ソフィを守れ!
「知っての通りこの手の騒動は広まれば妙な輩に目を付けられる。だからこそ学校では目立たずに
朝食中にじいちゃンから言われた。
「後で私と白金さんも学校に行くから。校長先生に話を通しておけば保険にもなるし。もちろん、少しボカして伝えるつもり。鉄ちゃんも自分ひとりで頑張ろうとは思わないでね」
登校前にローズ姉さんから言われた。
じいちゃンとローズ姉さんのアドバイスははっきり言って真逆だ。
自分の実力を客観的に考え、ここはローズ姉さんの案を採用だ。
無茶無法無敵流の無法の教え。
「法やルールに縛られず、自由な発想で戦え」とオレは教わった。
ならば仲間集めからだ。
休み時間を有効に使おう。
「へえ、悪質なストーカーねえ。そもそもソフィはお前の彼女じゃないの? 違うのか。じゃあ葵とはどうなんだ? そうか、じゃあよ、落ち着いたらおれと葵の仲を応援してくれるか? ヨシ乗った! 大体お前はおれより弱いわけだからこの海老鯛小の猛虎を頼りにするのもよくわかるぜ。大船に乗ったつもりで安心せい」
こうしてオレは虎雄を仲間に引きずり込んだ。
「それは大変だね。よくぞ知らせてくれた。生徒会長という役目は生徒一人だけに肩入れはできないけど一人の生徒も救えないのは生徒会長ではない。わかった。イザとなれば僕の静寂の術を使おう。大抵のヤツにはかかるはずだから安心してくれ」
辰巳生徒会長が仲間になった。
「おう、どうした鉄太? あつ、わざわざこの教室までアタイに会いに来たってことは愛の告白だろ! イヤ~まいっちまうねえ。今はバレーボールが恋人だからなぁ。でも鉄太がどうしてもっていうなら……。えっ!? なぁんだ。アタイ一人ではしゃいじまってバカみたいだね。だんだんと腹が立ってきた。この怒りをそのストーカーとやらにぶつけてやろう。アタイの隕石スパイクを喰らわせてやるぜ!」
麻衣先輩が仲間になった。
「ソフィにストーカーだと!? もう警察には届けたのか? ほう、署長が知っていると。まさか学校まで付きまとうとは思わねえが万一の時ァよ、俺のド根性注入竹刀が火を吹くぜ。ウワハハハ」
落合先生が仲間になった。
4限はクラス全員が授業に集中できなかったはず。
カレーの匂いが悪いのだからしょうがない。
やっと授業が終わり、給食の準備に入ろうとした時に殺気を感じた。
教室の窓から外を見ると、巨漢の神父が校門を入って昇降口に向かっている。
黒いカソック姿で胸には大きな十字架。
多分こいつが猛牛アランだ。
まさか白昼堂々現れるとは!
「おい虎雄、カレーはお預けだ。ストーカー様のお出ましだぜ」
「なにッ! いい度胸だ。とっちめてやる!」
「辰っつあんは会長と麻衣先輩を、お菊ちゃんは落合先生を呼んでくれ! ソフィはどっか隠れてくれ」
そう言い残してオレと虎雄は昇降口へ急いだ。
猛牛アランと思われる怪しい神父姿の男は現時点で中学校に不法侵入しているので、ここで力づくで追い返されたも文句は言えない、というか追い返さなければならない。
今まさに昇降口へ入ろうとした猛牛アランの前にオレたちは立ちはだかったが、こいつデカい。
身長は195以上、体重は余裕で100キロを超えている。
「プシュプシュ、ソフィ、プシュプシュ」
おそらくはフランス語で語りかけているのだろうが、辛うじてソフィという言葉だけは聞き取れた。
「おい鉄太。おれより弱いお前は引っ込んでろ。この海老鯛小の猛虎がワンパンで沈めてやる。喰らえッ、メガトンタイガーパンチッ!!」
虎雄は先手必勝とばかりにいきなり右ストレートをアランの腹に叩き込んだ。
だが体格差はいかんともしがたい。
アランは虎雄の首根っこを片手で掴むとブンと一振り。
雑巾のように投げ捨てられた虎雄。
「虎雄ーッ! 大丈夫かっ! 今すぐお前の敵を討ってやる」
オレは
すると、
「待ちたまえ、鉄太くん。君はいったん退け。ここは生徒会長である僕がお相手しよう」
辰巳生徒会長が竹刀を持って駆けつけてくれた。
もう大丈夫。
あの静寂の術は今思い出しても寒気がする。
会長は竹刀を中段に構えて微動だにしない。
果たしてアランに静寂の術は効いているのだろうか?
アランを見ると
効いたッ!
