第5話「その血の運命(さだめ)」

 慣れない土地で勉強や交友、バイトに精を出して三年。


 新しく好きな相手も出来て、今回は無難に告白をOKして貰えて付き合えた。


 彼女の名前は佐藤美樹。


 俺より誕生日が三か月早い同学年で、実家が工場を経営するちょっとした金持ちで、ミキ本人も大学で一二を争う美人で優しい人だ。


 そんなミキと交際を続け、大学卒業や就職を考える時期のある日。


「ねえ和人。あんた、どこまで本気なの?」


 俺の部屋でミキと一緒にだらだらしてたら、ミキが不意にそんな事を言って来た。


「ん?悪い、良く分からなかった。何に対して本気なのか聞いたんだ?」


「それはもちろん、私たちの事よ。その……結婚とかする気、ある?」


「まあ……このまま大学を無事に卒業して、就職も出来たならその後にって考えていたけど」


「つまりあるにはあるんだよね?」


「……ああ」


 恥ずかしいなこれ。


 逆プロポーズでもされた気分だ。


「じゃあさ。ちょっとお願いがあるんだけど」


「何?」


「私のお父さんに会って欲しいの」


「ミキのお父さん?ミキの親って、母親だけじゃなかったか?」


「戸籍ではそうだけど、実はお父さんもちゃんといるの。でも訳アリで、私のお父さんについて知ったら、私まで嫌われるかも知れなくて、どうなるにしても早い内に会って欲しいの」


 訳アリの父親か。


 俺の親が訳アリまくりだから、ミキと似た心配があるにはある。


「分かった。実を言えば、俺の親も訳アリでな。ミキのお父さんと会った後は、俺の親とも会って欲しいんだが、いいか?」


 ちなみに俺は苗字を花京院から実母の旧姓の伊藤に変えさせて貰った。


 花京院って苗字は珍しい上に有名なので、見知らぬ土地で花京院の苗字を使うと第一印象が悪くなって人間関係がベリーハードになるからな。


 それと俺が自分の家族についてあまり話さない事もあってミキは俺の家族についてよく知らない。


「うん。その……何があっても、私を見捨てないでね」


「もちろん」


 どちらかと言えば、ミキのお父さんの事より俺の親の事でミキが俺に幻滅しないかがもっと心配なんだよな。


 そんな、ミキに俺の親を紹介する前座みたいな軽い気持ちで臨んだミキのお父さんとの顔合わせ。


 待ち合わせ場所のファミレスに入ると……


 ………


 ミキの隣に父さんが座ってた。


 先走って義父さんって呼んだ訳じゃない。


 本当に、俺の父親の花京院恭一がミキの隣に座っていたのだ。


 遠目でそれを見た瞬間、俺の頭に最悪な予想が浮かび上がった。


「あっ、和人!こっち!」


 俺を見つけたミキが手を振り、つられて俺を見た父さんの顔が真っ青になる。


「ああ……」


 俺は呼ばれるままミキの向かいの席に座った。


 どうも喉がカサカサになった気がして俺の前に用意されてた水を飲み干す。


「えっと、その顔色を見るにもう知ってるかもだけど、この人が私のお父さんの花京院恭一。お父さん、こっちは私の彼氏の伊藤和人よ」


「………」


 最悪の予想を当てるかのようにミキに父さんの事を紹介され、俺と父さんは無言のままお互い目を合わせずにいた。


「……訳を説明しよう」


 先に父さんが切り出した。


「もう二十年も前の昔、花京院グループの事業でこの近方の工場との連携が必要になったんだ。でもその時、工場オーナーの佐藤家から、独身で行き遅れた娘さんが子供を産む為の種として俺の種を要求してだな」


「ああ、分かった。もうそれ以上言うな」


 もう聞くまでもないので父さんの話をぶった切った。


 つまりあれた。


 いつもの父さんの営業で出来た娘が、ミキだったという事だな?


 即ち、俺とミキは腹違いの兄妹だったと?


 いや、ミキの誕生日が早いから姉弟になるのか?


 ……は?


 あり得ないんだが。


 どうして初恋のサオリに続いてその次のミキとの関係までも、親の割食って台無しになるんだ?


 俺は前世で何か重い罪でも背負ったのか?


「和人?父さん?二人って知り合いなの?」


 まだ事情を把握出来てないのか、俺と父さんの話を聞いてたミキが不安そうに聞く。


「実は……こちらの和人も、俺の子供なんだ」


「えええっ!?」


 訳を知ったミキが声を出して驚く。


「でも和人の苗字は伊藤だけど……あっ、私みたいに外で作った子?」


「いや、ちょっと家庭で揉め事があって、苗字を花京院から変えて家から出てたんだ」


「つまり、和人は……私の腹違いの弟?」


「………」


 父さんは物凄く気まずそうに頷く。


「……いや、でも、戸籍だと二人は赤の他人になっているから、結婚しても問題ない。だから二人が本気なら、知らなかった事にして結婚してもいいと父さんは思うぞ」


 誤魔化すように父さんが言っているけれど、もう空気からして手遅れなんだよな……


「えっと、その、ごめん。ちょっと一人で考えさせて」


 混乱したミキは、そう言って席を立ちファミレスから飛び出した。


 そうして俺と父さんが残され、俺は静かに父さんを睨み付けた。


「……すまない」


 空気に耐えられなかったのか、父さんが先に謝罪して来た。


「話を聞くにミキの事を認知はしてなかったそうなのに、こんな場には出て来るんだな」


「いや、その、俺も距離を置こうと思ってはいたが、昔子供だったミキが父親がいないと寂しい思いをしているとあの子の母親に聞かされて、流石にな。たまに会って遊んだりしたんだ」


