第三十九話 モンスター
「なるほど、お前だったのか」
納得したように藤崎が言う。
あいつら、あんなことをして学校には戻れないだろうし、運よく生き残って藤崎に匿われていたんだろう。
大人しく死んでいればよかったものを。
正直なところ、こいつらは殺してしまいたいが、それをしてしまったら俺は人間じゃなくなってしまう気がする。衝動に任せて、殺意のおもむくままに人間を殺すなんて、そこら辺のモンスターと同じ。
俺は人間だ。
こんな奴らのために本物のモンスターになる必要はないだろう。
適当にボコボコにして終わりにしよう。
それが一番いい。
「どうやら仲間が世話になったみたいだな。それのお礼もしないといけないらしい」
「いや、いらないが」
ニヤリと笑った藤崎がスッと右腕を上げた。
それを見た周りの男たちが藤崎から少し離れる。
さて、一体何をするのか。
流石のこいつらも、全くの無策で俺に挑んできたわけじゃないだろう。
正直、何をされてもこいつらに負けるビジョンが全く浮かばない。
「は!」
上げていた腕が振り下ろされて空を切る。
それを合図に周囲から、複数の火球が襲ってきた。
これをされるのは2度目だ。
避けるのもたやすい。
これじゃ、最初と同じだ。
避けられるのがわからないわけでもないだろうに。
先ほどと同じように宙に跳んで避ける。
「ばかめ!」
「っ!?」
跳んだ瞬間、藤崎が俺へと何か棒のような物を突き出した。
それが何か知る前に、その穂先から俺を襲ったのは謎のわっか。
普通の物質ではない、怪しい光を放つそれは一瞬で俺を締め付けた。
「はっはっはっ! どうだ動けないだろう! 俺様に逆らうからそんなことになるんだ!」
「……?」
どうなってるんだ?
俺の身体を拘束した不思議なわっか。
何も、問題ないぞ?
直感も発動しなかったしな。
このわっかも、軽く力をこめればすぐに外してしまえそうだし。
藤崎の言うように動けないということもない。
俺が別の意味で混乱しているのを、動けないからだと勘違いしたのか、藤崎のテンションが上がっていく。
「この魔道具には拘束した相手の職業の力を封じる力があるからなぁ!」
職業の力を封じる?
そんなモノがあるのか。
かなえのような職業の力がなければ普通の人と変わらない奴が使われたら致命傷だろうな。
なるほど。
こんな魔道具を手に入れたのなら、俺を襲ってきたのも納得だ。
「俺の邪魔さえしなければこんなことにはならなかったのになぁ!?」
さて、これ以上聞くこともないか。
念のため、あの魔道具は没収しておこう。
「一度に一人の力し封じることができないが、俺に逆らったやつを順番に始末してしまえばいいだけ」
いつまでも、動けないふりをしているのにも飽きてきたところだ。
「お前の後は、お前の大事にしているかなえ。そして忌々しい賢者だ!」
「は?」
賢者。
あかねのこと、か?
「この魔道具があれば、誰であろうと私に逆らうことができなくなる」
たしかに、人間相手なら負けなしだろう。
そうか。
こいつらは、かなえとあかねを襲うつもりだったのか。
「この世界は力こそがすべてだ! 俺はこの世界の支配者になる!」
……よかった。
こいつが俺を最初に襲ってきてくれて。
ダンジョンで煽っておいてよかったな。
お陰で――。
「俺に逆らったことを後悔しながら死んでいけ! お前ら、やっちまうぞ」
「おう!」
隠れていた奴らも出てきて、後ろに下がっていた男たちが剣を抜き歩いてくる。
「…………グガアアアアアアアアアアッッッ!!!」
「なっ!?」
威圧を発動しながら、俺を拘束していたわっかを破壊する。
そのまま、間抜け面をさらしている藤崎の首を掴み上げた。
ドタドタとこちらに向かってきてた男たちが倒れる音が聞こえる。案の定、俺の威圧に耐えられるような骨のあるやつはいなかったらしい。
他の奴らもどうするか考えないといけないが、まずはこいつだ。
聞きたいことがある。
「なぜ、俺がここにいるとわかった」
「うぐっ……動けないはずじゃ、なかったのか」
首を締める力を強めながら睨みつける。
「答えろ」
「……う、占い師だ。やつにお前の居場所を占わせたんだ」
「なに?」
占い師ってのはそんなことまで出来るのか。
確か、かなえがダンジョンの階数を占ったとか言ってたやつだろう。
前までは占い師なんてもんは全く信じていなかったが、世界がこんなことになった以上、そんな職業があるのだというなら信じざるを得ない。
現に、直接会ったこともない俺の居場所を正確に占ってしまうほどの力を持っているのだ。
警戒する必要があるな。
あとは。
「これが、職業を封じる魔道具か」
藤崎が左腕に持っていた小さな杖を奪い取り観察する。
禍々しい装飾のついた杖。
俺なら、こんなものを見つけても魔道具だとは思わないだろうな。
見た目は完全に呪われたアイテムだし。
即アイテムボックス行きだ。
もしかしたら、俺がアイテムボックスに仕舞っている物の中にも魔道具があったりするのかもな。
まあ、俺には鑑定みたいな便利スキルがないから、一つずつ使ってみるしかないってのが面倒なところか。
これもアイテムボックスにしまっておこう。
誰の手に渡っても厄介だ。
「さて」
聞きたいことも聞けた。
危険な魔道具の回収も済んだ。
これでもうこいつに用はない。
「大人しく何もしていなければよかったのにな」
「た、頼む。今後一切お前には近づかない!」
こいつらは、俺とかなえの関係を知っている。
俺から逃げたこいつらは、かなえを襲うだろう。
それに、俺のことだって諦めるとは思えない。どうにかして、報復に来るだろうさ。
かなえを人質にすることだってあり得る。
「俺だってこんなことしたくはないさ」
だが、これは俺の責任だ。
かなえを助けたとき。
武器だけ取り上げて魔物に殺してもらおうなんて考えるんじゃなかった。
ダンジョンで出会ったとき。
かなえと事前に話し合って、他人のふりをしておくべきだった。
そうだったなら、こんなことはしなくて済んだのに。
「いや、違うな」
いつか後悔することになるなら。
俺はもう、人間じゃなくてもいい。
そうだ。
こんな仮面つける必要なかったか。正体を隠す必要なんてなかったよな。
「なっ!? お……まえ、人間じゃ、なかったのか……!」
首を絞められているのによく喋る男だ。
反応を見る限り、俺について詳しく聞いていたわけではないらしい。
占い師ならば、俺の正体を占いで知ることぐらい出来るだろうに。いや、知っているだろう。
それをこいつらに教えなかったのは、何故だ?
いや、これが目的か。
占い師も、こいつらの味方ってわけではないらしいな。
今となってはどうでもいいことだが。
「手を出す相手を間違えたな」
「ひっ……お前ら、早く攻撃しろ!」
俺は、モンスターだ。
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