異世界から来た純真無垢な金髪美少女と、お正月もまったり過ごしているんだが

汐海有真(白木犀)

異世界から来た純真無垢な金髪美少女と、お正月もまったり過ごしているんだが

「ん、ふわあああ……」


 窓から差し込む陽の光で、目を覚ます。俺は欠伸をしながら、上体を起こした。デジタル時計を見ると、一月一日の午前十一時過ぎを示している。寝坊で始まる新年も悪くないよね、と取り敢えず自分に言い聞かせてみた。


 敷き毛布と掛け毛布のサンドイッチにされながら眠るのは、中々至福なんだよな。まあ、ベッドが一番寝心地がいいんだけど……そんなことを考えながら、立ち上がってベッドの方を見る。


「すう〜、すう〜」


 そこには、穏やかな寝息を立てている少女の姿があった。緩くウェーブのかかった金色の長髪が、布団からはみ出ている。


 こいつの名前は、へレザ=ティールアノン。異世界から修行のために日本に来た、天然系世間知らずお嬢さま魔法使いだ。……いや、突飛だよね。わかるよ。へレザと出会ってから二ヶ月弱経ってるけど、俺も未だに若干信じられていないからね、この現実を。


「おい、へレザ、起きろー」

「う〜ん、むにゃむにゃ……あと六時間だけ……」

「そんなに寝たら日が暮れるんだが! 起ーきーろー」


 俺はへレザから布団を剥がす。うさぎ柄のパジャマ(通販で買った)に身を包んだへレザが、寒そうに身体を丸めた。


「うう〜、寒いです。そうだ、魔法で世界の温度を一時的に十度ほど上げましょう……」

「温暖化を意図的に引き起こそうとするな! ほら、暖房つけるから起きてくれ」

「むう、カナメくんは冷たいです。まるで、アイスのよう……」


「何とでも言え。あ、年賀状届いてるかな、ちょっと見てくるから起きといてね」

「はーい……すやすや……」


 不穏な台詞を残しているへレザを置いて、俺はフリースを羽織って部屋を出る。一階のポストを見ると、一枚だけ年賀状が届いていた。……いやあの、友達が少ないとかではなく、多分実家の方に届いてるんだと思います、信じてください。


「こっちの住所にくれたとなると、朝妃あさひかな……」


 呟きながら確認すると、予想通り「鈴鹿すずか朝妃」と綺麗な字で書かれていた。裏返すと、雪うさぎを模したイラストに、文章が添えられている。


『あけましておめでとう! 大学に友達が余りいない要が可哀想だから、今年も仲良くしてあげるわよ! ……か、勘違いしないでよね! 私が貴方と仲良くしたいんじゃなくて、ぼっちの要を見ていると、いたたまれないだけなんだから!』


「ぐはあっ!」


 読み終えた俺は、うなだれる。大学でぼっち気味という事実を新年から突き付けられて、大ダメージだ。流石朝妃、相変わらず俺のことが嫌いみたいだな……。でも嫌いな相手に、何でわざわざ年賀状を送るんだろう? 先制攻撃かなあ。


 俺はとぼとぼと、階段を昇って部屋に戻る。ドアを開けると、予想通り布団を奪還してすやすや眠っているへレザの姿があった。なんか起こすのも面倒くさくなって、俺は取り敢えず朝ご飯(昼ご飯かもしれない)の準備を始めた。


