住所

花宮零

住所

 俺は新崎勉しんざきつとむ。三十三歳。職業は高校教師。生徒達は冬休みで学校には来ない。バカップルで溢れた人ごみを掻き分けて学校に行き、年内にやるべき仕事を終える。

 その仕事のうちの一つが年賀状だ。今の時代に教師から年賀状を貰って喜ぶ高校生が存在するのかは不明だが、古き良きこの学校は年賀状のような伝統を重んじる。予め学校の住所と俺の名前、そして相手の住所と名前がプリントされた年賀はがきに一言一言書いていく。教師の俺が言うのもなんだが、子供達にも色んな特徴がある。よく話す奴、あまり話さない奴、目立つ奴、目立たない奴。よく話す奴は書きやすいが話さないやつはどうだろう。生徒同士で年賀状を見せ合いっこなんてことは無いだろうが、質や量に差が出ないようにあえて皆同じような文面にする。

 そして十二月二十七日。全ての年賀状を書き終えた俺はぐーっと伸びをし、他の教員が書いた年賀状と纏めて教員室の箱に入れる。これで俺も仕事納めだ。そう思いながらカバンに荷物を詰め、厚手のコートを羽織り、鍵が閉まっているか確認し帰路に着く。

 年末年始に特に変わったことをする訳でもなく、紅白歌合戦やゆく年くる年を見ながらダラダラと過ごし、雑煮を作るのも億劫でコンビニの具沢山豚汁で代替する。

 一月三日。そろそろまた学校に出向かなければならない憂鬱さを欠伸あくびとともに噛み殺し、何となく郵便ポストを見る。マメなやつは今の時代もせっせと年賀状を送ってくれるらしい。一日から細々と俺の元にも年賀状が届いている。

 今日の年賀状は、と。高校の時の友人、弓道部の恩師、これはデパートの葉書。ある程度仕分け、返事を書こうと思ったその時、隠れてもう一枚年賀状が混ざっていることに気がつく。




 神奈川県相模原市○○区○○町○-○○-○


  新崎勉先生


 神奈川県相模原市○○区○○町○○-○-○


  大塚みゆき




 ほう、もう返事を送ってきた生徒がいるのか。高校生は皆LINEで「あけおめ!」などと送って済ませ、教師の年賀状など年明け最初の授業で手渡しだと思っていたのだが。
















 ……待てよ。年賀状は学校の住所で出したはずだ。なら何故、この生徒は俺の住所を知っている?














ピーンポーン。















「先生〜。新年明けましておめでとうございま〜す」

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住所 花宮零 @hanamiyarei

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