じ取れるほどだった。


その触覚が自分の周囲の空気の規則的なようで異なる座標から発生する振動を感じている。


っつ!痛っくはない?


体の表面の一部分で空気が一瞬ふわりと離れたと思った瞬間、とろっとした体が引き裂くように分かたれた。自身の体は、何となくだが本体、あるいはコアのような物があることが昨日の時点でもわかっていたが、分かれた体の一部の方にあった感覚が突然なくなったことで、却って本体の存在が確かなものに感じた。幸い体の縁の方であったことと、痛みが全くなかったことで冷静さを失わずに済んだ。


どうやら何か、おそらく羽をもち飛ぶ生物に襲われている。


一体なんだってんだ!真空波か?


そして、もう一度先ほどと同じ攻撃が来るのを空気の動きから感じて素早く横方向に跳ねた。着地と同時に自身がいた地面を抉った振動が伝わってくる。


だめだ、空気のうごきだけじゃ襲ってきてる奴の居場所が大まかにしか分からないぞ。


そして、何回か真空波を避けることを繰り返すうちに、別の感覚が芽生えた。

それは、自身の体を動かす時の力と感覚に似ていた。それは、自分の体全体に満たされていて、先程自覚した本体により多くのその何かが集まっていた。


魔力的なやつか!たぶん魔力だ!


人だった時には感じなかったその力に、とりあえずイメージしやすいよう魔力という名前をつけて、その存在を意識した。するとどういうことか、自分の外にも魔力を感じる。そしてそれは上下左右に素早く動いているではないか。そして、その動く魔力が一瞬強くなったとき、さきほどの真空波の予兆の空気の粟立ちを感じ、魔力の塊が気配を薄くしながら迫ってくる。新しい感覚、魔力に気を取られていたため判断が遅れた。避けきれずにその迫る魔力が体の一部を引き裂いた。


そうか、魔法なのか技なのかしらないけど、魔力を飛ばして攻撃してきてたのか。


魔力を知覚できることで、先ほどの触覚のみのときより正確に敵の場所が掴めた。


これなら反撃ができるかもしれない。


攻撃を避けながら手頃な石を拾い体の中に集めた。少し重たくなったが、まだまだ俊敏性は失われていない。


敵もなかなか真空波が当たらないことに痺れを切らして、直接攻撃に切り替えてきた。


まってたぜ!これでもくらいやがれ!


体の中に集めた石を体の伸縮を利用して一気に敵目掛けて撃ち出した。その中の一つの石が敵の、感じる魔力の塊の中心に当たり撃ちだされた石の勢いのままに後退し突然跳ねるように落下する。そして、敵が地面に落ちた振動が伝わってきた。


よっしゃ!あたったぞ!


すかさずトドメを刺すべく敵に覆い被さる。地球と同じかは分からないが、窒息させるなり、自身の触手なり体で捻り倒すなりできればと思ってのことだった。


敵に覆い被さるとそいつは少し暖かかった。そして姿形が何となく触覚をとおして掴めた。元の世界でいうコウモリに似ている。


うぉ、コイツはコウモリっぽいぞ


コウモリは、体を覆われてもがくが、やはり呼吸が必要だったのか、やがて動きが少なくなり、しばらくして痙攣したと思ったら完全に動かなくなった。それからしばらくすると体の中で溶け始めた。


うわっ、変な感覚。


コウモリが溶けて完全に形がわからなくなった途端、今までなかった感覚が突如現れた。まず、自身の中にある本体の魔力が僅かにだが増えたような気がする。そして、これは失われていた、というか、持っていなかった聴覚が芽生えたのだ。


それは、とてつもないほど鋭敏な聴覚だった。しかしこの鋭敏さは、遠くの音が聞こえるというより、空間的な分解能が凄まじく高い感じだ。

簡単にいうとソナーのようだ。試しにコウモリを倒した要領で石を適当に撃ち出すと壁や床にあたり、音が発生する。すると自分を中心とする十数メートル程度の空間にある壁や地面、天井の凹凸などがわかるのだ。ただし、最適化した音を発生していないので、距離や空間認識の解像度はそんなに高くない。


