第四十話 報せ
「…………ふぅ」
「はえ?」
何もせず、藤崎の首から手を離した。
解放された藤崎が尻もちをついて、後ずさる。
俺はあのまま首をへし折ろうとした。そうするつもりだった。
だが、出来なかった。
手に触れる鼓動が、俺にそれをさせなかった。
少し力を入れるだけで簡単に首を握りつぶす力が俺の手にはあるはずなのに。
「くそ……」
自分が情けない。
「は、ははっ。驚かせやがって、やっぱり力が出な――」
――藤崎の頭があった場所から、血が噴き出した。
「だが、逃がすことはできない」
首がごとりと地面に転がり、遅れて身体も倒れた。
こいつの死体も、光になって消えてくれたらよかったのにな。
アイテムボックスに入っていた剣。
コンビニでこいつの仲間から奪ったものだ。
こいつを殺すには丁度いい武器だろう。
「さて……」
「ひいぃっ!」
まだ、やらないといけないことが残っていたな。
威圧しておいたお陰で、誰も動けずにいる。それは隠れている奴らも同じ。
藤崎を殺してから、隠れている奴らの居場所もわかりやすくなった。
恐らく、あいつが気配を隠す魔法でも使っていたのだろう。
俺がまいた種だ。
こいつらを生かして帰すなんていう選択肢は存在しない。
★
「はぁ」
使った剣は地面に突き刺しておく。
もう一度アイテムボックスに仕舞うつもりにはなれなかった。
「やまと……」
殺した。
人間を、殺した。
「やまと!」
「……どうした?」
いつの間にか、服の中からコビンが出てきていた。
「どうしたじゃないよぉ」
「ああ、俺は大丈夫だよ」
「ほんとうに?」
また、心配をかけてしまったらしい。
本当に、1人じゃなくてよかった。
あいつらなら心置きなく殺せると思ったが、案外疲れるもんだな。
命を奪うことなんて、もう何度もやっているのに。
たくさんのモンスターを殺してきたんだ。
それにあいつらが加わっただけ。
何も変わらない。
「ああ、大丈夫だよ」
あかねとかなえに危害を加えようとする奴らを生かしてはおけない。
俺に敵わないとわかったら、確実に何かするだろう。かなえを人質にしてくる可能性だってある。
占い師に場所を占わせてまで襲いにくるやつらだ。
負けたまま終わりにするわけがない。
だから、後悔なんてしていない。
やらなければいけないことだった。
だが。
「コビン、ビニー」
「なーに?」
「シャー?」
ずっと……決めていたことだ。
「明日、オロチもつれて街を出る」
丁度いい機会だ。
こんなことでもなければ、俺はだらだらとこの街に居続けてしまっていただろう。俺はそういう人間だ。
この街のモンスターも随分減った。
残されたダンジョンはあかねたちが攻略するだろう。
そうすれば、この街の危険はかなり減るはずだ。
俺がここに居続ける理由もなくなる。
いや、最初から俺がここにいる理由なんてなかった。
だから、街を出るのだ。
「やまにいくの?」
「ああ、ひとまずはそうなるかな」
とりあえず、どこがいいだろうか。
他の街がどうなっているのかも気になる。山へと辿り着くまでに見て回ろう。
近くにある山……いや、近くである必要はないのか。
いっそのこと滅茶苦茶高い山でも目指してみるか。富士山とか。
こんなときに登山してる人なんていないだろう。そこにもダンジョンがあったら、攻略できるし。
そして、誰にも関わらずに生きていこう。
出来るだけ多くのモンスターを倒しながら。
「だが、今日はもう家に帰ろう」
「うん! わかったー!」
コビンにビニー。
そしてオロチたちがいるんだ。
もしかしたら、もっとビニーやオロチみたいな仲間が増えるかもしれない。
俺は大丈夫。
『……っ』
家へ向かって歩き出したそのとき。
何かが、聞こえた。
「……なんだ?」
今、誰かの声が聞こえたような。
そんな気がした。
「どうしたの?」
「コビン、今何か言った?」
「いってないよ~?」
聞こえたと思ったんだがな。
俺の気のせいか?
周りには誰もいない。
本格的に俺は疲れているのかもしれない。
今日は色々とたくさんあったからな。
精神的にも、肉体的にもずっしりときている。
『……やま……と』
「は?」
頭の中にここにはいないはずの声が響いた。今度は確実に。
そして、この声は。
「かなえ……?」
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