第7話 見え方
コーヒー店を出た俺たちは映画のチケットを購入してからポップコーンを買いにレジに来た。
俺と彩音、構図的にはカップルという形で傍から見てもそう見えるだろう。
レジのお姉さんに彩音が「彼氏さんとですか?」と聞かれて恥ずかしそうに否定していた。
その行為が少し胸に刺さったが、行動が可愛かったので俺は許した。
カフェで話して以降、彩音の様子がおかしい。
俺の昔の彩音のイメージは陽気で活発な子。
誰にでもフレンドリーに接し、常に周りを見て行動するリーダー的存在だったはずなのだが。
今の彩音は少し内気な女の子という風に見える。
言動も昔みたく軽くは無いし、逆に丁寧過ぎて不自然なぐらい。
『なあなせ! 今日はどこ行く?』
みたいな感じのノリだったはずなのだが、今となっては清楚よりの可愛らしい女の子になってしまった。
まあそれはそれで、新鮮な彩音が見れて凄く楽しいのだがな。
「ねえなせくん、今日見る映画ってもう見た?」
女の子をしている彩音が上目遣いで話しかけて来る。
その手には大事そうに抱えられたポップコーンと飲み物が入った容器があった。
とりあえず今日は、昔みたく吹っ切れた感じで関わるように意識はしているが、彩音が可愛すぎて自分がどんな風に接しているのか分からない。
こんな風にデートをしたことは高校の時に数えきれないぐらいしたと言うのに、一年も関わらないだけでこんなにもヘタレになってしまうのか、俺は。
映画の時間が迫り、映画館内にも人が増えて来た。
どうやら今日公開の人気ラブロマンス映画があるらしく、それと時間が重なっているため人が凄かった。
「人、増えて来たな」
「そうだね」
はぐれるのが怖いのか心配そうな声を上げる彩音。
状況的に見れば手を繋ぐ絶好のチャンス。
昔も地元の祭りではぐれないようにと手を繋いだ事もあったし、状況はその時と酷似している。
しかし今はもう、昔のような関係ではない。
お互いに一年間会う事は無く、連絡も取り合わなかった仲だ。
そんな関係なのに、俺は彩音の手を握ってしまっても良いのだろうか。
「いたっ」
隣から彩音の声が聞こえた。
振り返った先には金髪のチャラそうな男が彩音を睨みながら通り過ぎて行った。
俺はそれを見て、我慢できなかった。
「彩音、手出して」
「えっ?」
俺はぶつかったであろう肩をさすりながら彩音の手を取った。
俺が手を取った事に驚いたのか彩音は体を震わした。
だが、手を弾いたり振りほどいたりするようなことはせずに、そっと俺の手を握った。
「人多いから、こうしてようぜ?」
「……うん。成長したね」
人混みのせいで彩音の言葉が上手く聞き取れなかったが、多分俺を馬鹿にするような事だろう。
しかし、これで彩音にぶつかる奴もはぐれる事も無くなった。
そして俺たちは受付でチケットを見せ、スクリーンがある2番ホールまで歩いて行った。
もちろん、その間も手は繋いだままだった。
~~~
「映画面白かったね!」
満面の笑みで残ったポップコーンをついばみながら彩音は嬉しそうに言う。
彩音が見たいと言っていた映画は『ロイヤリティ・ローズ』というホラー映画だった。
最初はタイトルから見て、ロマンス映画か海外政治に着目した映画なのかと思ったがタイトルからは想像が付かないめちゃくちゃ怖いホラー映画だった。
内容としてはホラー系ではよくある廃墟を探検しようという展開から始まるのだが、そこがもう怖い。
閑散とした住宅街にある一軒の洋式の豪勢な廃墟。
しかしその廃墟は外見が酷く、その廃墟の土地の周りにはバラが咲き乱れているという物。
そしてそのバラが次第に成長していき、廃墟に侵入した者に危害を加えると言った内容だ。
設定としてはシンプルで何か捻った物があるわけでもないが、もう雰囲気で俺はダメだった。
終始記憶は無いし、映画の内容なんて一ミリも覚えていない。