しかし、これはかなり嬉しいチートだ。音が聞こえるようになったことも嬉しいが、生物を体の中で溶かす、これはこの体における捕食行動だとも思うのだが、喰った物の能力を自分のものに出来るかもしれないのだ。目覚めてすぐの時はハードモードな世界に転生してしまったと焦ったが、これなら何とか生き延びることができるかもしれない。


とりあえず、生き残る希望と聴覚、ソナーを得たことで、洞窟っぽいここからの脱出を目指すことにした。


あったじゃんチート!嬉し過ぎるー♪


触覚により何となく空気の流れは把握していたが、聴覚を得たことで風が吹いていることがわかった。そして細かい石ころを拾ってはいろんな方向に投げて発した音による、なんちゃってパッシブソナーで自分の進んでる方向が確認できるようになった。


はぁ、この洞窟めっちゃ深いのかなぁ。だいぶ進んだし、コウモリ食べまくってるけど何も起きんぞ。


最初の戦闘から半日が経過した。だいぶ進んだと思うのだが一向に出口の気配はない。時折襲ってくるコウモリを倒しては喰っていたが魔力が増える以外に何か新しい変化はなかった。


一休みするかぁ、なんだか不安な気持ちがまた膨れてきたよ、はぁ


一息つこうとしたその時、羽ばたき音と空気の振動が敵の襲撃を報せる。咄嗟に横に飛んで真空波を交わすが、体の一部が切り裂かれた。


っつ、二発だと!?痛くはないから良いけど、2匹いるのか。


コウモリはどうやら2匹いるらしい。敵の羽ばたく音がアクティブソナーとして、それを知らせてくれる。敵の発見が遅れたが、それには魔力感知の範囲が狭いためだったりする。ソナーが十数メートル程度の空間認識範囲なのに対して、魔力感知は5メートル程度しかないのだ。


ストーンショットガン!


小石の散弾を撃ち出す技に名前をつけてみた。名前を言った方が何となく精度と発動までの動きが改善された気がしたのだ。単純に熟練度が上がったためかもしれないが、気分がいいからというのも一理あるから、これで行くことにした。


やばい、学習された。当たらないぞっ!


2匹いることで、真空波が異なるタイミングで襲ってくるためストーンショットガンの狙いが定められず外してしまったのだ。こちらの攻撃の仕掛けを学習されて先ほどから攻撃が当たらない。ただ俊敏性はこちらの方が上のようで、敵の数がわかっていれば真空波や直接攻撃を交わすことは余裕で、相手も条件は同じだった。


なんか奥の手はないのか?つっても奥の手は事前に用意しとくもんだ。マズイぞ。俺も真空波が使えればいいんだけど。


戦闘中にそんなことを考えてもしかたない。そしてしばらくお互いに泥試合を続けていたが、2匹のコウモリは埒が開かないと判断したのか、獲物を諦めるかのように背を向けて出口と信じる方向へと飛んでいってしまった。


ふぅー、被弾の心配はなかったけど、こっちも攻めきれなかった。なんか方法考えないとなぁ。


戦闘中は、回避と攻撃に専念していたため真空波を使えたらとは思ったが、どうすれば使えるのかを考える余裕はなかった。

そもそもコウモリの放つ真空波とはどういうものなのか。あの羽の大きさと発動時の動作をソナーや空気の動きで感じ取る限り、物理的というか運動エネルギーを真空波に換えてるようには思えなかった。そして、魔力感知によると確かに真空波には魔力を感じる。そして、発射されると徐々にその魔力が減っていた。

