第四十一話 テレパシー
頭に響いた声。
一度だけなら、聞き間違いと思うこともできただろう。
『やまと……』
だが、今度は途切れることなくはっきりと。
かなえの声が俺の名前を呼んでいる。
スキルや職業があって、俺みたいなモンスターがいる世界だ。ただの幻聴で済ませるのは、危険だろう。
『やまと、お願い』
まただ。
俺の知る彼女にはできないことだったが、知らない間にテレパシーみたいなスキルでも手に入れたのか?
「……かなえなのか?」
「どうしたの?」
こちらの声も届くのかと話してみたが、コビンに不思議そうに首を傾げられてしまった。
まさか、俺にしか聞こえていないのか?
『っ! お願い、ダンジョンまで来て……お願い』
俺が返事をしたことが伝わったのか、名前を呼ぶだけだった声が要件を伝えてきた。
返事をすれば、こちらの声も聞こえるらしい。
ダンジョンまで来い、か。
頭に思い浮かんだのは、かなえたちが攻略中のダンジョンだ。
駅の線路をぶち抜くようにできた大穴。
占い師とやらの力が正確ならば、20階層の小型のダンジョン。
この世界のダンジョンがゲームのように、階数の多さで難易度が変わるなら、そこまで強い敵が出てくるとは思えないが。
「おい、何があったんだ?」
『ごめん、私じゃ……無理だったの……』
「は?」
無理、だった?
途切れ途切れに聞こえたその声色は、確かに絶望に染まっていた。
その一言で、嫌な予感に胸がざわつく。
……落ち着け。
まだ、何が起こったのかを聞いたわけじゃない。
「ダンジョンで、何が起こったんだ?」
しかし、俺の問いに返ってくる言葉はなかった。
…………。
何も聞こえない。
「おい! どうしたんだ! 何があったんだよ!?」
「やまと?」
……ダンジョンで何かがあった、それだけはわかる。
それも良くないことが。
俺の助けが必要になるぐらいの、何かが。
「あーっ、くそ!」
あんな言われかたしたら行くしかないだろうがよ!
切迫した声だった。
助けを求めていた。
ここで俺には関係ないと言えるほど、俺は人間を辞めていない。
……だが、ダンジョンに行ってしまえば、そこにはあかねもいる。
会うことになるのか、この鬼の身体で。
あかねは、俺を見て俺だと解ってくれるだろうか。人間じゃなくなってしまった俺を。
……ヤマトと呼んでくれるだろうか。
くそ、余計なことは考えるな。
少しだけ、様子を見に行こう。
何もなさそうだったら、それはそれでいい。
そうだ、あかねがいたら仮面をつければいいんだ。
仮面をつけて何も話さなければ俺だと分からないだろう。
ついでに、街を出ることも伝えておくか。
かなえが知らずに俺を探しに来るかもしれないからな。
それでいい。
臆病になるな、俺。
「ねーえー、どうしたのー?」
そういえば、コビンにはさっきの声は聞こえてなかったんだよな。
「コビン、悪いが予定変更だ」
「ん〜?」
覚悟を決めるんだ。
「ダンジョンへ向かう」
「えー! 今から行くのー?」
とりあえず、話を聞きに行こう。
さっきのかなえの声がなんだったのか。
「ああ、悪いな」
そろそろ日が沈む。
いつもなら家に帰る時間帯だ。
「えへへ、いいよ! コビンも一緒に行くもん!」
「シャー」
服の中から小さな蛇も顔を出してきた。どうやら、ビニーも聞いていたらしい。
そして、彼女も了承してくれている。
「よし、行こう。少し急ぐから服に入っていてくれ」
「うん!」
「シュー!」
何が起こったのか、聞かせてもらうからな。かなえ。
最強の鬼人になって現代ダンジョン人外無双 幼馴染助けて異世界転生したからとりあえずダンジョン攻略したけどここ地球だったの? バナナきむち @kamota0408
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。最強の鬼人になって現代ダンジョン人外無双 幼馴染助けて異世界転生したからとりあえずダンジョン攻略したけどここ地球だったの?の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます