Never end 少女と次の輪廻

 青い星と赤い星は惹かれ合う。

 離れてもいつか巡り逢う恋人たちのように。

 そして二千年が過ぎたころ、再会の時はきた。

 神の賜ったこの上なく慈悲深く、この上なく残酷な運命が、今また繰り返されようとしている。

 だがそれは、再開の喜びを伴うものでもあった。


   ・


 青い海、白い砂浜に一人の少女が立っている。

 白いワンピース、艶やかな長い黒髪。しかし少女は、普通の人間ではなかった。

 モルフォ蝶の翅。青い空にメタリックブルーの翅が同化しているようだった。

 それは少女が幼年期を終え、大人になり始めたことを意味している。もう子供ではなく、自分の翅で飛び立てる。


 少女にはある予感があった。星と星が近づくとき、陸と海の境界線で待っていれば『運命の人』に再会できると。

 誰に教えられたわけでもない。しかし彼女の心がそう言っている。

 きっとその人と、魂が惹かれ合っているのだ。


 少女は空を見つめた。赤い星が迫っており、背後の青い空とコントラストをなしている。

 あの星は地獄だ。かつて青い星と赤い星の種族が戦い、負けた方は地獄の星へと送られた。今、再び青い星を賭けた戦いが始まろうとしている。


 しかしそんなことは少女にはどうでもよかった。セカイがどうなるかより、少女には目的がある。

 愛する者との再会だ。


 彼女は、来る。

 胸の高鳴りは最高潮に達した。


 何時間砂浜で待っていただろう。不意にその時はきた。


 赤い星から落ちてくるものがある。黒いそれは段々輪郭を得て、人間の姿を取る。

 それも普通の人間ではない。紫色の模様がある、揚羽蝶の翅を持っている。

 その少女は飛び慣れていないようで、空中で何度も姿勢を崩していた。ふらふらと頼りない飛び方だ。


「おっ、とっ、とっ、とっ」


 モルフォ蝶の少女は自分も飛んで、揚羽蝶の少女を抱きとめる。

 肌と肌が触れ合う。

 相手のぬくもりを感じる。


 少女たちは空中でひしと抱き合った。この瞬間を永遠のものにしたいと思っているように。お互いの体温を確かめ合う。

「あなた、ひんやりして気持ちいいね」

「あなたは温かくて安心するわ」

 ぱっと輝いた笑顔を、揚羽蝶の少女はモルフォ蝶の少女に向けた。


「初めまして。あたし、あなたに会えるような気がしてた。人類の基地を出て、ここまで飛んできたの」

「私も、あなたに会いたかった。名前も知らないけど、会いたくてたまらなかった」

 少女たちは笑い合い、ゆっくりと砂浜に降りる。


「あたし、生まれる前からあなたのことが好き」

「私も、あなたが好き。愛してる」

 少女二人は唇を重ね合わせた。

 相手の脈拍を、息遣いを確かに感じる。

 そのまま二人の少女はもつれあい、ゴロゴロと転がって、二人ともあお向けになり陽光の下で笑い合った。


 そしてモルフォ蝶の少女は悟る。

 いつか自分は、揚羽蝶のこの子と殺し合うことになる。


 それでも。


 限られた時間で、その手を握っていたい。

 赤い星を見つめて、砂浜に座る二人の少女は黄昏ていた。


   完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

揚羽蝶と黙示録 樫井素数 @nekoyamato

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