つまり、真空波は魔力を発生源としている。


だめだぁ、魔力は感じ取れるし、動かせるけど体外に放出できん。


日の光がなく、そもそも視覚がないため昼夜がわからないので最初に目が覚めてからどれくらいの時間が経っているか正直わからなくなっていた。だが、体感で数日経っていると思うが、これまで体を動かし、時にはコウモリと戦い喰っていくなかで、このとろとろの体の動かし方に慣れてきていた。そして動かす時というのは魔力を動かすようなイメージなのだ。そのため魔力だけを動かすのもかなり上達しているつもりだったのだが、体外に魔力は出せなかった。


試しに体の一部を切り離すイメージで動かしてみたが、体の一部は切り離されると物体としては残るものの、感覚ななくなり、魔力感知でも魔力がなくなっていた。その切り分けた体を再び触ると体にもどるし、放置してしばらくすると、切り離された方は消え、本体には欠けた部分が新たに供給、再生される。


とにかく、魔力だけを体外に出すことはできなかった。


先に行くにしても、あいつらがいるんだよなぁ。なんとか練習で習得できねぇかなぁ。


2匹は進行方向に向かって去っていったので、進めばまた遭遇し戦闘は避けられないだろう。もしさらに数が増えるようなことになれば、苦戦する、あるいはこちらがやられるかもしれない。そう考えると倒す術が必要だった。


うーん、無理。なんか間違ってる?


コウモリの真空波の発生状況を振り返ると、魔力は確かに体外で存在しているが、その時には空気や音が観測されている。つまり、外に出る時には魔力としても感知できるが、真空波として存在しているということだ。


あれっ!つまり体外では魔力は、物理的な事象に変換されてないとダメってことか!


思いついたらあと試すしかない。魔力を外に放出するのではなく、魔力で作られた真空を外に放出するイメージで魔力を動かす。


すると、体外に魔力が発生すると同時に自身のすぐそばで空気の粟立ちのようなものを感じる。


成功した!?やった!できるたよ真空!


集中力が一瞬途切れたためか、体外の魔力は霧散して、真空を大気圧が瞬時に押しつぶすような衝撃が体に伝わってきた。


あっ、消えちゃったかー。この真空を飛ばすっていうところまでできるように練習するっきゃないなー


2度目も無事に真空を作り出し、今度はそれを飛ばすことができた。これをあとは、戦闘中でもできるように繰り返すだけだ。

30回目を発動して、慣れを実感したころ、唐突な眠気に襲われた。真空波の習得に集中していたため、自身の魔力の変化に気が付いていなかった。大分練習前の時より魔力の存在感が薄くなっていた。真空波は、魔力を消費するという知見を得たところで、思考は暗転した。


あー、よく寝た。目が見えんと、というか光も感じられんと、どのくらい寝てたのかサッパリわからん。でも魔力を使い過ぎたらぶっ倒れるってことだな。気をつけんとな。


戦闘中に、魔力切れで戦闘不能になれば命取りであることは間違いない。切り離された体の再生も恐らく魔力を消費していたのではということを考えると痛みは感じないが、避けられる攻撃も今後は避けようと思う。


さて、寝たら空腹を感じてきたのでそろそろコウモリたちにリベンジすることにして洞窟を前進する。


警戒しながらしばらく進むと、ソナーに敵影2、どうやらこの前の2匹のようだ。向こうも学習しているのか、攻撃と揺動を分担するかのように真空波と直接攻撃を交互に仕掛けてくる。

空は飛べないが、素早さはこちらに分があるため、攻撃は今のところ全て回避できている。同様に立体機動するコウモリにたいして、視覚を持たないこちらも進行方向を姿勢などで予測できないため、ストーンショットガンを当てることができない。


やっぱあたらんな。いよいよ使ってみるか、真空波。


コウモリAにストーンショットガンを放つがかわされて、逆に真空波が襲ってくる。それをかわすとすかさずコウモリBが突撃してきた。これにストーンショットガンをややズラして発射した。コウモリBは、誘導されるように回避行動をとるが、そこに決め撃ちしたこちらの真空波が直撃した。


コウモリAは、片割れが討ち取られたことを悟ったのか、怒ったように突撃をしてくる。一対一になって仕舞えば、これまで通り簡単に仕留めることができる。あっさりと2匹目を倒して、捕食する。


うぉー!勝った!そして威力あるやん!


