第3話
「それにてもすばらしいですわ、お父様」
瑠璃は父にというか、縷々と広げられた書物に向かって言った。
「おまえは話が早くて助かる。それに比して我が奥様の北の方といったら!」
父中納言は深いため息とともに吐き出した。
「ああ……お母様は……」
瑠璃の脳に、母の面影が不吉な陰影を伴ってふわふわ浮かびあがった。
母は、瑠璃の産みの母であるからにして、ゆめゆめ粗略にすることは倫理上許されない。それにしても、あの無知と意地っ張りときたら!
瑠璃は、決して母を断罪しようとしない。
しかし、母はどう贔屓目にみても、人格障害を患っている哀れさと、それを遙かにうわまわるうざさを一身にまとわりつかせていた。
母は、けっして字を読もうとしなかった。
「読んでなんになるというの、生活が大事よ!役立たず!」
とあざ笑い罵るのをもっぱらにした。
父は貴重な書物を隠し棚にそっと安置した。母がみつけて破りかねない。ただ父を落胆させる目的のためだけに。
踊る桜 スヴェン @hisuimidori
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