第4話「かなり最低な失恋」
サオリの告白から逃げ出した父さんだったが、結局は花京院家のSPの人たちに捕まって家まで連行された。
そして実家の屋敷にて家族会議が開かれた。
父さんやサオリは当然出席するとして、サオリのお母さんも出席。
そして父さんの妻の表看板なアリア母さんと裏看板なイチゴ母さんも出席した。
他には事の成り行きに興味のある家族がぼちぼち様子を見に出席したくらい。
もちろん、俺も出席している。
……ほぼ蚊帳の外だけど。
「はーい。それじゃあ家族会議を始めまーす。議題は、サオリちゃんがパパさんに告白した件について!」
複数の長いテーブルを正方形の形に並べ、それぞれ適当な場所に座った部屋にて。
髪を切り揃えて眼鏡を掛けてるイチゴ母さんが声を上げて仕切り出す。
「最初に確認するけど、サオリちゃんはウチのパパさん……花京院恭一の事が本当に好きなんだよね?」
「はい」
「いつから?」
「中等部二年生になって、恭一さんが担任の先生になった時からです」
そう言えばその時期、父さんが臨時の教師をやってたな。
あの時、俺はサオリとクラスが違ってたから、サオリと父さんがどんな感じだったのか知らないけど。
確か初等部から中等部二年生になるまで、サオリは絶妙に父さんと会う機会が無くなりお互い人伝手で様子の聞くだけで、中等部の時が久しぶりの再会だったと聞いた気がする。
「恭一さんは格好良くて優しくて、あの時からずっと好きでした」
そして今にして思うと、俺がサオリに振られ続けていた理由は、高等部に入った時点でサオリはもう父さんの事が好きだったからだと理解出来た。
「パパさんはサオリちゃんの告白を受ける気は…」
「ない」
父さんはイチゴ母さんの質問に被せ気味に即答した。
「根本的な倫理とか道徳の話として、自分の子供と同世代な上に娘みたいに思ってた相手と付き合ったり結婚するとかあり得ないだろ」
「
イチゴ母さんの言う通り、現代の倫理や道徳から逆行するハーレムやってるんだよな、ウチ。
「うるさい。ここまで歳の離れた子に手を出した事は無かっただろうが」
「それはそうだったねー」
父さんの主張を聞き終えたイチゴ母さんは、今度はサオリの方を向く。
「って事らしいけど、サオリちゃんは諦める気はある?」
「ありません」
サオリの気持ちも固そうで、イチゴ母さんの問いに即答した。
「そっかー。じゃあ、やっぱり妥協点を探さないとねー」
イチゴ母さんが考え込むみたいに人差し指をこめかみに当てた時。
隣に座ってた妹が俺を肘で突いて来た。
「……何だ?」
俺は家族会議の邪魔にならないように小声で反応した。
「いや、和人兄さんは何も言わないの?サオリ姉さんと仲良かったじゃん」
「何も言えねえよ。俺はとっくに振られたんだから」
「えっ、いつ?」
俺の返事に、妹は本気で意外そうに驚いた。
そういえばこの妹は俺が振られたのを知らなかったな。
「高等部に入ってから今まで何度も」
「うっそー。高等部の時もずっと仲良かったじゃん。振られたのにどうして?」
「俺も分からん」
妹と小声で話している傍ら、父さんは必死にサオリを説得していた。
「サオリ。俺は君の事を娘のように思っているんだ。そもそも君は和人と仲が良かったじゃないか。そっちはどうなんだ」
「私は恭一さんを父親代わりとか思ってません。ちゃんと一人の男性をして好いています。そもそも和人の事だって、私が恭一さんと結婚したら和人は義理の息子になる訳ですから子育ての予行練習として和人の面倒を見て来たのです」
「は?」
明かされた衝撃の真実に父さんはもちろん俺もドン引きした。
知ってから振り返ると思い当たる節は多いんだけどさ。
まさか本気で同い年の幼馴染が義理の母親になるとか漫画みたいな事想像できる訳無いだろ?