先に真空波で仕留めた方を捕食すると、胴体が真っ二つになっていた。視覚がないため、衝撃と振動でしか威力がわかってなかったがかなり強力な技だったようだ。


おれ、強いかもしれん?


攻撃手段が増えたことで、コウモリ複数にも対処できるようになり順調に出口に向けて前進することごできた。


おう、肌触り変わったな地面


洞窟内を出口目指して進むこと何日たったかわからないが、ゴツゴツした岩だけだった地面に土が混じるようになってきた。



そろそろコウモリ以外の生物が現れてもおかしくない、そう思いながら警戒しながら先に進む。


やはりいた未知の存在。


こちらに向かってきて、それは突然消えた。そして、真下から攻撃。体内へと突っ込んできたそいつは鋭い爪をもつモグラのようだ。


うわぁあぁ!?なんだ、暴れるな!ぐっぃっだいっ!


初めての痛み、それはとてつもない激痛で視覚もないのに溶接のアークが散るような錯覚までした。何とか体外にモグラを押し出し、痛みに動揺しながらも真空波を放った。

モグラは、押し出された時に体勢を崩されており、真空波を避けることができず真っ二つに別れて絶命した。


痛ずぎる。心臓握りつぶざれだがど思っだ。


そんなことはされたことが無いがそれくらいの痛みだった。痛みに悶えながらも何とかモグラだったものを取り込む。

魔力の高まりと共に痛みが少しだけ緩和する。そして、嗅覚が覚醒した。


フー、フー、なるほど、コアを引っ掻かれたのか、まだ痛いが何とか自己修復することができるみたいだ、そして臭いがするっ!痛い、でも嬉しっい、でもいたい。


痛みの正体は、本体もといコアをモグラが体内で暴れた際に引っ掻かれたことで傷を負ったためだったようだ。コアを破壊されていたら死んでもおかしく無い。反射的にコアの位置を動かし、かつ直ぐにモグラを体外に放り出さなかったらかなり危なかった。


とりあえず、魔力を消費しながらコアの回復を待つ。あたりに敵はいなさそうだが、正直また同じダメージを受けるのが怖く、それでいてまだ動く気にもなれず、気配を必死で消して誰にも見つからないことを祈った。


完全に痛みが引いて落ち着いたので、モグラを吸収したことによる恩恵を確認してみる。モグラも目が退化してるのか、視覚は得られなかったが、嗅覚が優れていたらしく、臭いがわかるようにった。かなり感度も良く分解能が高いようで、遠くの匂いや嗅ぎ分けができるようだ。ちなみにありがたい事にこの洞窟内を臭くは感じなかった。


コアの回復や初の負傷による動揺も治り、嗅覚が得られた喜びをひとしきり噛み締めたので先に進む。


洞窟内の土の部分には実は穴が至る所に開いており、その穴から時折モグラの奇襲を受けたり、上からはコウモリの襲撃を受けたが、先程の痛みが警戒感を高めていたので無事に撃退捕食した。


それにしても、捕食でスキルを獲得できるのは確定っぽいな。天は我を見離していないってことなかぁ。


あれからモグラ数匹捕食したことで、真空波のように技を一つ得ることができた。

触手を鋭い爪にして引っ掻くということができるようになったのだ。魔力消費は、触手を爪として機能する強度にしたときに使われ、形状の維持や爪を振り回すときは普段の移動や触手操作と同じで消費してるような気はしなかった。


あれからコウモリ、モグラ以外にもヘビが襲ってきたがやはり視覚は得られず、赤外線センサーのような機能のみだった。サーモグラフィーではなく、赤外線用のパワーメーターという感じで熱源に正対すると強く感じとれるし、温度差もある程度わかるというものだった。


あと毒攻撃も何匹かヘビを倒した時にできるようになった。毒液を直接吹きかけることもできるが、牙を剥き出した蛇のような触手で噛みつき毒を流し込める。

残念ながら視覚がないため、毒の効果がイマイチわからなかった。あの激痛を思い出すとトドメを刺さざるをえず、致死性なのか、麻痺なのかもいまいちわからなかったのだ。


うわ、眩しい、のか?