 ◇


「へレザー、ご飯できたぞー」

「むにゃ……わーい、ご飯〜!」


 颯爽と布団から抜け出して、へレザはローテーブルの近くに着席した。こいつ、さっきまではあんなに起きなかったくせに、ご飯をちらつかせたらすぐ起きたな……


 へレザは瞬きを繰り返しながら、首を傾げる。


「あれっ、なんかいつもと違いますね? 何ですか、これ〜?」

「おせちとお雑煮だ。日本ではこれを正月に食べると、なんか縁起がいいらしい」

「なるほど〜! わくわくしますね!」


「そうだな。それじゃ……あけましておめでとう、へレザ。今年もよろしくな」

「あけましておめでとうございます〜、カナメくん。今年もよろしくお願いします〜!」


 へレザと新年の挨拶を交わし合ってから、いただきますと言って食べ始める。


「ところでカナメくん、この金色のまあるいやつは何ですか〜?」

「それは『栗きんとん』だな。美味しいぞ」

「へえ、栗きんとんさん! わたくしと色が似ているので、親近感です〜!」


 笑顔で栗きんとんを頬張るへレザを見ながら、俺はたづくりを食べる。たづくり、マジで美味しいんだよな……


「おもちも食べなくてはです! おっもち、おっもち〜♪」


 楽しそうに「おもちソング」を歌いながら、へレザはお雑煮の中に沈んでいるもちを箸で掴んだ。はむっと噛んで、むにゅーと伸ばす。


「おいひーです〜」

「それはよかったよ」


 自分のお雑煮に一味唐辛子をかけながら、俺は笑った。


「ところでカナメくんは、新年の抱負みたいなものはあるんですか〜?」

「ああ、抱負? ……大学で友達を増やすこと、かな」


 遠い目をしながら言った俺に、へレザはにこにこしながら頷く。


「へえ、いいじゃないですか〜! わたくしはこの世界でさらに研鑽を積んで、さらにかっこいい魔法使いになりたいです〜!」

「いいじゃん。ガンバ」


 俺が言い終えたのとほぼ同時に、インターホンが鳴らされる。


「あれっ、誰ですか〜?」

「ああ、多分由季ゆきだと思う。今日来るって言ってたから」


 答えながら、俺は立ち上がった。ドアを開けると、そこには予想通り妹の由季が立っている。黒のセーターと青色のジーンズというシンプルな出立ちだが、顔が良すぎるのですごい洗練されて見える。美人って得だな……


 由季はにやっと笑ってから、お辞儀をする。


「あけましておめでとう、兄さん。今年もよろしくね」

「あけましておめでとう、由季。こちらこそよろしくな」


「というか、外すごく寒いよ。中入っていい?」

「ああ、勿論。狭くて悪いが」

「全然構わないよ」


 由季は履いていたショートブーツを脱いで、家に上がる。


「あ、ユキちゃんじゃないですか〜! あけましておめでとうございます〜!」

「ふふ、あけましておめでとう。今年もよろしくね、へレザさん」


 由季は微笑みながら、ベッドに腰掛ける。それから、手に持っていた紙袋から、沢山のみかんを取り出し始めた。


「え、いや、何だその大量のみかんは!?」

「ああ、これ、親戚がくれたんだよ。ぼくと父さんと母さんでは流石に食べ切れないから、こっちに持ってきたんだ。へレザさんが食べるでしょ?」


「なるほどな……というか、正月に実家帰れなくて悪かったな」

「あはは、別にいいよ。へレザさんのこともあるしね。まあ冬休み中に、一回くらい顔見せてあげたらいいんじゃない?」

「ああ、そうするよ」


 会話している俺と由季の横で、へレザが「わあい、沢山のみかんです〜! うれし〜! みっかん、みっかん〜♪」と言っている。どうでもいいけど、「おもちソング」と「みかんソング」の音程、一緒なんだな……


「あとこれ、兄さん宛の年賀状。こっちに割と来てたから、持ってきたよ」

「おおおおお! そうだよ、俺には小中高の友達がいるんだよ!」

「何、急に叫び出してどうしたの。怖いな」


「でも大学の友達は全然いない……ぼっち……ぐすん……」

「しかも急に落ち込み出した。新年から情緒不安定だね、よしよし」


 妹の手に撫でられながら、俺は何枚もの年賀状を見つめる。みんな、ありがとう……


「うーん、みかん、めっちゃ美味しいです〜! もぐもぐ」


 へレザはローテーブルに五個のみかんを一列に並べて、そのうちの一つを食べていた。え、あと四つも食べるのか……?


「ありがとうございます〜、ユキちゃん! 甘くて最高です!」

「ああ、どういたしまして。お返しは身体で払ってくれれば構わないよ」

「おいおいおい、お前新年から何言ってんの!?」


 俺は愕然とする。当のへレザは、きょとんとした表情を浮かべていた。


「身体ですか〜? つまり、肉体労働ってことでしょうか! わたくし、お掃除が得意なんですよ〜!」

「へレザは相変わらずズレてるし!」


「ふふ、掃除よりももっと、気持ちのいい労働だよ」

「あああああ! やめろおおおおお! 新年からこの家をピンク色の空気に持っていくなあああああ!」


「ふむ、爽快感のある労働……つまり、アイスを食べながらのお掃除ですか〜!」

「アイスにほこりが付きそうなので、やめてほしいんだが!」


 俺はツッコみ疲れて、溜め息をつく。顔を上げると、既に三個目のみかんの皮を剥いているへレザと、にやにや笑っている由季の姿があって。


「……まあ今年も、楽しい一年になりそうだな」


 俺はそう呟きながら、ローテーブルの前に座り直す。


 窓から見える空は、新年に相応しい、文句の付けようがない青さだった。



 *・*・



 あとがき


 こんにちは、白木犀はくもくせいです。ここまでお読みいただき、ありがとうございます〜!


 この作品は、夕日ゆうやさんの自主企画「カクヨムコンのSS(ショートストーリー)を書いてみませんか?」のために書き下ろしたものです。


 カクヨムWeb小説短編賞2022に応募中の、『異世界から来た純真無垢な金髪美少女が、何故か俺の家に居候することになったんだが』という作品の後日談となっています。


 もしこの作品を読んでくださったあとで、「本編も気になるなあ」と思っていただけたら、最後のURLから覗いて貰えるとすごく嬉しいです。


 ではでは。段々と始まっている2023年が、素敵な一年になりますように〜!


『異世界から来た純真無垢な金髪美少女が、何故か俺の家に居候することになったんだが』

https://kakuyomu.jp/works/16817330650892005084

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