第三十八話 待ち伏せ

「帰るぞ、コビン」

「うん!」


 谷の下を眺めていたコビンへ声を掛けた。

 今後については、家に帰ってから考えよう。家に帰ってゆっくり休みたい。まだ時間はあるけど、外に居てもやることないからなぁ。


 ここら一帯は、本当にモンスターが少なくなった。

 完全に居なくなったわけじゃないが、探さないと遭遇するのが難しいぐらいに。

 大量にいたオークが嘘のようだ。


 片っ端から狩り続けた成果が出ている。かなえの修行のためにも狩りまくってたからな。

 俺は俺で、暇つぶしのように戦ってきたし。

 当然の結果かもしれない。

 

 いつものように右肩へとジョイントしたコビンを連れ、家へと歩く。


 今日は久しぶりに全力を出して戦った。

 団子で肉体的には回復したが、気持ち的には早くベッドに飛び込みたいのだ。


 ふと、足が止まった。

 

「……ん?」



 歩いていて、自分でも分からないが何か違和感を感じた。

 鼻がムズムズするような、不快な違和感。


「どうしたの?」

「いや……」


 これはなんだ?

 俺の何かが、妨害されている?


 違和感の正体を突き止める前に、直感が発動した。

 ただそれは、俺の危険を知らせるものではなかった。


「っ!」


 コビンを右手に包み、空中に跳んだ。


 四方から飛んできていたのは、魔法で出したであろう火球。明らかに俺を攻撃しようとしたものだ。気が付かなければ直撃していただろう。しかし、俺が避けたことでそれぞれがぶつかり合って、消滅した。

 恐らく、俺だけが当たったのなら何の問題もなかったはずだ。避ける必要すらなかっただろう。


 今の攻撃。

 モンスターではないだろう。

 こんな回りくどいことをせず、正面から突っ込んでくるはずだ。

 

 十中八九、人間。

 それもあらかじめ俺のことを知っていた可能性が高い。

 もう遅いかもしれないが、コビンには服の中に入ってもらい、アイテムボックスから取り出した鈍化の仮面をつける。


「ふむ」


 俺を囲むように人の臭いがする。だが、気配は感じない。

 スキル、もしくは気配を消すようなアイテムを使われているのだろう。


 面倒になりそうだったが、犯人は自ら姿を現した。

 

「ちっ、避けやがったか」


 建物の陰や塀の裏から、ゾロゾロと数人の男が出てくる。

 何人かは、まだ隠れているのだろう。

 

 こいつら……。


 直感が発動したということは、避けなければ俺にとって良くないことが発生したと考えていい。


 俺はある程度の攻撃をくらっても痛くもかゆくもない。

 だが、ビニーとコビンは違う。

 先ほどの火球は、あと少しでこいつらまで巻き込むところだった。

 こんなことをしてきた連中に殺意がわく。


 遠巻きに数人の男に囲まれている。

 知らない奴も混じっているが、何人か見覚えのある男がいた。

 

 確か、藤崎だっけか。

 ダンジョンでかなえにちょっかいかけてきていた奴らだ。


「あんときは世話になったなぁ」


 俺を狙ってきたのは確実らしい。

 

 ダンジョンで力の差は見せつけたはずだが。

 懲りずに、俺と戦いにきたらしい。


 問題は、どうやって俺がここを通ること知ったのか。

 明らかに待ち構えていた。


 だが、それもこいつらから聞き出せばいいだけの話。

 

「あ、兄貴! こいつです!」

「なんだ」


 ほう?

 コンビニでかなえを襲っていた男だ。

 武器を取り上げたし、どこかで死んだものだと思っていたが、生きていたか。

 

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