視覚はないが、ついに洞窟の外が見えてきたようだ。恐らく洞窟入り口を照らす陽光で、赤外線センサーが飽和したようだ。積分時間が調整されたようで出口の輪郭が何となくわかるようになった。

そして、突然の悪寒が襲う。


咄嗟に10メートル程洞窟奥に向かって逃げた。すると先ほどまでいた地面を破壊する轟音と爆風。強大な魔力をもつ四足の獣がそこにいた。


やばい、やばい、やばい、絶対やばいやつだっ。


正体はわからないがこれまでとは隔絶された強さをもつ敵。さらに奥に逃げようとしたが、恐怖心で動けない。辛うじてかわせたが、体の一部の感覚が消えた。


そして轟く轟音、咆哮というには大きすぎるそれは、洞窟内を激しく揺さぶった。そして、崩れ落ちる天井。


先ほど登ってきた洞窟は閉ざされ、圧倒的な強者と壁に挟まれてしまった。


あの速度は自分と互角かそれ以上、逃げられそうにないっ!やるしかない。


視覚なしだと敵の輪郭がブレていて、攻撃が時折掠ってしまう。だが、不定形にして痛覚がないこちらはその程度では怯まない。


ストーンショットガンも真空波も当たるが大してダメージになっていないようだ。直接攻撃を仕掛けるしかないが、向こうの方が近距離は上手。爪攻撃は弾かれ、触手はいいように蹴散らされている。


強い、はやい、どうする!?

考えろ考えろ考えろー


何とか辛うじて攻守を繰り返し紙一重の回避を繰り返しながら思考する。奴を倒す算段をを。


やってみるか、あれを!


獣の一撃をあえて紙一重で交わし、顔目掛けて飛び込んだ。そして敵の猫パンチというには可愛げのない剛腕が粘体をとらえる。


あっけない最期、そう獣は思ったが、その向こう側から毒液が顔を覆った。

飛び込むと見せかけて、体の半分以上を敵の飛び込ませてるように切り離していたのだ。

そして、残った本体側は残り少ない体を毒液に変えて顔面に体当たりをした。


失敗すれば体半分の状態で回復までの時間を考えると後がないマージナルアタックだった。


獣は悶えながらも顔を擦りつけたり、壁に突進する。あとがないこちらも必死にくらい着き、鼻の中で爪を立てる。残り少ない体を何とか爪に集めて脳を貫いた。


獣は背をのけぞらせ、大きな音共に倒れた。


うがっ、ぎりぎりだった。


残り少ない体では落下の衝撃を完全には防げずコアが少しだけ地面に当たって激痛がはしる。何とか魔力を振り絞り体を再生していく。


ある程度体がもとにもどったので、獣を捕食した。獣はトラのよう生き物だった。シマシマしてるかは、まだわからないが、形はトラのようだと思ったのだ。


今までと全く違う量の魔力が体に満ち溢れる。とんでもない強敵だったことは間違いなかった。


そして、ついに、転生して、特殊な恩恵があるとわかってから念願となっていた眼が、視覚が覚醒した。


太陽が洞窟の出口を照らしている。


よかった、普通に見える!うれしぃ


涙が、液体状の体なので出てるかわからないが、感動した。そして、太陽の下に出ていく。触手の先端に視覚を移して、自分の姿を見てみる。


うっそー、めっちゃメタルやん


そこには、メタリックとろとろボデーのスライムが見えた。

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