「そうかい」


 そしてまた二人して沈黙する。


 今度は俺が先に口を開いた。


「別にさ。ミキの事だって、父さんが望んでやった訳じゃなくて母さんたちに押されての事だと察せるんだけどさ。一度ならずとも二度も俺の恋愛を台無しにされるとな。……流石に恨むぞ」


「すまない」


 もう謝る事しか出来ないよな、この人は。


 せめてもの詫びにと、ファミレスのメニューを父さんの支払いで好きなだけ注文して食べた後、そのまま解散となった。


 これからどうするか。


 俺の答えは決まっている。


 今日の事は知らなかった事にして、ミキとの交際を続ける。


 何があってもミキを見捨てないと約束したしな。


 そう思ってミキの連絡を待つと……


『ごめんなさい。私、弟と付き合うのは考えられないの。私の事は忘れて欲しい』


 って、レインメッセージが届いた。


 そっちが俺を捨てるのかよ!


 俺は何とかミキを引き止めようとメッセージを送ったり、大学で直接会って説得しようとした。


 だが、メッセージは無視され、大学でもミキが先に「和人とは家族の反対で別れた」って噂を流してたのでミキの友人たちにガードされ、まともに取り合って貰えず。


 俺とミキは仲直りする事なく疎遠になり、大学を卒業してしまった。


 その後ミキがどうしてるかは、友達の伝手で元気してるとしか知らない。




 さらに二年が経った。


 俺は就職した会社が都会にあったために都会に戻って一人暮らししている。


 するとある休日に実家から呼び出された。


「いらっしゃい和人。急に悪いけど、子供たちの世話のお手伝いをお願い出来る?休みを取った人がいて手が足りなくてね」


 実家に向かうと、子育て担当のケイコ母さんから歳の離れた弟妹の世話の手伝いをお願いされた。


 見ると産まれたばかりに見える赤ん坊もいる。


 上の兄や姉が子供を産んでもうおじいさんなのにまだ弟妹が増えてるとか、父さんは色々と化け物かよ。


 まあでも、大学の編入とか就職とかで世話になった事もあるので、少しでもお返しになれればと思い引き受けた。


 赤ん坊の世話は流石に怖いので、俺は五歳以下の子たちの遊び相手をメインに手伝った。


 弟妹の中には、父さんとサオリの娘もいた。


 もし、サオリと結婚したのが父さんじゃなくて俺だったら、この子は妹じゃなくて娘だったかもと思うと、複雑な気持ちにならざるを得ない。


 そんな気持ちを飲み込んで、定期的に実家で弟妹の世話の手伝いをしてたある日。


「かずとおにーちゃん!あたし、かずとおにーちゃんがしゅき!おおきくなったらおにーちゃんとけっこんすりゅ!らからほかのおんなのひととけっこんしないで!」


 サオリの娘な妹が急にそんな事を言って来た。


 まあ、さっき母さんの一人から「和人はそろそろ結婚しないの?」と話してたのを聞いたからかも知れない。


 しかしな。


「ごめんな。兄妹は結婚出来ないんだ。君は大きくなったら他にいい人を探すんだよ」


 俺は変な期待を持たせるべきでは無いと思いはっきりと断った。


 ふと、自分の姿が昔俺を振ったミキに重なった気がした。


 妹は「やだー!!!」と泣き出したが、こればかりはどうにもならない。


 ミキの時と違って、俺とこの妹はちゃんと戸籍に兄妹だと載ってるんだからな。


 その後、妹は自分が俺と結婚出来ない理由が妹と俺を兄妹をして産んだ父さんにあると思ったみたいだ。


 それで父さんに「パパなんてきらい!あっちいって!」と恨み言をぶつけ、父さんは分かりやすくショックを受けた所を見て、ほんの少しだけスッとした。



―――――――――――――――

 これにてこの番外編は終了となります


 ここまで読んでいただきありがとうございました<(_ _)>


 この後は、また間をおいてモチベと溜めて書き溜めし、第二部を書くつもりでいます


 今更更新再開してもどれだけの方に見て貰えるか分かりませんが、高校生活半分で終わった事にどうしても未練が残るので、半分自己満足で書くつもりです


 とは言え、今の調子だと多分再開は9月あたりになると思われます


 第二部の内容を少し先出ししますと、時間を高校二年二学期が始まる所に戻し、恭一が事故で記憶喪失になって自分のハーレム状況に戸惑うとか、記憶喪失に付け込んでイチゴが恭一に色々嘘を吹き込んだり新ヒロインを引きずり込んだりして悪い遊びをしたり、自分で蒔いた種に逆襲されたりなどの内容を想定しています

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歪んでいる彼女の邪悪さが止まる所を知らない 無尾猫 @aincel291

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