ところが、
「どけどけいッ! このアタイの隕石スパイクで不埒なストーカーを成敗してやるぜッ! そぉ~れっ!」
バレーボールを持って駆けつけた麻衣先輩がジャンプしてバレーボールをアランに叩き込んだ。
隕石スパイクはアランの顔面に直撃。
だがおかげで静寂の術は解けてしまったようだ
「ウガ~ッ、ソフィ、ソ~フィッ!」
アランはかなり興奮しているようだ。
どうしよう?
やっぱオレが相手にするしかないのかな。
オレは
すると、
「おう、皆んなは引っ込んでろい。どこの誰かは知らねえがこの中学校に乗り込んでくるたァいい根性だ。さて、ド根性注入竹刀を味わえ」
駆けつけた落合先生が思いっきり鉛入りの竹刀をアランの肩口に叩き込んだ。
もう大丈夫、と安心した。
イヤ、大丈夫じゃない!
アランはニタリと笑うと竹刀を掴み両手でへし折りやがったッ!
落合先生もニタリと笑うと、
「ウオオオォオーーッ!」
と雄たけびを上げ、アランにぶちかましを決めた。
巨漢2人は昇降口の外へ転がる。
ゴロゴロと転がりながら両者2人とも起き上がり、落合先生がアランを大外刈りで倒した。
周りからは歓声が上がる。
「いいぞ、落合先生」
さらに寝技へ移ろうとした落合先生だが、いつのまにかアランが三角絞めを決めていた。
落合先生は落とされて失神。
もうダメなのか!?
イヤ、あきらめるな。スタートに戻っただけだ。
今度こそオレの出番と、
その時、大きなダミ声が聞こえてきた。
「カッカッカ、随分と派手にやっとるのう。どれ、鉄太よ。ここはワシにまかせい」
じいちゃンとローズ姉さんが校門の向こうから走っているのが見える。
今度こそ大丈夫だ。
後はじいちゃンに任せて高みの見物と洒落込もう。
だけど、じいちゃンは急に立ち止まり腰に手を当て動かなくなった。
「ウッ、こりゃいかん。ギックリ腰が再発しおったわい。後は鉄太、お前に任せた」
なんてこった!
オレは
「このバカモンッ! 相手は柔道を使うのを忘れたのかッ! あのときの特訓を思い出せっ!」
じいちゃンのダミ声がよく響いた。
そうだ、構えをする前にやるべきことがある。
柔道家と戦う時、上半身裸になればつかむ所がなくなって相手が不利になると教わった。
だからネクタイを外し制服とシャツを脱いだ。
瞬間、アランの左ジャブが顔面を襲ってきたので咄嗟に
でもその衝撃で数メートルは吹き飛ばされた。
大したダメージはないがギャラリーからは悲鳴とため息。
すぐに立ち上がったがどうやって倒そうか。
そもそもこっちは13歳。
身体が完成されていない育ち盛り。
ボヤいている場合じゃないがボヤかずにはいられない。
♬~ふんばれふんばれ、チータン。戦い終われば、戦い終われば、愛しいあの娘の胸の中で~♪
ん!?
歌が聞こえる。
『ふんばれ、チータン』の主題歌だ。
空耳ではない。
どこかで聞いた歌声。
そうだ、ソフィが歌ってるんだ!
「鉄太、鉄太に勇気の出る魔法をかけてあげる。皆んなも一緒に歌って!」
「「「おう」」」
ソフィの呼びかけに皆んなが応えてくれた。
「「「♬~ふんばれふんばれ、チータン。戦い終われば、戦い終われば、愛しいあの娘の胸の中で~♪」」」
勇気百倍、
矢でも鉄砲でも持って来い!
そんな気分になったらアランの右フックが襲ってきたのでダッキングでかわした。
「こら鉄太ッ。ボクシングの弱点を思い出せ。それから肉を斬らせて骨を断て。身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ。とにかく一度見事に死んで見せい。骨はワシが拾ってやる」
じいちゃンのダミ声はよく通る。
わかってるよ。
動画で見たんだ。
1976年に日本で行われた世紀の一戦。
アントニオ
ボクサーは寝ている相手には攻撃する術を持っていない。
だがアランは柔道も得意なのでお構いなしに寝技を仕掛けてくる。
そこがチャンス。
オレは地面に寝そべった。
技をかけようと夢中になっているアランは油断している。
オレは馬乗りになろうとしているアランの金的に
トドメにひるんだアランの鼻っ柱に頭突きを炸裂させた。
だがやはり体格差は埋められない。
オレはアランのぶっとい両腕にベアハッグされてしまった。
だんだんと気が遠くなっていく。
そんな中、かすかにパトカーと救急車のサイレンの音が聞こえたのは空耳だろうか。
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