「………うっそー」
隣の妹も似た気持ちらしい。
周りを見渡すと、兄弟姉妹は大体ドン引きする顔で、少数が呆れた顔だった。
「それに、和人なんて恭一さんと比べたら下位互換じゃないですか」
「………」
更に言い出されたひどい言い分に、気のせいか一部の兄弟姉妹が俺を憐れむ目で見ている気がする。
一方、母親たちは(仕方ない子だねー)って顔をしている。
「母さんたちはいいんですか?父さんがサオリとも結婚しても」
「構いませんよ。むしろ、旦那があんな若い子にまで人気があるのだと自慢出来ますから」
俺の質問に答えたのは、他でも無い父さんの妻の表看板である金髪美人なアリア母さんだった。
他の母親たちはアリア母さんの意見に追従するように頷く人がぼちぼちいて、明確に反対する人はいなかった。
「……そうか」
ショックだけど、確信した。
この件、少なくとも母親たちは事前に知っていた上で認めていたのだと。
でないとサオリが父さん相手に告白した上で食い下がるなんて無謀な真似をするはずがない。
味方の当てがあるから行動を移しているんだ。
それに多分だが、未成年で学生の内に告白すると色々不味いから、高等部を卒業したら~と話を付けていたのかも知れない。
ああ、思い出した。
ウチの母親たち、自分たちは一切接待仕事とかしない癖に、父さんばかり自慢するように切り売りする人たちだったわ。
そんな風にトチ狂ってないと今時ハーレムなんてあり得ないもんな。
「このままだと平行線だねー。明日からだって予定が詰まっているのになー。しょうがないから、アレを出そうか」
父さんとサオリの話し合いが平行線のまま続く様子を見たイチゴ母さんが、テーブルの下から何かの紙切れを取り出した。
「そ……それは……!」
その紙切れを見た父さんの顔が青ざめる。
「そう。これはいつになるか分からない昔、一か月ほど一人での休みを欲しがっていたパパさんが、休みの代償に作った『何でも言う事聞く券』!」
父さん、そんなもの作ってでも休みが欲しかったのか……。
父さんの仕事と言えば毎日母親たちと一人ずつデートする事だから、一か月も休めばその間お預けを食らう母親たちが黙っていないと思うが。
だからこそあんなリスクの高い物を作って母親たちを納得させたんだろうが。
しかしこの場面でそんな物が出たって事は、もう決着が着いたな。
「これをー、卒業祝いとしてサオリちゃんに進呈しまーす」
「では、私をそれを使って恭一さんに私との結婚を要求します」
やっぱりああなるのか。
さらば、俺の初恋。
「……断る!そんなもの知らん!」
しかし父さんはまだ抵抗した。
「いいの?これの代わりに私たちが色々我慢したのを踏み倒しても。そんな事したら、ペナルティとして私たちはもっと遠慮しないよ?取りあえず向こう十年は休み無しで色々やって貰うから」
イチゴ母さんは厳しい顔つきをして父さんを睨んだ。
極端な話、父さんが母親全員と離婚して逃げれば済む話かも知れないけど、逃げさせて貰えないんだろうなー。
その上で色々と何をさせられるかは、想像するのも恐ろしい。
俺と同じような事を思ったのか、父さんが項垂れた。
「……俺の……負けだ……」
「やった!」
絶望する父さんと、喜ぶサオリが対比的に見える。
あの二人が結婚するって言うのに温度差が大きいな。
一番重要な話が決まった後は、籍入れや結婚式のタイミング、そして世間への対応をどうするか母親たちを中心に話し合い、解散となった。
それを見届けた俺は……実家がある都会を出て他の街に引っ越す事にした。
あんな事になってしまったが俺がサオリを好きだったのは間違いなかった訳で。
もしサオリと父さんが夜を一緒に過ごした事を匂わせられたりでもしたら、ストレスでメンタルが壊れる自身があった。
かと言って父さんを恨んで復讐しようとかそんな気持ちにはならなかった。
貧乏だの虐待だの色んな家庭事情について聞いて来た今、俺は自分が恵まれた家庭で可愛がられて育ち、かと言って傲慢な性格にもならないようにしつけられてちゃんとした人間に育てて貰ったという自覚がある。
何よりも子供の頃から欲しい玩具やゲーム、最新のゲーム機やパソコンにスマホも大体買って貰えて、大きくなった後は大学まで問題なく行かせて貰えるだけじゃなくて就職もコネで解決してくれるスーパー恵まれてる家は他に無いと断言できる。
その恩に比べると、付き合ってた訳でもなく振られた相手を父親に取られたくらいで恨む事は出来ない。
でもサオリと父さんがイチャイチャする空間の近くにはいたくなかった。
なのでイチゴ母さんとかに頭を下げて、元々合格してた大学への入学をキャンセルし、他の街に引っ越した上にその近くの大学にコネとか金とか権力とか使って編入出来るよう必死にお願いした。
幸いにもイチゴ母さんたちは快く俺のお願いを聞き入れてくれた。
「今までにサオリちゃんの相手お疲れ様」
って言葉を添えられながら。
その時に思い出した。
もう朧気にしか覚えてない子供の頃、サオリが父さんにハーレムを否定するような事を言った事で、イチゴ母さんがちょっとだけ怒った事を。
まさか、サオリを父さんのハーレムに引きずり込んだのはあの時の復讐だったのか……?
サオリの父さんが亡くなったあの事故も?
いや、まさか。
まさか……な。
そんな邪悪な真似、人として出来る訳ないよな?
まあ終わった事だしどっちでもいいか。
俺はこれから、親とは関係のない所で自分なりの幸せを掴むんだ!
―――――――――――――――
もうちょっとだけ続きます
和人にしたら続かなかった方が幸せかもですが
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