ましゅまろ・てすと
石濱ウミ
我慢しましょう
「なッ、なあ? も……もう、良いんじゃない? な? もうやめよ、う……な?」
「ん……まだ、駄目。うーんと我慢すれば、いっぱい甘いご褒美を貰えるの
「だって、さっきから……もう、ずっとこん……な、あッ……ああぁ。も、我慢できない……ホラだってもう、う、動いっ……」
「うん、ツラいよね? でもね? ダメ。動かない……約束したでしょ、ね? ホラ見てて? まだ、もう少し我慢できるから、大丈夫」
「そ、んな……ぃやだッ、オレもう……おか、おかし……クッソ。……な? 良いだろ? 欲しがるだけ、いっぱい……いっぱいあげちゃダメ? お前だって欲しいだろ? な?」
「えー? そんなこと言ってもダメ。知ってるでしょ? うーんと我慢した方が、凄く良いってこと、……ね? ちゃあんと分かってるよ
「ああぁ……も、もう無理。無理だからッ」
「……そうかなあ。まだまだ我慢できるよ。ね? ……んー? あれ? あれれ?」
「……ッで、出来ない、って。あ、ああッ」
「ねえ、もしかして……手、動かそうとしてない? ザンネン、ちょっと早いかなあ」
「う……ッあ。し、して……してない、して……して、た? あ。じ、じゃあさ、チョットさわッ触るだけ、は? 触るだけ。なら良いよな? な? な? 良い、でしょ? ね?」
「触る? ちょっとだけ? うーん。そんなこと言うけど……途中でやめられる? 少し触っただけで我慢出来ると思うの?」
「そ、そう? いや、うっ……そう、かも。そうだよな。だったら……触るのは、ナシって……え? あ、嘘。ま、待って待ってまって……さ、さわッ? 触っちゃ……ダメって言ってたのに、い、いま触ったら……あ、あ、あっ、ああ、あーっ、ぐりぐりしちゃダメ…………って、え? あ、あ…………あ、嘘だろ。触ったその指。………なっ……舐め、た? 舐めたよね?」
「あー……うん。あはッ。指、舐めちゃった、ね? 指についちゃったかな?」
「も、もう駄目だ……い、イク。これイっちゃうイっちゃうから……あ、あ、あ」
「ふふ。まーだ大丈夫。ねえ、見える? 身体が勝手に揺れちゃってる。可愛い。もっと舐めちゃおうかなあって……ホラ、小っちゃいおくちから透明な涎が、さっきよりもいっぱい垂れてきちゃったね?」
「も…………無理無理むりむりムリムリ」
「しーーッ。黙って……ね? おくち押さえててあげよっか。手も、ちゃんと掴んでてあげるから、ね?」
「うぐっ、やだっはなッ、離せ離して。もう……手、手も離して。頼むッ頼みます……げ、げんッ限界」
「ちょっと静かにしようか? いま手を離したらすぐにイっちゃうよね? ……あーあ。甘やかし過ぎちゃったかなあ……頑張れ……ご褒美まであと少しだよ?」
「…………ッ、あ。も、も、もう……」
………………。
…………。
……ピ、ピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ。
タイマーのなる音に、びく、と一瞬だけ身体を跳ねらせたあと、掴まれていた手を振り払い、隠れて覗き見していた扉を開け放しダイニングルームへ飛び込む。
テーブルの上の皿に置かれた大好きなマシュマロを前に、座る幼い我が子を、ひしと抱きしめた。
「
きょとん、とした顔で父親の泣きそうな顔を見上げた
「ああ……良かった。指で触ったときは、もう、このままマシュマロぱくッとイッちゃうんじゃないかって……」
「うーん、ギリセーフ? か、なあ? でもさあ、あと五分あったら完全に食べちゃってたよね?」
「ま、ママ??! 十五分で充分だろ?! まだ、たった三歳なんだぞ? マシュマロ実験なんてしなくても……」
「パパは、甘々ですよねぇ?
「甘くないッ」
「ええー? 将来、
「……え? み、見守るってこと…………だよね? いや、わかッ分かってる、分かってるよ? ……うん、見守る。見守るよう努力します」
「うーん? 本当に? でも、あれ? あー、ふふっ。何か違うの想像しちゃった? そうだなあ、そっちの方法で我慢を覚えてみるのも楽しそう。ねえ、後で試してみようか?」
「………………えッ?」
《おしまい》
※マシュマロ実験(マシュマロじっけん)、またはマシュマロ・テストとは、子ども時代の自制心と、将来の社会的成果の関連性を調査した著名な実験。スタンフォード大学の心理学者・ウォルター・ミシェル(英語版)が1960年代後半から1970年代前半にかけて実施した。
――Wikipedia『マシュマロ実験』参照
ましゅまろ・てすと 石濱ウミ @ashika21
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