Raining 37.5話 修斗と達己の初詣

惣山沙樹

Raining 37.5話 修斗と達己の初詣

 一月一日。さすがにこの日はショットバー・Rainingレイニングは休みだ。

 午前中の割と早い時間に、その店の店主とアルバイト、修斗しゅうと達己たつきは駅前で待ち合わせていた。


「シュウさん! 明けましておめでとうございます」

「達己。おめでとうございます。今年もよろしくお願いします」


 初詣をしよう、と持ちかけたのは達己の方からであった。店の近所にある、厄神を祭った小さな神社。そこへ行こうと前日にラインをしたのである。


「大晦日のお店はいかがでしたか?」

「人間のお客さんがぼちぼち来てくれたよ。売上もそこそこいった」

「それは良かったです」


 二人は連れ立って人通りの少ない路地を歩いた。背の高い修斗を時折見上げる形で、達己が話しかけていた。


「シュウさん、原因不明の頭痛で倒れたからな。商売繁盛より厄神さんの方が良いと思って」

「なるほど。ありがとうございます」


 しかし、達己の目的は他にもあった。


「ちょっと一服してから行きますか」


 神社の敷地内、駐車場の横の喫煙所で、達己はショート・ホープを取り出した。


「ここなら吸えるとご存じだったんですね?」

「そういうこと。神さまには、後で吸わせてもらってありがとうございますって言っときゃいいだろ」


 旨そうにタバコをくわえる達己を見て、修斗も久々に一本吸いたくなったが、「お客さま」たちのためにやめておくことにした。


「出店とか、ほとんど出てないんだな」

「そうですね。あっ、でもベビーカステラがありますよ。あれ買って帰りましょう」

「相変わらずシュウさんって甘いもの好きだよな」


 二人は本殿の前まで来た。並んで一礼し、手を合わせた。


「シュウさん、何てお願いした?」

「秘密ですよ。達己は?」

「じゃあ、俺も秘密。あっ、おみくじ引いて行こうぜ!」


 ここのおみくじは一回二百円。何の変哲もない、普通の紙のおみくじだ。


「達己、どうでした?」

「末吉だって。なんかパッとしねぇなぁ。シュウさんは?」

「大凶でした」

「うわぁ」

「ここまで来ると、逆に清々しいですね?」

「っていうか大凶とか入ってるんだ……初めて見たわ」


 二人は仲良くおみくじを枝に結び、ベビーカステラを買った。


「この後ですが、うちに来ますか?」

「えっ、いいの? シュウさん」

「はい。これで一杯やりましょう」


 そう言って修斗はベビーカステラの袋を指した。


「こいつをアテにすんの?」

「ええ。うちに甘酒がありますから、それで」

「甘いものに甘いもの合わせんの!?」


 達己は渋ったが、実際、その二つの組み合わせは悪魔的に美味しかった。


「やべぇ。こりゃやべぇわ。糖分が身体中を突き抜けてホカホカしてきた。カステラ、でかいの買っときゃよかったな」

「そうですねぇ。すっかり食べきってしまいました」


 修斗の部屋のローテーブルを挟み、バーテンダー二人はすっかりリラックスしていた。


「他にお酒とか無いの?」

「デュワーズならありますよ」

「さすがシュウさん」


 一度修斗は台所へ行き、グラスに氷を詰め、デュワーズでハイボールを作って戻ってきた。


「結局、これに落ち着くよな」

「そうですよね」


 ハイボールで乾杯した二人は、今年の抱負を語り始めた。


「僕はまず、健康第一ですね。また倒れてご迷惑をかけないようにします」

「だな。俺は……そうだな。もっと色々、お酒作れるようになりたいな」

「いい心がけですね。達己にはまだ教えられることが沢山ありますから」


 結局、その日は昼食、夕食も共にとり、夜中まで達己は修斗の部屋に居た。


☆☆☆


 バーテンダー二人の平和なお正月、いかがでしたでしょうか? 本編はこちらです。


Raining~吸血鬼の集うショットバー~

https://kakuyomu.jp/works/16817330649352335828

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Raining 37.5話 修斗と達己の初詣 惣山沙樹 @saki-souyama

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