エピローグ

逃げてばかりの日

 その後どうなったかを軽く説明しようと思う。

 アランは駆けつけた警察官によって逮捕。

 犯行動機はアラン個人の思想なのか、彼をそそのかした組織がいるのか取り調べ中。

 アランは完全黙秘かんぜんもくひを貫いているらしい。

 どの道、フランスに送り返されるのだろう。

 なぜかマスコミはこの一件を扱わず、SNSでも取り上げられなかった。


「私が魔法をかけたから世間にはもれないわ。おそらく大丈夫!」

 とローズ姉さんは胸を張ってオレにウィンクをした。

 一体どんな魔法をかけたのだろうか?


 オレの取り巻く環境も変わった。

 できることならここではないどこかへ逃げたい。


「今でも私の秘密を守ってくれているのはそういうことなのね。鉄太の気持ちは充分に伝わったわ。だとしたらあの厳しそうなお爺さまにキチンとご挨拶をしなければ。これから交際させていただくのだから。いつだったら都合がいいの? ちょっと勇気を出さないといけないけど2人の将来にとっては避けて通れない。さあ、善は急げよ。ウフフフ」

 お菊ちゃんはオレの話も聞かずに妄想の世界に生きている。

 これも魔女騒動を起こした因果なのだろうか。


「あの時は役に立てなくってごめんね。でね、お兄ちゃんがまたもや鉄太を褒めていたよ。『体を張って不審人物から学校を守った鉄太は偉い』って。ボクもそう思う。鉄太って本当は勇気があって強いんだね。ボク、だんだんと鉄太が気になってきちゃった。ねえ、生徒会長の座は鉄太にゆずってあげる。ボクは副会長になって鉄太を支えてあげるから。2人で生徒会に入ろうよ」

 辰っつあんからは生徒会に誘われた。

 しかしオレはオレの道を歩みたい。


「傷だらけになってもアタシを守ってくれてありがとう。でもね忘れちゃだめよ、アタシが勇気の出る魔法をかけたおかげなのを。だから感謝することね。アタシにあんみつをご馳走する約束も忘れちゃダメ。そして……ねえ、あの時の約束を覚えてる? ほら、学校をサボってまでアタシを追っかけて来てくれたでしょ。きれいな展望台で熱く交わした約束! 2人で北海道に逃げるって約束よ! 楽しみね、鉄太。これからもアタシを守ってくれたら嬉しいな」

 ソフィに言われて思い出した。

 確かそんな約束をしたようなしてないような。

 でも忘れてるっていうのは所詮その程度の価値しかない。

 まあ、キチンとお金を稼げるようになるまで保留してもらうか。


「おい、まだお前との決着はついてねえぞコラ! それに葵はお前に夢中でおれなんか眼中にない感じじゃねえか。約束が違うだろがよ! 鉄太は今すぐ葵に嫌われろ。そんで今日こそおれのメガトンタイガーパンチを喰らって死ね」

 虎雄からは毎日のように絡まれている。


「やあ、未来の生徒会長。イヤ、冗談じゃなくって本気で言っている。鉄太くんが立候補すれば1年生でも生徒会長になれるのは僕が保証するし応援もする。こう見えて僕はそれなりに人望があるから後継者として君を指名すれば君は逃げられなくなるのは間違いない。妹の葵も君に託すのでよろしく頼む」

 辰巳生徒会長から懇願されたが丁重に断った。


「あん時の戦いっぷり、お見事だったぜ。いいバネ持ってんじゃねえかよ、鉄太。生徒会長が鉄太に負けたのも納得だ。アタイの好みのタイプはズバリ強い男。どうだ、今からアタイの隕石スパイクを耐えられたらアタイの彼氏にしてやってもいいぜ。よし、いくぞッ。そぉ~れっ!」

 麻衣先輩のバレーボールからほうほうの体で逃げ出した。


「鉄太よ、お前はあのアランについて何か隠してやがるな。裁きの魔女についてもだ。俺は担任として知っとかなきゃなれねえんだぜ、オイ。今日こそは洗いざらい吐けッ! このド根性注入バットが火を吹くぜッ!」

 オレは命からがら落合先生のいる職員室から逃げ出した。


 校門までたどり着いて安心したのもつかの間、殺気ッ!!

「ここで待ち構えて正解じゃったのう、鉄太。ワシが入院していたのをいいことに修行をサボっておったからアランなんぞに遅れを取ったんじゃッ! また今日からネジを締め直して真剣味のある稽古をつけてやるッ!」

 じいちゃンは言うなり腰に差した日本刀をさやからスラリと抜いて襲ってきた。


 オレは若さに任せて韋駄天走いだてんばしり。

 それにしても今日は逃げてばかりだなぁ。

 ふと、そんなことを思いオレは走りながらもクスリと笑ってしまった。


(おわり)

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つわものクラス委員長一代 ~魔女狩り陰始末編~ はらだいこまんまる @bluebluesky

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