あんな怖いものを見て、平気な彩音の正気を疑う。
「なせくんも面白かったよね?」
「お前、分かって言ってるだろ……」
「うん、もちろん。ちょっとは克服してると思ってたんだけどなー」
「ったく、煽りだけはいっちょ前なんだから」
「えへへ、だってなせくんと話すの久々だし楽しいしもっと一緒に居たいなって思ったら、煽りたくなっちゃうでしょ?」
「どういう理論だ? それ」
呆れ半分で話しながら、俺たちは映画館を後にする。
こんな何気ない会話も一年も感覚が空くと、どう対応すればいいか分からなくなってしまうんだな。
昔はもっとネタとかいじり合いとかしてたのに、今はそれが出来なくなっている。
それが何だか悲しくて、凄く虚しい。
「まあ、嬉しい的な。ねえ、プリクラ撮ろうよ! 久々会った記念に」
「記念日作りまくる癖も抜けてないんだな。そこら辺はちゃんと乙女してておもろいな」
「はぁ? 中身も心も外見も全て正真正銘の乙女だわ、なめんじゃねぇぞ」
お口が悪くなってますよ自称乙女さん、とツッコミ心の中で入れて俺はクスクスと笑った。
笑われたことが気に食わなかったのか彩音は後ろから俺の横腹をつついて来たが、それは無視した。
じゃないと、一向に足が進まずにずっとじゃれ合ってしまうからな。
「はいはい分かりました王女様。それじゃあ早速プリクラ撮りに行きましょうか」
そう言い俺は彩音の手を強引に取った。
「ちょ、いきなりはせこいって! 離せよ、話せばわかる!」
「おおー、素晴らしいダジャレ。流石王女様ですね」
「かけてねぇよ!」
暴れる彩音を器用に制御し、俺は彩音の手が離れないように握る。
この感じ、なんだか懐かしいし平然と手を握れる自分にもビックリしている。
最初はかなりドキドキしてたのに、彩音も案外すんなりと受け入れてくれた。
それはきっと彩音も同じだ。
今の彩音は、俺の事をどう思っているのだろうか。
先ほどから、彩音の言動には期待させられてばかりだ。
『もっと一緒に居たい』だの『成長したね』だの、他にも期待させるような発言は見て取れるが、それのどれもが男の子が可愛い女の子に言われたらドキッとしてしまうランキング上位に食い込むような発言。
俺は、彩音に期待してしまっても良いのだろうか。
それとも『親友』という恋人の一つ前の関係で止まりっぱなしで我慢しておくべきなのだろうか。
隣でにこやかに笑い、楽しそうにする彩音を見て考えてみるも俺にはまだそれが、分からなかった。
「プリクラ楽しみだね、いつ振りかな?」
「一年以上は撮ってない、絶対」
「そうだね。私ちゃんと、なせくんと撮ったプリクラは保管してあるんだよ? それも全部」
「お前、頼むからホストにはハマらないでくれよ?」
俺の言葉が理解出来ていないのか、彩音は言葉を詰まらせた。
リーダーシップがあるのに、こういう風に抜けてる所が凄く可愛いんだよな。
「まあ理解しなくても良い。機会があれば教えてやる」
「ふーん。私がハマるとしてもなせくんぐらいだと思うけどね」
「ふっ、昔は互いに依存しまくってたからな」
「うわっ、そのキメ顔きもっ!」
「ダイレクトに言うな」
彩音の手を力いっぱい握りしめる。
俺を罵倒する罰だ、主導権がお前にあると思ったら間違いだぞ彩音。
「いだぁっ、ギブギブ!」
「俺を舐めるなよ?」
調子に乗った彩音に制裁を加える俺。
構図的には昔のままで、それがとても懐かしく感じる。
今日は昔の事を思い出してばかりで、今の事に集中できていない部分がある。
映画は普通に無理だったが、カフェでの話と言い何から何まで今日はダメダメな日だ。
それがたとえ、彩音からはいつも通りの俺に見えていたとしても。
マッチングアプリで大好きだった親友と再会した。 竜田優乃 @tatutayuno
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