泡沫

篤永ぎゃ丸

まっさら

 雲の海に囲まれた蒼き孤島の山。断崖絶壁に腰掛けた白ワンピースの少女は、切り立った山々に見守られながら、ふぅと笛を吹く様にシャボン玉を吹いた。


 ふわりと飛んでいく透明な泡は舞い上がらず、下に落下していき、真っ白な雲の中に消えていく。弾けたのか、漂い続けるのか、少女の目線からではシャボン玉の行く末を知ることが出来ない。


 シャボン玉遊びに混ざりたいのか、雲の海から雪うさぎが跳ねて、白鯨が顔を覗かせた。山の木々からは日本トキが飛び上がり、少女の背後からゆっくりとアルビノの鹿が二匹歩み寄っていく。


「シャボンだまとんだ やねまでとんだ」


 少女はシャボン玉の歌を口遊み、もう一度ふぅと泡をたくさん飛ばす。真っ白な動物達が、崖に腰掛ける少女に近付いてシャボン玉を目で追いかけた。


「やねまでとんで こわれてきえた」


 生み出されたシャボン玉はふわふわと落下しながら、雲の海に飲み込まれていく。風がないせいだろうか、表面の膜がしっかりしているからだろうか、あるいは壊れる事を恐れているのか。見守る生き物達の前で、綺麗な泡の姿を保つ。


「しゃぼんだまきえた とばずにきえた」


 少女はまだ歌を口遊む。そこにはまっさらな生き物以外何もない。しかし孤島は強く色付く。消えないように、蒼く、碧く、青く——。その中でシャボン玉は儚く透明で、七色に輝く。


「うまれてすぐに こわれてきえた」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

泡沫 篤永ぎゃ丸 @TKNG_GMR

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